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何の疑いもなく私の前に立つあずささん。

身長は150センチ台だろうか。


「どのような症状ですか?」


至って冷静を装いながら、私は問う。


「風邪をひいてしまって頭痛があります。でも妊娠しているので薬飲んでいいかわからなくて…。」


悪気のない、いらない情報が私の胸を突き刺す。

もちろん、この情報は薬剤師として大事で把握しなければいけないことだ。

私情は挟まない。


わかっている。

わかっているけど、私、平野つばさ個人がそんなことは聞きたくないと心の中で叫びまくっている。


私は震えそうになるのを抑えながら、今できる精一杯の笑顔で対応する。


「こちらの薬は漢方薬なので、赤ちゃんに影響はありませんので安心してくださいね。」


「わかりました。ありがとうございます。」


薬を受け取りながらにっこり微笑むあずささんが眩しすぎて、私はもうどうしようもない気持ちになった。

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