第09話 淫蕩の呪い、発現す

「おい、謎の声! この特殊スキルってのはなんなんだ! 説明しろ!」


『特殊スキルとは、希少度が高く、強力なスキルの総称です』


「この、〈呪い〉ってのは何なんだ! どう見ても変だろ!」


『スキルには、使用者にとって有利に働くものもあれば、不利に働くものもあります。各スキルの効果や、詳細情報は開示できません』


「開示できない? いつものスキルレベルが足りないってやつか?」


『いいえ。スキルレベルは関係ありません。謎の声わたしはそもそも、スキル情報を開示する権限を持っていません』


 権限がない、ときたか。

 つまり、こいつに出来るのは、スキルの一覧を表示したり、コピペすることだけ。

 ゲームのマスクデータは明かすことが出来ない、って感じなのだろうか。

 効果は手探りで探していけって、昔のゲームじゃねえんだからさ……。


 そうこうしているうちに、リリアの動きはさらに激しくなっていった。


 リリアの左手が、剥き出しになった自分の乳房を掴んだ。

 細い指に力がこもり、まるで自分の身体を弄ぶように蠢く。形の良い乳房が潰れ、指の間から柔らかな肉が押し出される。双丘のいただきにある桜色の冠は、興奮を示すようにピンと立ち、天を指していた。


「こ、これはまさか……!」


 俺は思わず後ずさる。

 これは、


「あ、ああ……んんっ!」


 リリアの薄桃色の唇から、甘い声と熱い吐息が漏れた。


「おい、目を覚ませ! しっかりしろ!」


 頬を軽く張ったが、リリアは目を覚ます気配を見せなかった。

 それどころか、俺の手から逃れるように身をよじり、うつぶせに姿勢を変える。

 そして膝立ちになり、頭を下げたまま、腰を高く上げた。シャツがまくり上がり、再び乳房が露出する。白い肌には、赤々と指で握りしめた痕が残っていた。


 気がつけば、ズボンは膝までずり下ろされていた。

 スカートは腰を上げた拍子にまくれ上がっている。つまり——


 思わず、俺はリリアから目を背けた。


「んっ! ク……ッ! あ、あ、あ! あああああ!」


 俺の耳朶を、リリアのかすかな嬌声が打つ。

 同時に、粘度の高い液体をこね回すような、淫靡な音が聞こえてきた。

 リリアが何をやっているのかは、見なくても分かる。


 ——リーガン少女を見たときのカラス神父も、こんな気分だったのだろうか。

 衝撃で真っ白になりそうな頭で、ぼんやり考える。


 さっき見た、リリアのステータス画面。

 MPというのが何かは分からないが、HPはたぶん大量だ。

 MPはたぶん、精神に関係するステータスだろう。その数値が0になっていた。

 特殊スキルの欄にあった、無数の〈呪い〉。

 その中にあった、〈淫蕩の呪い〉。

 それが彼女の状態と関係しているのは、間違いないように思えた。


 それから、無限に思えるような時間が流れた。


「あんッ! あ、あ、ああああ……! あうッ!」


 やがてリリアが小さな絶頂の叫びをあげ、淫靡な水音も止んだ。

 部屋の中には、リリアの荒い息だけが響く。


 視線をリリアのほうに戻すと、壮絶な光景が広がっていた。

 リリアの姿勢は変わっていなかった。うつぶせでベッドに突っ伏したまま、膝立ちで腰を高く上げている。顔は横を向いており、うつろに開いた薄目から涙が滴った痕があった。

 胸も尻も丸出しで、ベッドに立てた膝の周辺には、水をこぼしたような染みができている。汗の染みではなさそうだった。

 両腕はだらんと身体の両脇に放り出され、二の腕や背中の筋肉、足の指が、快楽の余韻を貪るように痙攣していた。


 ——これで終わった。

 俺は内心、そっと胸をなで下ろした。

 これできっと、リリアの発作は治まったのだろう、と。


 だが——

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