第07話 突然チュートリアル

 その後、スレンから荷物を受け取った俺たちは、身だしなみを整えた。

 リリアは、上半身に綿のような簡素なシャツを羽織り、下にはピッタリした薄手のズボンの上に、ふわっとしたミニスカートを履いていた。なかなか可愛らしい。


 リリアの足のケガだが、彼女が荷物からガラス瓶に入った不思議な薬品を取り出し、それを飲むと、みるみるうちに腫れが引いていった。

 彼女は同じ薬を何本か持っているようだった。


「なんだこれ! 便利だな。ちょっと見せてくれないか?」


 興味に駆られ、手に取らせてもらうと、また頭の中に、謎の声が響いた。


『〈アイテム:ポーション〉に接触しました。現在のスキルレベルでは、〈ポーション〉のコピーはできません』


 なに!? スキルレベルとやらを上げれば、アイテムもコピペできるようになるの?

 でも、スキルレベルってどうやって上げれば良いのだろう。


 疑問に思っていると、再び謎の声が響く。


『〈コピー&ペースト〉のスキルを使用するか、〈コピー&ペースト〉スキルで入手した能力を使用するごとに、スキル経験値が蓄積していきます。現在のレベルは1。獲得経験値は99です。次のレベルに到達するためには、100の経験値が必要です』


 説明ありがとう、謎の声さん。

 要するに、いまの俺だと、剣を振り回したり、言葉をしゃべったりするだけでも、スキル経験値が溜まっていくというわけか。

 リリアたちと話しているうちに、次のレベルに上がりそうだな。


『はい。レベル2になると、特殊スキルの一部が閲覧できるようになります。また、レベル3になると、スロット数が「3」に増加します。なお、アイテムのコピーを実行するには、最低でもレベル5になる必要があります』


「なるほどね。よく分からないけど、ありがとう」


 突然独り言を呟いた俺に、リリアは怪訝そうな目を向けた。

 そうだろうとは思っていたが、謎の声は俺にしか聞こえないらしい。


☆ ☆ ☆


 その後、俺たちはこの村の村長のもとに向かった。状況を報告するためだ。


 リリアは村長に、ゴブリンの巣穴を突き止められなかったこと、探索中に襲撃を受けて二十匹ほど討伐したこと、まだ残りのゴブリンが残っているかもしれないことを告げた。

 リリアの話を聞くと、村の側は当初ゴブリンの数をもっと少なく見積もっていたようだった。大きな群れから追放されたかはぐれた集団が、十匹くらい森に住み着いたのだろう——と考えていたようだった。


「それはたいへんでしたな……。まことに申し訳ない」


 腰の曲がった老人——村長が、リリアに頭を下げる。


「いえ、私は良いのです。でも、ゴブリンの群れの規模が大きいとなると、この村が心配ですね。私は急いで街に帰り、領主殿に派兵と調査を依頼します。数十匹単位の群れがあると知れば、領主殿も重い腰を上げるはずです」


「おお、さようでございますか。助かります」


「念のため、しばらく村の警備は厳重にお願いいたします。二十匹ほど斬ったとは言え、群れの規模が読めないのは気がかりです」


「承知しました。今日はもうじき日が暮れます。明日の朝に発たれると良いでしょう」


 リリアが頷く。村長は「わしらもそのほうが安心ですので」と笑い、続けて俺のほうに向いた。


「そちらの方も、構いませぬかな?」


「え、あ、はい。俺も泊めていただけるのなら、ありがたいですね」


 異世界に放り出されて、ゆくあてもない俺にとっては、渡りに船の提案だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る