ワンライお題「人工衛星」

「ねぇ、セナ。今日のテストメニューは美味しい?」

「ん? あぁ美味しいよ、久々に呼ばれたと思えば、またテストメニューだったとはね……」

 いつも通りと言ってはなんだが、相変わらず唯の店に来ると『明らかに私服警官』ですよって方々が多い事多い事。

「で。最近”向こう”の方はどうよ?」

「まぁまぁかな……この前ハックした端末を踏み台にしてあちこち経由して人工衛星捕まえれちゃった」

「は?……は? 何したらそういう事になるんだよ……」

「なるようにしてたらそうなったとしか言えないかなぁ」

 少しやり過ぎたって顔をしながらこっちを見てるけれど、私服警官の方々は『唯の裏の仕事』から情報を得て居る面があるから、一応『黙認』しているけど、いつ捕まっても可笑しくない状態ギリギリのグレーハットなハッカーではあるけれど、仕方ない一面がある。

 ズルいかもしれないけれど、捜査協力の下でならブラックゾーンを走り抜ける事が出来る唯。そういうブラックゾーンを走り抜ける際はSIMが警察用のになるけれど、判定部分をどうにかコピーして、自作SIMでブラックゾーンを走り抜けた気がする今回の衛星ハック。電書魔術として私服警官の方々には配っているけれど、使い方は敢えて教えていないとの事。気付いたら使える衛星が増えている程度に抑えているらしいけど、実際唯が何処までの腕を持つかなんて僕にはわからないし、自由にさせている。

 ePUGとして配布しているし、僕ももらってある上、僕にだけは使い方の説明付きで送られている。僕だけ、唯の持つ踏み台やボットネットを使って自由に衛星を使えるらしい……。

「こんなに優遇されてていいのかい?」

「いいんだよ、セナは……。戀(レン)さんや咲夢(サクラ)さんに恩返しがしたいんだろう?」

「まぁね……。出来るかどうかは別問題だけどさ」

 緩やかに僕のことを守ってくれた恩返しにそっと僕は唯というハッカーの手を借りて、姉貴の会社を守ったり咲夢の事を守っていたりするから、しんどいかもしれないって思われるけれど、僕なりの精一杯の恩返しのつもりで行っている事で、晶にも宣言して、行っている。

「私服警官の方々はあまり良く思ってないから、セナがソレを使うのは最終手段と思ってね?」

「分かっているとも。緊急時は脇目も振らず『この力』や、唯を使うだろうから、そこだけは覚悟しておいてね?」

「あぁ、勿論さ……」

「しっかし、普段から電書魔術が流行って来ている世界で最早『アナログ』と言われる技術の面からハックされて電書魔術化されるだなんて、人工衛星打ち上げた国は思ってないだろうね……」

「そこは唯の手腕さ……」

 自由に生きて、自由に死にたい僕は、最期に後悔なく死にたいが為だけに、姉貴や咲夢に対して勝手に恩返しを行っている。

 人を踏み台にしている面があるから『本当はダメ』と分かっていても止められないこの衝動はどうしても言うことを聞こうとしない。

 意地汚く生きるつもりはなく、きれいに死にたいと思っているからこそ、こうなっているんだろうな僕は……。

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