第4話
俺は問題用紙を開いて、内容を確認した。
『問一、火属性の攻撃魔法<フレイア>の特徴と注意点を記述せよ』
フレイアは基礎中の基礎の火を使った攻撃魔法だったな。
思ったより簡単に答えられるんじゃないか。
『問二、光属性の防御魔法の魔法陣は次の四つのうちどれか』
四つの魔法陣が問題文の下に描かれている。
光属性の攻撃魔法の魔法陣が三つあるということは、これだな。
特に迷うこともなく問題を進めていった。
ここまで簡単だとは……。
あまりに簡単過ぎる問題に不安を覚えてしまう。
そして次が最終問題のようだ。
『問二十、神話に登場する勇者クロウが魔王サクヤを討伐したときの状況を想像して記述せよ』
えっと……これはどう答えたらいいのだろうか……。
それより、神話って何だ?
アリアが言った魔王発言も頷ける。
とりあえず、想像というよりも実体験を書いておこう。
この問題って配点どうなるんだろう……。
「そこまで!」
試験官の一声で筆記試験が終わり、答案用紙が回収された。
「一旦休憩時間を設ける。三〇分後に実技試験を行うから、それまでにここへ戻ってくるように。以上!」
そう言って試験管は教室を後にした。
俺はアリアのもとへ向かう。
「お疲れ様」
俺がアリアに話しかけると、こちらを振り向いた。
「……サクヤも……お疲れ様……」
アリアは俺を見て、そう言ってくれた。
うん、アリアがいてくれれば疲れなどという概念は無くなってしまうだろう。
「そういえば……サクヤは最後の問題……何て書いたの?」
「えっと……」
アリアの質問に俺は少し戸惑った。
・勇者は魔王に消滅魔法を使った事。
・魔王は転生するために転生魔法を使った事。
・消滅魔法によって魔王は転生できずに消滅した事。
とりあえず、さっきの解答を
アリアに見つめられながら答えるのは何というか恥ずかしいんだが……。
「……すごい……」
俺の解答を聞いてアリアは驚いていた。
「すごいって、これはあくまで俺の
実体験なんて言ったらややこしくなりそうだから黙っておく。
「私の家にある古い本に書いてあったことと同じ」
古い本か……あの場に居たのは俺とクロウの二人だけだったから……。
クロウが討伐後に武勇伝を語ったのだろうか……。
「古い本?」
俺は気になってアリアに尋ねた。
「神話のことが書いてあるけど……詳しくは分からない……」
アリアも詳しいことは知らないのだろう。
その困った表情も可愛い。転生してよかったと思える。
休憩時間はあっという間に終わり、試験官が戻ってきた。
「皆揃っているな。次は実技試験は魔法演習場で行うから全員ついて来てくれ」
試験官はそう言って、受験生を誘導し始めた。
さて、次は実技試験か。
俺もアリアと一緒について行く。
着いたのは学園の中庭。全体にドーム状に防御結界が展開されている。
おそらく魔法による事故を最小限に防ぐための措置なのだろう。
「ここが魔法演習場だ。ここで行う実技試験はこれだ」
試験官がそう言うと、どこからともなく二メートルくらいの大きさの岩が現れた。
「岩……いや、魔石か」
「魔石?」
俺の呟きにアリアが反応した。
「物理攻撃では傷つけられないが、魔力を使う魔法攻撃なら破壊できる特殊な石だな」
「なるほど……」
アリアは俺の説明を聞いて頷いた。
魔法学園というだけあって、魔力の強さを測るワケか。
「それでは順番に呼ぶから、呼ばれた受験者は岩の前に立ってくれ。岩に対して自分の一番得意な攻撃魔法を放つだけでいい」
試験官はそう言いい、一人目の受験生が呼ばれる。
皆がどのくらいの魔力なのか俺も気になるし見ておこう…。
「
詠唱すると二〇センチ程の大きさの火の玉が魔石に当たり少しだけ表面が欠けた。
周りからは歓声が上がる。
「次!!」
「はい!!」
試験官の声に返事をして次の受験生が岩の前に立つ。
「
詠唱し一筋の電流が魔石に当たるが、これも少しだけ表面が欠ける程度。
次々に受験者が呼ばれるが威力は皆同じくらい。
前世の時代だと赤子でも使える程度の魔力か……。
次々と受験生が挑戦するが、皆同じくらいの結果になっていた。
「次!!」
「……はい」
アリアが返事をした。
「アリア…頑張れよ!」
「ありがと……」
俺の応援に、アリアは少し照れたような表情で返事をして魔石に向かった。
「
「はっ!?」
俺はアリアの詠唱に間髪入れずに声が出た。
アリアが詠唱したのは前世で勇者クロウが使った対魔族用の攻撃魔法だ。
魔石相手なら魔力と使う魔法への技量があれば、対魔族用の攻撃魔法でも有効だろうから試験には問題ない。
クロウほどの威力ではないが、今までの受験者とは比較にならない威力。
魔石の三割くらいが消滅し原型を大きく変えてしまった。
……威力はともかく……それよりも、何故アリアがあの魔法を知っているんだ?
周りが唖然としている中アリアは何事も無かったかのように俺のところに歩いてくる。
「……サクヤに出会ったから使ってみた……」
アリアはそう言っているが、それはどういう意味なのか……転生した事は誰も知らないはず。
ならば魔王っぽい人のために使ってみましたって事か?
出会ったから使ってみたって、そんな上目遣いに言われても…
「ちょっと新しい岩を準備するから、次の受験者は少し待っていてくれ」
そう言って試験官は新しい魔石の準備をしている。
「あの魔法……」
「古い本に書いてあった。サクヤは今の使える……?」
アリアの質問に俺は──
「あ、ああ……俺も使えるぞ」
俺は使ったこともない、ましてや喰らったことしかない魔法を使えるとアリアに言った。
上目遣いに聞いてくるアリアの期待に応えたいからという、ただそれだけの理由。
魔法自体はクロウが使った時に巨大な魔法陣を組んでくれたおかげで、記憶していたから構築するのは容易い。
だが、発動するとなると魔力の消費量も分からなければ、構築した魔法を発動するタイミングも分からない。
使えると言うだけ言ったが、試験で使う必要はない。
研究すれば自在に使えるようになる可能性もある。
とりあえず周りに合わせて
「サクヤが使ってるところ見てみたい……」
アリアは俺にそう言った。
自業自得とはいえ、俺は軽はずみにできると言ったことを後悔した。
失敗すれば試験の得点は入らないし……ネガティブに考えずに呼ばれる前に対策しなければ!
俺はクロウが
あの時の映像を……動きを……。
「待たせたな、次の受験生!」
「はい」
俺は試験官に呼ばれて返事をした。
「……サクヤ頑張って……」
「ありがとう、頑張るよ!」
俺はアリアに応援されながら、俺は魔石に向かった。
そして、魔石の正面に位置するところで止まり、ゆっくりと深呼吸をした。
「始め!!」
試験官の試験開始の声が周囲に響きわたる。
俺は頭の中で
対魔族用魔法だけに、前世の俺が試しに使おうものなら最悪体内で魔力が暴れて自爆する可能性があったが、今は人間の身体だから問題ない。
俺は右手の手のひらをゆっくりと魔石に向ける。
すると右手に魔法陣が展開された。
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