青年革命家さとぽん
さとうさな
第1話 俺と叔父
「人生は挑戦だ!授業なんか出なくていい!どうも青年革命家さとぽんです!」
そうカメラに向かって叫ぶ俺。これがFラン大学社会学部地域コミュニケーション学科所属三年という肩書きが青年革命家に変わった瞬間であった。
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あれは去年の暮れだった。両親が共に他界した。1人残された俺は行く末もなく1人で放心していた。幸いなことに両親の保険金のおかげで行く価値があるかどうかもわからない大学の学部生でいるためにかかる学費は払っても余りある。さらに和解としての慰謝料をもらい普通に生きていく分には不足ないほどの金が手元に入ってきた。
しかし、人間金が入ったからといって心の穴は埋められないものだ。たまに様子を見に来る親戚の憐れみに満ちた視線も心に刺さるし、なにをするにも気力が湧かない。このままニートになるのもいいなと考えてしまうこともある。そんな生活を送っていた時に奴は来たのだ。
惰性で行っていた学校の帰り。ファーストコンタクトは桜が散っていく中での必然的な出会いだった。
「よう、坊主。お前革命家にならないか?」
そいつの風貌1度目にしたことがある。確か親戚から煙たがられている男だと耳にしたはずだ。なんでも不良や暴走族だった過去があり、今は多くの借金があるクズらしい。なんでこんな奴が生きているのだろうかと腹が立ってくるが、そんなことを考えても無駄ということはここ数ヶ月で学んでいる。
「金の無心ですか?」
そう聞くと男は一瞬きょとんとした後、笑いながら答えた。
「ああ、じじいから話は聞いてんのか。だが、心配するな。借金はもうねえよ。金には興味はあるが今は金じゃなく坊主に用があって来たんだ」
金じゃなければ何の用だ?確かに祖父母は俺の様子を見に来てくれるが、こいつはそんな善意的行為をする人間には見えない。僕が疑ってる様子を見て、困ったように続ける。
「まぁ、ここじゃなんだ。そこらの喫茶店にでも入ろうや。」
確かに、大学にサンダルを履いている30代の男がいれば不自然にも感じるだろう。俺としてもこんな奴と話しているのを他人に見られるのは好ましくない。
「少しだけなら」
そう言って、俺とこの胡散臭いおっさんは近くのカフェに移動した。
「という訳だ。」
そう言って、ケーキとコーヒーを交互に食べるおっさんを横目に俺は考えた。
こいつの話を全て信じると、名前は佐藤龍雄という自称経営者らしい。気になる借金は全て返し終わり、新たなビジネスのために知名度が欲しいらしく、俺に青年革命家として動画に出演して欲しいという。
「なんで僕なんですか。社員の方でもいいんじゃないですか?」
「あん?そんなの決まってんだろ。お前の目が死んでるからだよ。」
そう言ってタバコに火をつけようとする。こいつはなんて失礼な奴だ。事実ならなんでも言っていいと思ってるのか。
「ここ禁煙ですよ。」
「...やりにくい世の中になっちまったな。」
おっさんはタバコを箱に入れなおすと、残りのコーヒーを飲んでため息をついた。
「それとだ。俺の知り合いで大学生は少ない。その中でもリスクのある話を受け入れるバカな大学生は1人しかいない。」
「それが僕ですか。生憎ですが、僕はFラン大学に所属していますが、自分自身を馬鹿だと思ったことはないですよ。...それでは。」
席を立つとこいつは腕を掴んで引き留めてくる。
「まあまあ、話を聞いてから考えな。コーヒー1杯分の時間は割いてくれてもいいだろ?」
「僕は金にそこまでの価値があると考えてないんですよ。」
「ほぉ、なかなか手強いな。んー。そうだな...これからの話はお前の生活を一変させるぞ」
「悪い方向にですか?」
「そうかもな。」
溜息をついた後俺は苦笑して席に戻った。
「それで、青年革命家とは一体何をするのですか?」
「いいじゃねぇか、それでこそ俺の甥っ子だな」
...なるほど。俺はてっきり政治的な部分に対して何か意見を発するものだと思っていたが、そうではないらしい。こいつは教育に対して俺が異論を唱えて、学生に教育の不必要性を唱える動画を作るらしい。
「炎上商法狙いですか。」
「まあな。」
曰く、こいつは僕を捨て駒にするらしい。そして後ろでプロデューサーとして自身の知名度を高めることが狙いのようだ。これで俺を選んだ理由が分かった。俺は生きるのに必要な金があるから悪評が立ったとしても被害が少ないと考えたのだろう。
馬鹿馬鹿しい。
「仮にそこで知名度を得ても、それはただの悪評ですよ。」
「悪評も評判だ。人を動かすことはできる。」
「...叩かれるのは僕なんですが。」
「そこは俺も一緒だ。」
「この話を受け入れたとして、僕は何を得るんですか。もう金には困ってないので、僕が納得できる報酬はを支払うことができるのですか?」
「俺が与えられるのはお前の周りの環境の変化と将来俺が作る会社の内定だ。」
「話になりませんね。結局のところ運命共同体になるってことじゃないですか。」
「ああ。その通りだ。だが、この数ヶ月で失った坊主の目の光は間違いなく蘇るぜ。」
「...はぁ、まあ考えておきますよ。それでは。」
そう言って僕は今度こそ席を立った。もうこいつは引き留めようとはしない。少し顔を見ると、やつは笑っていた。
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