ⅩⅠ―歪む時間―(前編)
ミッドナイトスペースのどこかで彼は立ち尽くしていた。目の前のベッドで横たわっている目覚めることのない男を見下ろしていた。
彼はただ棺の中で眠っているかのような安らかな眠りについている男を見て笑みを浮かべていた。
『どうするつもりなの?』
背後からいないはずの女性の声が聞こえた。
「決めっていますよ……こいつは俺に見つけられるためにここにいたんだ」
『だから、あなたが好きに使わせてもらうってわけね』
「そういうことです」
彼は微笑んだ。
『まったく、とんでもないこと考えるわけね……まあ、そうしなくちゃならなくなっちゃったのは私達のせいか』
「ええ、あなたがたのせいです」
彼はそう言ってメモリオンの光を手にかざした。
「マスターがあんなことになったから、俺は一層怖くなりました。死ぬのがじゃありません。そうして死んで誰かを悲しませるのが嫌なんです。父さん、母さん、弟に妹、それに友達だって……そう考えるだけで耐えられません。だから、こうすることを思いつきました」
メモリオンの光にはたくさんの記憶が浮かぶ。生まれた時からこれまでの事、弟や妹が生まれた日のこと。それから今の友達に出会って、多くのくだらない話をした事。父と母、妹に弟と一緒に食卓を囲ったり、テレビを見たりして楽しく過ごしたあの日々。
それらを一心に手の光に集めてベッドで眠り続けている彼に当てた。
**********
「そんな……そんな、ことって…!」
天児はその記憶を目にして、息を荒らげた。
「今の男がお前なんだよ」
「違う!」
声を張り上げて否定した。
「お前は俺がミッドナイトスペースの片隅で眠っていた男だ。それに俺の記憶と顔を写したのさ」
「嘘だ! そんなもの信じられるか!」
「俺がお前の立場でもそう言うな。それは俺の記憶があるからだ」
天夢は余裕を持った口調で言う。その態度に自分の言っていることに絶対の自信があることを感じさせらた。
「教子さんはお前に何も言わなかっただろ?」
「教子さんは俺に覚悟があるなら話すことがあると言った」
天児がそう答えるとあることに気づいた。
「まさか……教子さんが話すことって」
「そうさ、結果的に俺が代弁してやったことになるけどな」
そう言われて天児は天夢をまともに見れなかった。同じ顔、同じ声、何よりも同じ人間に相対しているだけで自分が自分でなくなってしまうような感覚にとらわれてしまうからだ。さっきの天夢の話が事実だと頭が、記憶が認めているのかもしれない。だとしても認めるわけにはいかない。
「教子さんがどうして何も話さなかったと思う?」
「それは……」
「俺が口止めしていたのもあるけど、この話を聞けばお前が耐えられないと思っていたからだろうな」
「耐えられない…」
「これまで自分は日下天児だと思って過ごしていたのに、本当は名前すらもわからない得体の知れない人間だなんて耐え難い事実だろ?」
「俺は……」
「お前は本当に『日下天児』なのか?」
「俺は……天児だ…!」
天児はかすれた声で答えた。
「だったらどうしてもっと自信を持って言えないんだ?」
天夢は容赦なく追求した。
「それはお前が『日下天児』の記憶を持っているだけの別人だからだ。記憶だけというのは儚いからだ。これまで歩んできただけの道が記憶としてしか思い出すことはできても思い返すことはできない。そこには温もりや思い入れもない。だからこそ自信が持てない……オリジナルじゃないからな」
「そんなことは…」
「ないと言い切れるか?」
天夢にそう言われて天児はその先を言えなかった。
「もう一度訊く。お前は本当に『日下天児』なのか?」
「………………」
天児は押し黙る。
**********
太陽が頂点に達しているという時間だというのに天児は街中を歩いていた。
その足取りはおぼつかなく、少しでも重心がぐらつくとそのまま車が行き交う道路に突っ込みそうなほどの危うさだった。
早退した理由は天夢の話を聞いてから授業をうけようなんて気にはとてもなからなかった。その以前からうける気はさほどなかったがその話が拍車を掛けた。自分が『日下天児』であったはずだというのに、それを全面否定されたのだ。
たとえ、天夢の見せたメモリオンの映像が幻だったとしても、今の天児はそうは思えなかった。一度心が、記憶があれを本物だと認めてしまったのだ。
(……教子さんの言っていた覚悟ってそういうことだったのか…)
認めてしまうと教子の言っていたことにも合点がいった。教子は天夢、いや本物の天児が自分に記憶を写すところを見ていたのだ。口止めしておいたと言っておいたが、こんなこと当人に話せるはずがない。仮に話すとしても、受け入れられる覚悟が必要だ。その覚悟が足りなかったがために今天児の心境は紐が切れた風船のようにふらついてしまっているのだ。
自分はどこからやって来たのか。自分が何者か。その記憶は全く無かった。思い出そうと必死にもがいたが、無理だった。天児としての記憶ならある。だが、それは与えられたモノでしかなく、本来の記憶はもうとっくにメモリオンとなって消えてしまったのだろう。そう考えると自分がどうして何もかも忘れてしまった美守のようになることをあれほど恐れたのかもわかる気がする。それは身体が再びああなることを知らず知らずのうちに反応して怯えていたのだろう。
考えれば考えるほど天夢の意見を肯定しているようだ。もはやそれを否定する気力すら奪ってしまうほどであった。
(どうすればいいんだ、俺は……?)
