第21話 メイドのスカウトはご遠慮下さい。

 メレーヌさんもだいぶ、メイドの仕事が板についてきた。


「だいぶ慣れてきたみたいだね」

「あ、御影さん。はい、杏さんとクラリスさんに色々教えてもらいましたので」


やっと御影のやりたかったメイドカフェに近づいてきた。

ありがたいことか、王様からのお呼び出しもない。


「おかえりなさいませ。ご主人様。こちらのお席にどうぞ」


メレーヌが接客している。


「ん? この辺じゃ見ない顔だな。一応、注意しておくか」


その男は御影と似たようなスーツ姿であり、髪形も決めているが、どこか、チンピラのような雰囲気を纏っている。


『感覚拡張』


御影は魔法を展開した。

視界にその男を捉えつつ、聴覚に意識を持っていく。


「ご注文お決まりですか?」


杏が注文を聞きに行く。


「ん。じゃあ、ホットの紅茶で」


男が答えたのが聞こえた。


「かしこまりました」


注文を取って、杏が戻ってくる。

 今のところ問題は無いな。

御影は少し安心した。

このまま何事もないといいのだが。

面倒事は出来る限り避けたい。

一応、飲食店なのだから、そんなにホイホイ面倒事を持ち込まないでいただきたいものだが。

そんな、御影の期待は打ち砕かれることになる。


「お待たせしました。ホットの紅茶です」


メレーヌがお盆に紅茶を乗せて、その男の席まで運んだ。


「君、この前まで娼館で働いていたよね?」

「へ?!」


男がメレーヌに向かってニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った。


「まずいな」


御影は心の中でそうつぶやいた。


「娼館の次はメイドさんか? どうだ? もう一度、娼婦として働かねぇか?」

「も、もう、娼婦なんてやりませんし、する必要がありません!! 失礼します」

「ちょっと待てよ。娼婦やっていた事ばらされたくないだろ?」


その男がメレーヌの腕をつかんだ。


「あ、あの人、終わりましたね」

「ええ、そうね」


少し離れた所から見ていた杏とクラリスが言った。

溜息混じりに御影がキッチンから出てきた。


「お客さん、メイドにお触りは厳禁って書いてあるよな? それとも馬鹿には読めなかったか?」

「うるさい! 男はすっこんでろ。こいつはな、娼婦だったんだぞ」


男は息を荒くしながら言い放った。


「だから何だ? こっちはな、それを知った上で雇ってんだよ。うちの店でスカウトするとはいい度胸だな。スカウトならよそでやれ。それとも、痛い目を見ないとわからないか?」


御影もドスの効いた声で言い放った。

それと同時に向けた殺気に男は言葉を詰まらせたが、次の瞬間、懐からナイフを抜いた。

こちらに向かってくるナイフを持った手首をとり、捻り上げて、ナイフを落とす。

落ちたナイフをカウンターの方まで蹴り飛ばし、手の届かないようにする。

捻った手を一度離し、よろめいた所に回し蹴りをお見舞いした。


「き、貴様、何者だ?」

「叢雲御影、この世界で最強と言われた者だよ」

「む、叢雲だと?! なんで魔法使いが体術なんて使えるんだ!!」


驚いたような顔をこちらに向けた。


「だってここ内だし。魔法なんて放つわけにはいかんでしょうに」


御影の戦闘スキルは常人をはるかに超えている。


「お前うちのメイドに手を出すのが悪い。さっさと消えな」


御影の迫力にスカウトの男は足早に立ち去った。


「大丈夫か? 変なのに絡まれて大変だったな」

「いえ、それは大丈夫なんですけど、御影さん、強すぎませんか?」

「え? そう? 普通だよ。まあ、ちょっとムカついたしね」


離れている所から見ていた杏とクラリスは呆れていた。


「さあ、仕事に戻りましょう」


御影の指示で何事も無かったかのように仕事を再開するのであった。

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