第8話 ケットシーの跳躍力

 

 

 

「おっ、来たな!?」

「こんにちはー」

 

 奥の部屋から歩いてきたアライクンさんは、俺の顔を見るなりニヤッと笑った。

 おじさんの方でも何らかの準備があることはわかっていた。それが済む前に来てしまったらどうしようとは考えていたけれど、この表情を見る限りその心配はなさそうだ。

 

「そうだな、お譲ちゃんはここで待っていてくれるかい?」

「……はい」

 

 レフィのしょぼくれた返事に、おじさんは「お?」と眉を上げえて、それから俺を見る。何やったんだ? と問うような表情に、なぜ勝手に俺を犯人にするんですかと聞き返したいけれど、今回ばかりはそうもいかない。そうです、僕がやりました。

 

「まあ、入んねえ」

「はい」

 

 待合室の椅子にレフィが腰掛けたのを見届けて、俺はおじさんの背中を追った。

 次に街に着いたら、レフィには何か甘いものでも与えよう。

 

 

 

「用件だけぱぱっと済ませちまってもいいんだが、ま、見ての通り暇でな。若者たちの刺激をちっとは分けてくれないかと思ってよ。あの子の様子はどうだ?」

「レフィさんですか?」

「おう」

 

 通されたのは検査を行った個室だった。

 部屋の中央には管の通った円形の台がある。部屋の隅にある透明なケースの中には魔法工具のようなものがズラリと並んでいて、俺の検査のときにも使われたものがいくつかあった。

 おじさんがこの部屋を選んだ理由は防音が主な目的だろうか。さながら人体実験でも行えそうな雰囲気は、きっとどこの支部も変わらないのだろう。

 

「まあ、ちょっと、僕がヘマをしまして」

「あー、昨日今日の話はいいんだ。そんなワイルドウルフでも食わねえような話は聞きたくもねえ。そりゃあ男と女がいりゃ、ヘマもするし喧嘩もする。大いにしたらいいさ。そうじゃなくて、まあ様子だな。お前から見たお譲ちゃんの最近の様子は」

「様子、ですか」

 

 アライクンさんの質問は漠然としているようで、何か特定の答えを待っているように思えた。でも、俺にはそれが何なのかがわからない。

 

「レフィさんは、そうですね、僕の世話が上手ですね」

「ハッ、世話されてんのかニト」

「世話というか、……うん、まあ、世話ですね。レフィさんってやけに頭の回転が良くて、それで面倒見もいいんですよね。僕がどれだけ散らかしても嫌な顔しながら全部片付けてくれるんですよ。そんなの、甘えちゃうじゃないですか」

「お前、ほどほどにしとけよ?」

「パロームおばさんはほどほどでしたか?」

「あん? ああ、そうだな。あの人もめちゃくちゃに面倒くさい人だったからな……」

 

 アライクンさんが遠い目をする。そして何かを思い出したように、ふっと笑った。

 その笑みは困っているようにも見えるけれど、しかし薄い色の瞳は穏やかで、そこには確かな愛情が感じられた。おばさんのワガママに手を焼かされることをわかっていて、それでもアライクンさんは、お店に顔を出していたのだろう。

 

「ニト。お前はちょっとな、あの人に傾倒しすぎてる」

「僕が、おばさんにですか?」

「そうだ。お前があの人に拾われる前のことは俺にもわからないし、聞く気もない。けど今のお前は、あの人の背中をまだ追いかけているように見える。いや、違うな、あの人、そのものになろうとしてる。それは多分、パロームさんもわかっていただろうし、気にかけてはいたかもしれないけど、でもあの人、全然ひとを叱らないだろう?」

 

 アライクンさんは片方の眉を吊り上げてみせる。

 俺はおじさんの言葉に、おばさんとの記憶を辿ってみる。

 

「……そうですね、声を荒げているところなんて見たことが無いです。おばさんの考えはおばさんで持っているはずなのに、何を考えてるのか全然わからないんですよね。自分の生き方は自分だけって感じで。僕がもし刃物を持って大通りに飛び出そうとしても、おばさんは止めなかったんじゃないかと思います。ただ、変な格言みたいなことはよく言ってましたよ。『他人を変えようとするなんて不幸になりたい奴のすることさ』とか、いろいろ」

「はっはっ、声まで聴こえてきそうな言葉だな。よく覚えてるなそんなこと」

「耳に残ってるんですよ、いろいろ」

 

 とにかくクセの強い言葉が多かったように思う。

 ただ、それを口にするのは決まって俺が何かに失敗したときではなく、料理中だったり、衣類を畳んでいたり調合している時だったりと、まったく脈絡のない時間や場所であることがほとんどだった。