気がつくともうアパートの部屋の前にまできた。天児はいてもたってもいられず扉を開けた。
「おかえりなさい」
美守は暖かい言葉で迎えてくれた。
「ただいま…」
天児はその出迎えを虚しく感じ、空返事をした。
「天児君?」
その態度に不審に思った美守は迫った。
「その名前を呼ばないでくれ」
「どうかしたの? 教子さんから何か訊いたの?」
「いや、天夢からだ」
「天夢…?」
美守は聞いたことのない名前を耳にして顔を引き締めた。
「本物の『日下天児』だよ」
天児は一言で説明しようとした。
「本物って、あなた何言ってるの?」
「その言葉のままの意味さ」
天児は美守から目をそらし、部屋に入り込む。
「やっぱり行くべきじゃなかったんだ、学校には」
辛い想いをしてまで教子の無事を確認したかっただけなのに、余計なことまでわかってしまう。
自分の記憶が無くなっているがわかってしまうこと、自分が何者なのかわからなくなってしまうこと。
それで結局目的は果たせなかったのだから世話がない。
天児は座り込み、うつむき、そんなことをまた考えてしまった。
「私も学校にはいい記憶がないから」
美守はそう言って隣に座ってくれた。
「何があったの? その天夢がどうかしたの?」
真剣な顔をして訊いてくる美守に黙る必要は無かった。むしろ話すべきかとさえ思えた。
そこで天児は話した。教子とワイルドクロウが戦い、そして天夢が止めをさしたこと。その後に、天夢、つまり本物の天児が自分にメモリオンで記憶を写しかえる処理を施されたことで、自分はこれまで『日下天児』として生きていたこと。自分が何者なのかわからなくなったこと。
そこまで話すと、天児の目にはある液体で溢れ出しそうだった。
「滑稽だよな……俺は今まで『日下天児』を演じていたにすぎないんだ……本物の『日下天児』によってな…」
それを言い終えるともう我慢できなかった。涙があれよあれよと頬へ滝のように流れ落ちるのだ。
「天児君……」
それでも美守はその名前で呼びかけた。
「だからもうやめてくれ。俺は日下天児じゃないんだ……」
そう言われて美守は口を閉じた。
――知ってしまったか。これも予定の中に含まれていたことだけど
不意に時計からエージュの声が響いた。
「……エージュか」
天児は顔をゆっくりと上げた。
――これも必要なことだった。彼が今言わなければ私がそうしていたところだけど
「お前、知っていたのか!」
――ミッドナイトスペースで私の知らないことはない
「じゃあ、俺の正体も…」
――教えて欲しいかい?
