第12話 元最強賢者は命を狙われました。
「あ、あなたが御影さん……?」
「ああ、そうだよ」
「引退して店を開いたと聞きましたがまさかここのメイドカフェだったとは」
護衛の一人は御影の存在は知っていたが、顔までは知らないようであった。
御影はあまり強そうな見た目ではないので、最初はみんな舐めてかかる。
「私、ずっと御影さんに憧れてて……」
「そんなことはどうでもいいから、さっさとそこのアホ連れて出てけよ。料金は要らんから、今後うちの店には一切近づくな」
御影は鋭い眼差しを向けてクレールらを追い払った。
「あの、大丈夫ですか?」
杏は心配そうに御影を見つめていた。
「ああ、この程度ならなんの問題もない。護衛にしては弱かったし」
「仮にも貴族の護衛が弱いって、あんたどんだけ強いのよ」
キッチンの方から見ていた天音は呆れたような顔をしている。
「ま、まあ、一応、世界最強って言われてたし」
御影は苦笑いするしかなかった。
「クソっ! 叢雲御影! ちょっと強いからって調子に乗りやがって。私を敵に回すとどうなるか目にもの見せてやる」
クレール子爵は怒りの感情を露わにした。
この時、クレールは知らなかった。御影の本当の怖さに。
「おい、闇ギルドに伝えろ。ターゲットは叢雲御影。ヤツを脅せとな」
「し、しかし、相手はこの世界で最強と言われてる者、そう簡単にはいかないかと」
「それでも何とかするんだよ!!」
クレールは自分の部下に命令した。
そのころ御影は店仕舞いをして帰路に就こうとしていた。
「今日も疲れたぁ。あの貴族野郎のせいだな」
いつも御影は最後に店を出る。
他の従業員は定時に帰宅してもらっている。
我ながらホワイトな店だと思っている。
「ん? 誰かに後をつけられてるな」
御影は店から後を付けてくる複数人の気配を感知した。
「ちょっとご挨拶させてもらおうかな」
御影は人通りがそこそこある表通りから一本裏通りへと入った。
するとやはり、こちらに敵意を向けた気配が距離を詰めてくる。
「こんばんは。何か用かな?」
御影は付けてきたヤツに黒い笑みを浮かべた。
よく見ると、一人は男、もう一人は女だった。
その男と女は無言のまま、懐からナイフを抜いた。
「おっと、自己紹介もなしですか。君たち闇ギルドの人間だね?」
それでも無言を貫いている。
「そうか、言いたくないか」
御影の目に怒りの灯が灯った。
飛んできた投げナイフを綺麗に躱し、男のみぞおちに拳を入れる。
女の子に手を出すのは忍びないが、先に襲ってきたのは向こうだ。
文句は受け付けない。
ナイフを構えて飛び込んできたので躱すと同時に投げ飛ばした。
「まだ、しゃべれるな? 誰に頼まれた? まさか自分たちの意志ではあるまい」
「…………」
それでも喋ろうとはしない。
「クレール子爵か?」
その名前を出した時襲ってきた奴らの表情が一瞬変わった。
「図星だな」
その後、闇ギルドの奴らを拘束し、警備兵へと引き渡した。
「あとは、首謀者のクレール子爵だな」
御影はまたしても黒い笑みを浮かべた。
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