 それは俺に言い聞かせるというより、自分に言い聞かせていたのだろう。自分の道をしっかりと再確認するために、言霊のようにつぶやいていたのだろうと、俺は考えている。

 

「ニト。オレもよ、別に叱るのが上手いわけじゃねえし、あの人の言う事も極端だが、本質的には正しいと思っている。お前の、恩人の言葉を大事にしたいって気持ちもわからんではない。けどな、だからこそ受け取り方は間違えないようにしろよ?」

「受け取り方、ですか?」

「言葉ってのは想い全部は表しきれねえ。特にあの人は絶望的に説明が足らねえ。あの人を目指すのも結構だが、うーん、なんていうんだろうな、どう言っていいかはわからんが、お前はお前だぞ、二ト」

 

 お前は、お前。

 真剣なその言葉に、俺も真剣に向き合おうとするけれど、おそらく、おじさんが俺に言いたがっていることのほとんどを、俺は上手に受け取ることができない。

 

「僕は、何か間違ってるんですかね」

「……いや、難しいな。例えるならそうだな、歯車が所々で合ってないんだが、種類も大きさもそこまで間違ってないから結局動いちまってる、って感じかな。なんならそのまま誰にも気付かれずに動き切っちまいそうにも見えるけど、他人の歯車と付き合いが必要になったときに、噛み合わせにズレが出やすくなってるんじゃないかって感じかね」

 

 我ながら、よくわからんな。とアライクンさんは苦笑した。

 

「他人との噛みあわせですか。……レフィさんと僕はズレてます?」

「ああ、俺が言いたかったのはソコだ。様子を聞いただろう? あのお譲ちゃん、契約のときにすげー落ち込んでたんだよ」

「契約のとき? って、僕も一緒にいたときですよね?」

「そうだ、お前の前ではなんてことない顔をしてたけどな。チューニングをしている最中は、ずっと暗い顔をしてたんだ。オレが何か言ったかとも思ったが、事務的なやり取りしかしてなかったんでな。ちょっと気になってたんだ」

 

 あのときのレフィは、音指を試したくてうずうずしているように見えた。曲がりなりにも、新しい契約を喜んでくれていると思っていた。

 違ったのだろうか。

 彼女は俺との契約を後悔しているのだろうか。

 

「そうですか、レフィさんが……」

「まあ、お前らにはお前らの事情があるとは思うけどよ。なんていうのかな、何かズレてるなとか、うまくいかねえなと思ったときは、お前自身の気持ちをお前の言葉でちゃんと伝えたほうがいい。……と、オレは思うね。お前はお前だ」

 

 俺たちの事情。

 

 そうか。

 アライクンさんは、俺とレフィが一時的な付き合いであることを知らない。もしかしたら、俺とレフィの将来を思っての言葉なのかもしれない。

 きっとそれに悩むべきは、俺ではなく、あの頬に傷のリーダーなのだろう。

 

 例え彼女が俺との契約を後悔しているのだとしても、元のパーティに戻ってしまえば、それで済んでしまう話だ。もともとがそういう話なのだから。

 

「まっ! そんなとこだ。長々とスマン。お譲ちゃんも待ってるだろうから、本題に入るぞ」

「あ、本題じゃなかったんですね」

「当たり前よ。コレを渡すために呼んだんだからな」

 

 そう言って、おじさんはポケットから細長い筒を取り出した。

 

「開けてみろ」

 

 俺は促されるまま、手渡された筒の蓋を外した。中には丸まった紙が入っている。

 それを広げると、両手を開いて並べるくらいの大きさになった。

 

「……紹介状ですか?」

「そうだ」

 

 俺は紙面に目を落とす。

 

 以下の指令レフィンダー及びその戦士ボルダーを……ギルド……、ゴノーディスに……。

 ゴノーディス。

 

「ゴノーディス!?」

 

 俺は額を押さえて、おじさんに目をむける。

 ニヤついたその顔は、俺が驚くであろうことを確信していた違いない。

 

「どういう、ことですか?」

「はっは、調合部屋に篭ってたお前でもこの名前くらいは知ってるか」

「知ってますよ、そりゃ」

「パロームさんの驚いた顔なんてそうそう見れなかったからな、代わりにお前でも驚かしておこうと思ったんだ」

 

 ただのサプライズで用意できるような紹介状じゃない。

 おじさんの顔の広さは理解しているつもりだったけれど、ここまでとは予想外だった。もしかしたらこの国の領土の三分の一くらいはおじさんの顔面で出来ているのではないだろうか。よくよく地面を見たら毛穴が確認できるかもしれない。

 