エージュのその返答に天児は言葉を詰まらせた。そこで美守は天児に手をかけた。
「知ってどうするつもりなの?」
「美守…?」
「今のあなたには無理よ。真実に耐えられずはずがない」
――的確な判断だよ
「あなたは……」
――2年ぶりだね天月美守
それは美守にとって初めてミッドナイトスペースに来たとき以来に聞くエージュの声であった。
「エージュというらしいのね」
――隠すつもりはなかったんだけどね
「あなたは一体何なの、神様…?」
――そんな大それたものではない。単なる私は時の管理を司っているに過ぎない
「時の、管理…?」
美守にはピンとこない単語だった。だが天児はその言葉を聞いてすぐに立ち上がる。
「そいつは俺達からすれば神だな、エージュ」
――前にも聞いたセリフだ
「やっぱり前か…」
――望むなら教えてあげてもいいけど、それは彼女が望まないか
そう言われて自分を睨んでいる美守に気づいた。
「あなたは知っているはずよ、望みもしないのに記憶を取り戻したらどうなるか?」
美守は昨日の自分のことを、その時のことを思い出すのも辛いというのに、それで引き止めようとするのは必死な様子がいやがおうにも伝わってきた。
「わかっている……そんなこと、わかっている…!」
天児は声を振り絞って答えた。
「それに知ってしまったら、あなたはもう別の人になってしまう…」
「何言ってるんだ? 俺は天児じゃないんだぞ…」
「そんなこと関係ない!」
「――ッ!」
美守は強く言い、天児をたじろがせる。
――時間だ
エージュがそう告げると、目に映る部屋の光景が歪む。
――もうミッドナイトスペースは私の意思とは関係なく開かざるおえなくなってきてるんでね
「どういうことだ?」
――針を正常に進めるためだよ
エージュがそう答えたところで、天児は見慣れた部屋とは違う場所に立っていた。
「ミッドナイトスペースか…」
天児は一人で辺り一面を見渡した。人気の全くなく、それぞれ高さが違うがデザインは同じビルだけが並ぶ街並み、色はもちろんは黒しかない、かといって暗闇というわけではない。風も音もない、まるで世界から取り残されたような感覚だ。もっとも今の天児にはその感覚が逆に心地よかったのかもしれない。
そんな街並みを道路の真ん中を歩きながら、見つめ続けた。
(……俺はずっとここにいたのか…)
天夢が見せた光景を思い出す。
その光景はこのミッドナイトスペースのどこかにあると思うと、ここが故郷のように思えた。
「何浸ってるんだろうな、俺は」
天児はそんな自分に気づき自嘲した。
「お兄ちゃん…?」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ソラ!」
天児は即座に振り向く。そこにはソラが立っていた。
「やっぱり、いたのか」
ソラは辛そうに頷いた。
「私はエージュに関係なくここにやってこれるらしいから」
「エージュに関係なく?」
――ミッドナイトスペースは私の意思によって入る人間を決める、それは前にも言ったかな
頭上からエージュの声がした。
「エージュ、お前か! ソラに吹き込んだのは!」
――半分はね
「半分?」
――もう半分は君さ
「俺が…?」
天児はソラを見た。ソラはエージュの言葉を否定するわけでもなくただ震えているだけだ。
――ただ今とは違う時間軸の君さ
「違う、時間軸…?」
――ソラはそこからやってきてしまった、まったく誤算だったよ
「誤算って何の事だ?」
――こういうことさ
エージュがそう言うと、天児の目の前には見たことのある光景が浮かんだ。
「これは…?」
――違う時間軸の君さ。本来君が歩むはずだった時間軸さ。よく見るといい
エージュにそう言われて天児は目の前に映る光景に目を凝らして見つめた。
初めてミッドナイトスペースにやってきた日の事、これは記憶にあったことだ。ただそこから先は違っていた。
戦いに慣れず、美守と京矢に迷惑をかけてばかりの日々だった。天児の記憶には断片ながらここまで迷惑をかけた憶えはない。何度か美守や京矢を命の危険にまで晒してる場面さえ見かける。
――ここからもう違うんだよ、いや私が変えておいたんだけどね
「変えた…?」
――先に君に戦うイメージを植え付けておいたからね、メモリオンを使う上でイメージが固まっている方が戦いやすい。だからそこに映っている君よりも上手に戦えたのさ
そう答えると場面は切り替わった。京矢が美守を戦わせないようにと必死に説得しているところだ。天児はそれを見ているだけだったが、やがて止めに入った。映像の中の天児は京矢の味方についている印象を受けた。
