第3話 一人で二人

「ゲームセット!」

 審判が試合の終了を告げる。

「ありがとうございました。!」

 両チームの選手が整列して挨拶をする。そして自分のベンチに戻って帰り支度をする。

「那覇がいれば全国大会に行けるんじゃないか?」

「そうだな。おまえらがキャッチャーミット代を寄付してくれればな。」

「そんな金はねえよ。」 

 今日の試合だけで5個のキャッチャーミットが燃える寸前であった。キャッチャーミットは摩擦で黒焦げになっている。

「見ろよ。相手チーム。初めて那覇の投球を見て放心状態だ。」

「可哀そう。3カ月前の俺たちだな。」

「那覇パニック。2週間は何もする気しねえな。」

「ああ、野球をやめたくなるぞ。」

 相手チームは放心状態で動けなく、呆然としていた。相手チームの今の気持ちを那覇のチームメイトは3カ月前に体験していたので、相手の気持ちがよく分かった。

「よし、帰るぞ。」

「はい、具志堅監督。」

 那覇の少年野球のチームの監督は、俺のオヤジだった。

「那覇、ナイスピッチング。」

「ありがとうございます。監督。」

 具志堅監督は那覇を見ていると死んだ息子が生き返ったみたいで嬉しかった。小学1年生の那覇を起用している理由がそれである。

「きっとデニーが生きていれば、おまえみたいなピッチングをしてくれたはずだ。きっとあの世で喜んでいるだろう。うるる。」

 少し涙ぐむ具志堅監督。

(あの、俺、ここにいるんですけど?)

 俺は那覇に取り憑いているので、父親の側にはいた。ただし俺の声は聞こえないし、俺の姿は誰にも見えない。

(まあ、俺が取り憑いていれば、弱虫の那覇でもプロ野球選手になれるだろう。ワッハッハー!)

 説明しよう。俺は事故で死んでしまったが、プロ野球選手になりたいと夢のおかげで成仏せずに那覇に取り憑いた。

(フンフンフンフン!)

 幽霊になった俺は暇なので筋トレに励んだ。それによってひ弱な那覇の体でも、俺の筋肉ムキムキの剛速球が小1でも投げられるのだ。全て俺のおかげ。

「さあ、みんな帰るぞ。」

「はい。」

 こうして沖縄大会の初戦を勝利した。

 つづく。

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