虹がかかる教室

静木名鳥

虹がかかる教室

 俺は虹に恋をした。


 急に変なことを言って混乱させてしまって悪いけど、本当のことだからしょうがない。許してくれ。

 「虹」といってもみんなが思い描いている気象現象の虹ではない。ちゃんとした人間だ。人だ。女の子だ。

 俺が一目ぼれをした女の子のことを勝手に俺の中で「虹」と呼んでいる。本名は知らない。話したこともない。


 「はー、もっかい会えないかなー。そしたらそっこー声かけんのにー」


 「最近お前そんなことばっかり言ってんな。なんだっけ? 虹ちゃん、だっけ。その女の子のことの話がほとんど」


 「うるせーなー、他に言うことも話すこともねえんだからいいじゃんか」


 俺は高校2年生の元木誠二。今は夏休みの補習の合間の昼休憩中、教室で1年の時からの友達の古賀はるきといつものようにだべっていた。


 「急に新学期の転校生とかで、あの虹の乙女が転校してこないかなー」


 「にじのおとめ? 誰それ?」


 「さっきから同じ子の話しかしてないだろ! おれが6月に町で見かけた女の子だよ!」


 「あー、またその話ね」


 あきれ顔のはるきはほっといて俺はまたあの出会いの日(会ってはいない)のことを思い出した。






 




 あれは6月の、日曜日だったことは覚えている。

 はるきと俺とあと同じクラスの男子2人を加えた4人グループで街中のゲーセンで遊び惚けたあとの帰り道。

 あの日は梅雨時期ということもあり、朝は何とか持ちこたえていた天気も遊んでいるうちに崩れたのか、解散のときには雨が風と共に吹き荒れていた。

 ほかの3人はちゃっかりと傘を持ってきていて、俺一人を置いてさっさと帰ってしまった。冷たい奴らめ。


 「あーあ、どうすっかなぁ……」


 ゲームセンターの店の軒下でとりあえず雨が弱まるのを待とうとしたはいいが、全然やむ雰囲気がない。


 「走って帰るか……」


 ここから家まで歩けば10分、遠くはないが確実に雨には濡れる。

 濡れるのを我慢して走ってかえるしかない。

 そんなことを考えた矢先、風で煽られた雲の合間から弱いが確かに光の筋が見えてきた。

 

 「もうちょっと待てば晴れるか?」


 内心ほっとしながら、踏み出そうとした足を引っ込める。

 


 


 「……んで! その時目の前をカバンを傘にしながら走っていった女の子の姿がもう……!」


 「はいはい、その子のことを目で追ったら向こう側に虹がかかってたんでしょ? それでおまえがつけたあだ名が」


 「な! 虹の乙女の名にふさわしい姿だろ!?」


 自分の頭の中だけで思いをはせるつもりがいつものように語りかけてしまった。

 あきれ顔を通り越して、仏のような表情に見えてきたはるきは「あえたらいいね~」なんて適当なことを言いながら次の補習の時間の準備をしに自分の席に戻っていった。


 




 「ということで、転校生が今日からこのクラスに加わります。では自己紹介をどうぞ」


 「雨木高校から転校してきました。水野美雨です。これからよろしくお願いしま」


 「虹だーーーーーーー!」


 「えっ!? え? あの……」


 夏休みを明けた新学期初日。俺たちの教室に虹がかかった。


 その困り顔がまた美しい!


 END


 


 


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虹がかかる教室 静木名鳥 @sizukinatori

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