第30話 伯爵様が謝りに来ました。

 エドガール伯爵は息子の頭を押さえて下げさせている。


「とりあえず、頭を上げて下さい。ちゃんとお話しましょうか」


御影の言葉に伯爵は頭をあげた。


「今回のご無礼、なんとお詫びしたらいいのか」

「親父! なんでこんなヤツに頭下げてんだよ! ってかなんで、うちの屋敷より広い屋敷に住んでんだ!!」


バカ息子の方はまだ反省はして無いようだった。


「どうやら息子さんはまだ私の事をよくご存じ無いようですね?」


御影は肩書きは無いが、とっくにそこらの有力貴族以上の力を持っているのだ。


「本当に申し訳ない」


伯爵は更に頭を下げた。


「エドガール伯爵には色々お世話になってますし、大目に見たい所ですけど、こっちもうちのメイドさんに付き纏われたら困るんですよ」

「ええ、もうそれは重々承知しております」

「こういう言い方はしたくないですが、親がいくら謝っても本人が反省してないようじゃ、こちらも、法的手段を取らせてもらいますがよろしいですね?」


その言葉で今まで黙っていたバカ息子が口を開いた。


「俺は貴族だぞ! 平民のお前とは違うのさ。女の一人や二人、手を出しても許される身分なのさ」


息子の言葉にエドガール伯爵は絶望の表情に変わった。


「お前、完全にこの俺を敵にしたな。その言葉、忘れるなよ」


御影はニヤリと笑った。

次に大きなため息をついた。


「とりあえず、エドガール伯爵には長い事お世話になってますから、今回だけは大目に見ます。ですが、次はありませんよ?」


御影は真剣な眼差しを伯爵親子に向けていた。

 エドガール伯爵とは御影が最強賢者として名が馳せる前から良くしてもらっていた。

以前、御影の店で問題を起こしたクレール子爵の時も御影の身を心配して、相談にも乗ってくれた。


「感謝する」

「では、今日はこの辺で、ということで」

「ああ、我々もこれで失礼させてもらいます」


エドガール伯爵親子は立ち上がり、御影の屋敷を後にした。


「良かったんですか? あっさり許して」


クラリスが不満気な顔を見せた。


「俺が何も手を打って無いとでも?」

「へ?」

「あのバカ息子が伯爵を世襲出来ないように根回ししておいた」


伯爵家もエドガールさんの代で取り潰しかバカ息子以外の誰かが継ぐことになるだろう。

まぁ、その場合、あのバカ息子は永久追放だろうがな。


「なんとか、さすがは御影さんです」

「俺はちょっと王様頼んだだけだよ」


御影は黒い笑を浮かべた。



エドガール伯爵のバカ息子は帰り道に怒鳴られていた。


「バカもんが!! 叢雲家に喧嘩売って、家が勝てると思ってるのか!! 取り潰されても文句は言えなかったんだぞ!!」

「あ、あいつそんなにヤバいのかよ? ただのメイドカフェの経営者だろ?」

「お前は知らんのか、あの方はな、Aランク以上の魔物討伐やダンジョンの最深部まで潜った、最強の賢者様だぞ!」


御影は国王陛下に意見出来る数少ない一人だろう。

 翌日から、メイド喫茶セルヴァントは通常営業していた。

杏は少し傷心中のようでお休みだ。



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