第22話 次から次へと巻き込まれます。

 メイド喫茶セルヴァントは一日、定休日を挟んで今日も営業している。

御影は午前中、冒険者学校に顔を出し、少し授業してからメイドカフェの方に出勤する。


「お疲れ様」

「あ、オーナー。お疲れ様です」


今日もそこそこ賑わっているようだ。

趣味程度の店なので赤字でも別にいいのだが、今の所、赤字を出して居ない。


「おかえりなさいませー。お嬢様」


エルフ族の二人の女性が入店して来た。


「女性だけの入店とは珍しいな」


御影は少し気になったが、帳簿の確認と在庫整理をしていた。


「ご注文はお決まりですか?」


杏がお冷やを出しながら聞いた。


「あ、あの、ここにクラリスというエルフ族が居ると聞いたのですが」


緑色のローブを羽織った女性の一人が言った。


「あ、クラリスちゃんですね。呼んで来ますねー!!」


杏がトコトコとキッチンの方に入って来た。


「クラリスちゃん、お嬢様方が会いたいって。同じエルフ族の人だったけど」

「エルフ? うん、分かった。行って来る」


クラリスがキッチンからホールに出て、お嬢様方の方へ向かう。


「お呼びですかおじょ……!? レイシャ!? エマ!?」


次の瞬間、お嬢様たちが立ち上がった。


「クラリス様。よかった……生きてた……」


二人のエルフがボロボロとその場で泣き崩れた。


「うん。世界最強の賢者様に救われたの。今、呼んでくるね」


クラリスが小走りでキッチンに戻ってきて御影を呼んだ。


「オーナーの叢雲御影です。とりあえず、上に行きましょう。ここでは他のお客様の目もあります。上でお話を伺います」


杏に一階店舗の方を任せ、御影とクラリス、そしてエルフ族の子二人を連れて二階へと上がった。


「とりあえず、座って下さい」


御影は座るように促した。

対面にエルフの子二人、御影の隣にクラリスという位置で腰を下ろした。


「クラリス様を救って頂き、ありがとうございます。私、レイシャと申します」

「エマです」


二人は御影に向かって頭を下げた。


「叢雲御影です。元最強の賢者と言われています。それでどうしてここまで?」


エルフの里から王都はかなり離れているはずである。


「存じております。クラリス様が儀式の生贄にされそうになっていたのはご存知で?」

「ええ、クラリスから聞きました」

「クラリス様は里の長老の娘さんです。そのようなお方を生贄に捧げるなど、我慢出来なくて、私共が逃したのです。クラリス様が王都に居る言う噂を耳にし、王都へと来ました」


この二人が以前、クラリスが言っていた人たちだな。

遥々、遠くからやって来るとはな。


「で、その儀式というのは何なんだ?」

「はい、十年に一度、私たちの里には鬼が生まれると言い伝えられています。それを防ぐ為には若き女を生贄に捧げる無ければならないと。その十年目が今年だったのです」


そんないい伝え馬鹿げている。


「そんな言い伝え本気で信じているのか?」

「いえ、最近の若い者は信じておりません。しかし、里の長老一派は本気で信じております」


仮にも自分の娘を生贄に捧げるなど頭がおかしい。


「それで、その今年の儀式はどうなったんだ?」

「クラリス様が逃げたとされ、他の者が生贄に捧げられました。私たちの力及ばず、助けられませんでした」

「そうなのですね……」


それまで黙って聞いていたクラリスが口を開き、目を伏せた。


「そんな儀式、俺が潰してやるよ」

「「「え!?」」」


御影の目に怒りの灯火が灯った。

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