(記憶を消してしまうなんて、冗談じゃないものな)
過去の自分と違う行動をとっている自分に特に違和感を感じなかった。それはどちらを選択してもおかしくない選択であったからだ。美守を戦わせないように止めるか、美守の記憶を消させないように戦うか、どちらを選んでも根本の目的は同じであったからだ。
ここで天児と京矢は協力していた。具体的には京矢が美守を鎖で抑え付けている間に、天児がファクターを倒すということであった。
(利用されているな…)
客観的に見ていた天児はそう感じた。
ファクターと戦うとメモリオンの消耗は激しくなる。そうすれば記憶はどんどん消えていく。京矢はそれを避けるために、天児に戦わせているように見えた。
だが、そんな事は長続きしなかった。やはり天児一人で戦うというのは無理があったのか、京矢と美守が戦わざるおえなくなる場面になった。その戦いで京矢はファクターに飲まれて時元牢に堕ちた。
さらにファクターは襲いかかってくるところを救ったのがシャッドだった。
シャッドは天夢によく似ている天児に擦り寄ってきた。
だけど天児は自分は天夢じゃないと必死に説得して分かってもらえたが、時元牢に囚われた天夢と京矢を救いたいと言い出した。
それから天児はずっと時元牢から二人を救うために戦い続けた。時には美守やシャッドと協力してファクターを戦うこともあった。
だが、ある日天児はファクターに飲まれてしまった。
――この時、君はオーバーロウを発現した
時元牢に堕ちた天児はエージュが言うように、オーバーロウを使って天夢と京矢を救い出した。
そこまではよかった。ただ問題はそこからだった。
救い出した天夢は、天児に今日のように真実を打ち明けたのだ。天児の反応も同じものだった。自暴自棄になったところを天児は空にあたってしまった。そして、感情に任せて天児は空にそのことを話したのだ。
「ソラ、お前は知っていたんだな?」
「うん」
隣にいたソラは頷いた。
そこまで話すと場面は一転した。全てを話した天夢は何を狂ったのか、他のアクタを襲い始めたのだ。その日本刀で相手を突き刺したのだ。突き刺された相手は血飛沫を上げて、何が起きたのかわからないまま倒れた。
「どうしてあんなことを…?」
天児は唖然としてその様子を見た。天夢はそんなことをするような男にはとても思えなかったからだ。なにしろ他ならぬ本物の『日下天児』だ。天児の記憶を持っている自分はまるっきりの他人というわけではなく同じような考えを持っているものだと思えるからだ。
――彼は知ってしまったんだよ、複数人のアクタのメモリオンが組み合わされるとどれほど強力なのか
「ファクターが怖くなったのか……」
その時の天夢の心境を推測するのに時間はそれほど掛からなかった。何しろ自分の記憶に基づいて考えただけなのだから。
――そのとおりさ、人間は怖いものを経験すると安心を得ようとする。彼の場合はメモリオンだ。アクタのメモリオンを取り込むことは強力であり、その術を知ってしまうともう彼は止められなかったというわけさ
「それで、それからどうなったんだ?」
――君はそんな天夢を見かねて止めに入ったんだよ
「そうするだろうな……」
天児は自分の思ったとおりの行動を自分がしていることに違和感を感じながら動向を見守った。
――もちろん君と彼は戦ったさ
目の前で天児と天夢の剣が激しくぶつかり合うのが見えた。
「どうしてこんなことをするんだ!」
つばぜり合いのさなか、天児は天夢に向かって叫んだ。
「わからないのか? 一度時元牢に堕ちたら、どうなるか知らないとは言わせないぞ!」
「だからってこんなこと、許されるはずがない!」
「誰にも許しを請うつもりはない。これは必要なことなんだよ!」
「必要ってなんのためにだ!?」
それだけ言葉を交わすと、剣から湧き出る光が辺り一面を照らしだす。光が消えると、そこには天児一人が立っていた。
「逃がしたのか…」
動向を見守っていた天児はつぶやいた。
――天夢は君のオーバーロウを恐れていたのさ
「なるほどな」
――この後も何度も戦うことになるんだ。そうしているうちに取り返しのつかないことになってきたんだ
「取り返しのつかないこと?」
天児はその言葉にただならぬ不穏な予感を抱いた。隣にいたソラも胸に握り締めた拳を置いた。
――彼の強大となったメモリオンと君のオーバーロウの激突は、時間軸を歪ませるほどの衝撃となってしまったんだ
「歪んだらどうなるんだ」
