第65話 リリアは再び夢の中

 フェルナールの背中を見送って振り返ると、ベッドで寝ていたリリアがモゾモゾ動くのが見えた。

 やがてリリアはむくりと上体を起こし、 寝ぼけまなこで瞼をしばたたかせた。


「エイジさん!?」


 どこか不安げな様子だった。そうやら寝ぼけて俺の姿が見えていないらしい。


「悪い、起こしてしまったか。まだ寝てて良いぞ」


 ベッドサイドに戻りながら言うと、リリアは要領を得ない様子で俺をじっと見上げた。まだ頭が半分以上寝ているようだった。


「エイジさん、どこお?」


「ここにいるって」


 俺がベッドサイドに戻ると、リリアは俺の体に首をこすりつけてきた。まるで猫が甘えるようだった。


「どこかに行っちゃったんじゃないかと思って……」


「どこにもいかないさ」


「良かった……」


 手をさしのべると、寝ぼけたリリアは目を細め、甘えるようにじゃれついてくる。

 あまりにも無防備な様子に、もしかして〈淫蕩の呪い〉が発現したのかと思ったが、俺の目に見えるリリアのMPは正常値を保っていた。


 ならば特に気にすることはない。

 俺はリリアのやりたいようにさせることにした。


「エイジさん」


 まだ半分夢の世界にいるリリアが、甘い声を出した。


「なんだい?」


「ずっといっしょにいてくれますか?」


「ああ。それも悪くないな」


「うれしい……」


 リリアはそう言うと、ベッドに倒れ込み、再びすやすやと寝息を立て始めた。


「ずっと、いっしょか……」


 ふたたび夢の世界へと戻っていったリリアを見て、俺は暖かい気持ちに包まれていた。

 半分寝ているとは言え、リリアが俺を必要としてくれていることが、ただただうれしかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る