第17話 古代語スキルを取得

「お待たせ。中へどうぞ」


 バーバラさんの家の居間は、俺がイメージする「魔女の家」そのままだった。

 壁には正体不明の植物が吊され、本棚には書物や紙束が押し込まれている。

 部屋の奥では、ずんぐりむっくりの犬の像——いや、いま欠伸あくびをしたから、本物の犬だ——が横たわっている。

 雑然とは不潔な印象はなく、不思議な統一感のようなものが感じられた。俺の知る優秀な研究者たちの部屋と何か共通するものがある。


「はじめまして、私はバーバラ・グレイ。魔術師——は引退して、いまはただのおばあちゃんよ、うふふ!」


 居間に入ると、バーバラさんが手を差し出してきた。この世界でも、握手は友好の挨拶らしい。俺にとっては好都合だった。


「張本エイジです。張本が姓で、エイジが名前。お好きなように呼んでください」


 バーバラさんの手を握った瞬間、俺は〈コピー&ペースト〉を発動させ、彼女のステータス画面を開いた。



**************************

対象=バーバラ・グレイ


▽基礎能力値

器用度=17 敏捷度=10

知力=22 筋力=7

HP=10/10 MP=20/20


▽基本スキル

パルネリア共通語=7 パルネリア古代語=8

黒魔術=7 植物知識=8 動物知識=6 罠知識=3 

狩猟弓術=2 南方短剣術=1


▽特殊スキル

魔力感知=5 魔法強化=5 遺失魔法=4

視力低下=9 ???=?? ???=??


※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキルの表示、およびコピーはできません。

**************************


 高齢の魔術師だけあって、スキルが豊富だ。見るからにレアっぽいスキルがあるし、全体的にレベルが高い。


 ステータス画面を覗き込んだとき、〈黒魔術〉と〈魔力感知〉が赤く点滅しているのが気になった。視力を補うため、何か魔法的な力を使っているのだろうか?

 まぁ気にしてもしょうがない。俺はにこやかな顔を保ちつつ、心の中で謎の声に向かって念じた。


(〈パルネリア古代語〉をコピーして、〈パルネリア王国式剣術〉に上書き。出来るか?)


了解コピー。〈パルネリア王国式剣術〉がスロットから消失し、〈パルネリア古代語〉が追加されます』


 身を守るための〈パルネリア王国式剣術〉を手放すのは少し怖いが、ここは平和な町中である。それにリリアのスキルならいつでもコピーできる。


「改めまして、こんにちは。エイジさん。この年寄りに、何のご用かしら?」


 バーバラさんが、俺の手を握ったまま尋ねた。


「実はですね——」


 俺は、昨日リリアといっしょに考えた偽のプロフィールを交えながら来訪理由を告げた。


 ——俺は記憶喪失になっていたが、リリアと出会い、怪物討伐を通して意気投合。リリアは俺の身元保証人になってくれた。

 ——俺は以前は言語の研究をしていたような記憶がある。どうやら教師のような仕事をしていたようだ。

 ——その話をリリアにしたところ、「もしかしたら古代語の研究者だったのかもしれない」という話になった。

 ——そこで、古代語を読める人と話してみて、何か引っかかるものを感じないか、確かめようという話になった。


 筋立てとしては、だいたいこんな感じである。


 バーバラさんは、話を聞いている間、俺の手を握ったまま、にこやかな顔で「うん、うん」と相槌を打った。


「そういうことなら、私でもお役に立てるかもしれませんねえ」


 話を聞き終えたバーバラさんはやっと俺の手を放し、本棚から古びた本を何冊か抜き出して、居間のテーブルに並べた。


「どう? この文字に見覚えがあるかしら?」

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