異世界転生虐殺クロニクル -審判-

柳なつき

転生

 おれ、安藤新あんどうあらたはひきこもりのニートである。

 もうこれ以上生きていたって仕方ないと電車に飛び込めたら死ねた。

 おれの身体はバラバラだ。電車をとめられたし、なんもしてくれなかった家族に賠償金の請求がいく。そうやって満たされて死んだ――

 はず、だった。



「かわいそうに……」



 は? 誰がだよ。おれのことかよ。ほっとけ。

 ていうかなんも見えねえ。ここ死後の世界?


「ああ、みずから命を絶つだなんて、ほんとうなのかしら。

 いま、こうやって目の当たりにしてみても、信じられないですわ。

 わたしたちの美しき楽園の世界、サンタレーナではありえないことですわ。


 ……けど、ほんとうなのでしょうね。安藤新さん」


「は? それ、おれの名前」



 パッ、と明るくなった。


 なんか天使っぽいのがいた。翼もあるし、後光みたいなのさしてる。

 キレイなねーちゃんだ。清楚系って感じ。けどなんかおれはこーゆー女は苦手。

 天使っぽいねーちゃんはぺこりとていねいにおじぎをした。



「アンドウアラタさん。あなたに、同情いたしますわ。あなたを、わたしたちの美しき楽園の世界、サンタレーナに、お招きしましょう」


 天使は手を差し伸べてきた。とりあえず俺もその手を取った。

 そうしたらフワッと宙に浮かんだ。

 ふしぎだけどもうおれ死んでんだもんな。もう、なんでもアリだよな。


 ふわふわ飛びながら話した。


「アラタさんは、サンタレーナで、なにがしてみたいですか? お花摘み、お歌に踊り、お絵描き、ときにはカードゲームなんてことも。サンタレーナには楽しいことがいーっぱいありますよ!」

「……そうだなあ。ひとを殺してみたかったから、そういうのできるかな。いなかったらウサギとかでも妥協するけど」

「いやですわ、アラタさん、まだちょっと混乱していますのね……かわいそうに」


 後ほどわかるが、ウサギなんて俺の犠牲者になるには、レベル低すぎた。



 こうしておれは、美しき楽園の世界サンタレーナに転生した。

 天使のねーちゃんは、マザリアといって、後ほどわかるが七大天使のひとりだった。



 マザリアがおれ、安藤新を連れてきたせいで、平和だった牧歌的な世界は血と悲鳴に染まるということを、このときは俺もマザリアも知らなかったのだが――。





 と、いうことで、異世界に来てしまった。



「どうですか、アラタさん。この美しく広がる世界! あなたがたの世界とは違いますでしょう?」


 平和そのものの世界。

 黄緑色の草原が広がって青空には白い雲がある。

 幼稚園児にクレヨンを渡したらこういう絵を描きそうだ。


 けど幼稚園児の絵と違ってそこにはたくさん天使とか妖精めいた生き物が遊んでた。

 アハハアハハとか楽しそうでヤクでもキメてるみたいだった。



 おれはイラッとした。



 背丈は大きいのもいたけど、羽が生えて笑ってるそいつらがガキみたいだったからだ。


 ……おれはガキも嫌いだ。

 家の近くにも幼稚園だか保育園だかがあった。おれはずっとひきこもりなのに、ガキどもの声がうるさかった。どうせ社会に押し潰される人生ならあの園に刃物を持って無差別殺人をしてやればよかった。

 けど、おれはそうしなかった。

 ただひとりで電車に飛び込んだ。

 おれは子どもに迷惑を掛けなかった立派な大人だったのだ。あの園の母親どもが俺に泣いて土下座して感謝を述べてほしいくらいだ。そうすればおれももっとガキという存在を好きになれたかもしれない。

 なんならおれの子を産めよ、世の母親ども。


 そういう妄想にいつも救われていたものだ。どうしようもないのはおれのほうなのかもしれない。

 けどかなうならほんとうにいちどくらいあの園の母親を犯すくらいしてみたかったなあ、と思った。



 そうやってウジウジしてると気がついたら右手が黒くまがまがしく輝いていた。



「……は? なんだこれ」

「ア、アラタさん、あなた……」


 さきほどまでにこやかだったマザリアが恐怖そのものって感じでおれを見てる。


「なんだよ。よくわかんねえよ」

「……なにを……願ったのですか……?

「はあ? なんだよ願った、って……」



 おれの言葉は続かなかった。



 おれの右手から出たどす黒い光は空の雲をつらぬいて、そのまま核爆弾みたいに爆発した。

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