――まず時間というモノが正常に機能しなくなる。時計の針はまっすぐ規則正しく進むのではなくデタラメになるのだよ。一秒が一分となったり、一分が一時間になったり、一年なんて一瞬で過ぎるってことなんてザラにある
「恐ろしいな……」
淡々と話すエージュの話を聞いて天児は身震いした。
――もちろん進むのではなく戻ることだってありうるさ。ただそこまでくるともう世界は末期さ。時間軸の歪んだ世界は滅びを迎える。
「そうなるとどうなるんだ?」
――無になるのさ
「………………」
天児は絶句した。
――そうならないために私はこれまで手を尽くしてきた。メモリオンも時間軸を正常にするために必要なエネルギーだからこそファクターを作り出して集めた。ミッドナイトスペースを作り出すことで時間を動かさなければ時間軸は歪むことは決してない。ただそれは世界の本来の形ではない。
「ああ、こんな空間が世界だったら俺は生きていけない」
天児はミッドナイトスペースのどこまでも殺風景な光景を思い出してそう言った。
――最も私にできることはそれだけだ。神ならざるモノができることは限られている。ファクターを作り出せても私にはメモリオンを作り出せない。時間を管理するのが役目だが、世界までは管理できない
「だから、天児と天夢の戦いには手出しできなかったと?」
――つまりそういうことさ。こうして声をかけることや記憶を見せることはできても、戦いを止めることはできない。
「ファクターに横槍を入れさせるなんてことは考えなかったのか?」
――それはもう手遅れだったよ、二人のメモリオンはもうその範疇を超えてしまっているのだからね
そう言ってエージュは天児と天夢が戦う光景を見せた。
それは天児を唖然とさせた。一合ぶつかり合うたびに、光が満ちて、大地が震えるほどの振動が起きていたのだ。
「とんでもないな……」
――そうとんでもないさ、だからこそ私も行く末を見守ることしかできなかった。
「他のアクタはどうすることもできないな……」
――そしてこの戦いから時間軸は歪みはじめたんだ
「俺達のせいか……罪深いな…」
天児は自嘲する。
――そのことを知って欲しかった。できれば君が受け入れられる強さを持つまで待つつもりだったけどそうも言ってられなくなった
「どうしてだ?」
――この時間軸も危なくなったんだよ。歪みは私の予定よりもはるかに大きく速くてね。それまで十一時五十九分に開けていたミッドナイトスペースが時間通り開けなくなったのがその証拠さ
「そうしなければ時間軸が歪んでしまうからか…」
――そういうことだよ。ただちにアクタのメモリオンを回収する必要があったんだ。
「なるほどな……」
天児は納得した。
「だけど、その歪みの原因は何なんだよ? 俺とあいつはまだ戦ってすらいないってのに?」
――それはこの続きを見てからさ
そこで天児と天夢が戦う場面から切り替わった。
天児が力尽きてその場にへたりこんでいた。つい先程まで天夢と戦ったがために、精も根も尽き果てた様子だった。
「天児君ッ!」
そこに天児に呼びかける声があった。
「み、かみ…?」
天児はその声の主に反応して顔を上げた。
「まだ私のこと憶えていたのね」
「かろうじてな……そこにいるのは空か?」
美守の向こう側にいる少女に天児は目を向けた。
「ソラ…!?」
その光景を見つめていた天児は驚愕した。
それは紛れも無くソラそのものであったからだ。
「おれのきおく、どうかしちまったのかな……空は、もっとこう、ちいさかったはずなんだけどな……」
「おにいちゃん!」
ソラは天児に抱き寄った。
「そらだよ、わたしそらだよ…! おにいちゃんにあいたくて……!」
「そうか……」
ソラの溢れる涙を天児は微笑んで受け止めた。
「ソラ……」
その光景を愕然として見ていた天児はソラを見た。
「なんでだ……時間はそんなに経っていないはずなのに…?」
「それは……」
ソラは震える声で答えようとした。
――これが歪みさ
すると、エージュが代弁した。
――言っただろ、歪んだ時間軸の中では時計の針は一定に進む訳ではない。
「でも、だからって!」
――それは全てのモノに等しく起きる現象ではない。君と美守は変わっていないだろう。だがソラはわずか一週間で十年も歳をとってしまったんだよ
「そんなのって……それが歪みだっていうのか……」
天児はソラを見つめた。
「あんまりだ……」
天児がそう呟くと、目の前の光景にも変化が起きた。
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