「誰か、知り合いが?」

「まあ昔ちょっとな。先方にはもう話は通してあるが、この紹介状を使うかどうかはお前に任せる。好きにしろ」

「任せるって……、こんなの断ったら、おじさんの面子はどうなるんですか?」

「オレの面子なんざどうでもいいが、その辺も全部含めて、話は通してあるって言ってるんだ。それにこれはただの紹介状だ。すでに入る予定になっている、ってワケでもない。いつでも入れるし。いらなきゃ燃やして暖をとってもいい」

「最初から入る予定になっているよりも、そこまで融通を利かせられる紹介状の方が、ヤバいと思うんですけど」

「細かいこたぁ気にすんな。用事はそれだけだ、ほら行け。オンナに待たせられても、オンナを待たすな」

 

 急かされるように俺は部屋を出る。

 おじさんに背中を小突かれながら待合室に戻ると、顔を上げたレフィと目が合った。

 気まずそうな視線はくりくりと彷徨ったあとに、底に沈む。

 

 驚きに浮ついてた気持ちが、すっと現実に引き戻される。

 おじさんの言っていたことを思い出す。そして再確認する。

 

 この紹介状が必要になる日は、おそらく来ないのだろう、と。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「たぶん、もうすぐです」

「……そうですか」

 

 おじさんの支部を出た時点でお昼は過ぎていたけれど、レフィの希望もあり、今日中に下見も兼ねて妖精の花畑を見に行くことになった。

 俺の提案に、即座に「行きます」と答えた彼女の瞳は力強く、彼女の強くなることへの並々ならぬ意思が伝わってきた。

 

 そのすぐあとに、やはり視線を逸らしてしまった彼女も、昨日よりも半歩は遠いその距離もなかなかに痛々しい。俺の手が届かない距離を保っているのだろうが、頭に触れられたということが彼女の中でどんな影響を及ぼしているのかは、俺には皆目見当もつかなかった。

 

 良い影響でないことだけは確かだが。

 

「レフィさん、なんか遠くないですか」

「…………なにがですか。もうすぐなんですよね?」

「いえ、花畑じゃなくて、レフィさんが。なんだか昨日より、すごく遠い存在に感じるのです。まるで手の届かない所へ行ってしまったような、そんな漠然とした不安が僕を襲うのです」

「し、知りません。昨日からこんな感じです、わたし」

「そんなことないですよ、昨日まではあんなに、あんなに同じ世界の空気を吸ってきた仲じゃないですか」

「いきもの全部そうだと思いますよ」

 

 レフィの冷たい言葉に、俺は昔を懐かしむように遠くを眺める。

 

「一緒に、まばたきもしましたね」

「ニトさんと一緒じゃなくてもします」

「夜空の星に魚が食べたいと願いました」

「それは覚えが無いです」

「覚えていませんか? あの数年前の、僕だけの大切な思い出ですよ」

「わたし関係ないじゃないですか!? だいたい、なにをお願いしてるんです!?」

 

 むんと尖らせた唇に俺が笑いかけると、彼女はしまったというような顔を見せて、ぷいっと横を向いてしまう。

 俺は楽しくなって、彼女の素晴らしく丸い頬を眺める。

 

「海の魚ってめちゃくちゃ高いじゃないですか。川魚しか食べたことが無かったので、その頃はちょっと憧れてたんですよね。レフィさんは食べたことありますか?」

「……ないです、ケド」

「実は僕もまだないんですよ。アライクンさんなんかは、一回か二回くらい食べる機会があったらしいんですけど、それはもうとんでもなくおいしいらしいですよ。切り身からしてめちゃくちゃ大きいらしいです。薄くスライスしたものとか、ホリーと合わせて蒸してみたり、さっぱりとお鍋もいいですし、取れたアラで汁物を作ったり、小さいものなら川魚と同じように塩焼きもいけちゃうみたいです。思いっきりかぶりついてみたいと思いません? ロマンですよ。塩も高いですけど。稼げるようになったらたまの贅沢もいいと思うんですよね。どうですかレフィさん。もし機会があったら一緒に食べませんか?」

「べ、別に、いいです、ケド」

「本当ですか!? ……ああ、でもレフィさんはこんなにも遠い存在ですからね。俺から誘うだなんておこがましいですよね。俺の手の届かない人だってことを心に刻んで、今日も僕は生きていくわけです。ああ、レフィさんと海の魚食べたかったなあ」

「べ、つ、にっ! いいですっ!! けどっ!?」

 

 だんと音を鳴らして、レフィが一歩近寄った。

 俺が思い切り笑うと、彼女が恨みがましそうに俺を見上げる。

 ケットシー種は無類の魚好きで有名だ。

 

「もう、考えるのも疲れました」

「疲れましたか? いまからですよ、妖精さんと戦うのは」

「わかってますよ……、はあ」

 

 万感の込められたようなため息は、およそ彼女の年齢で吐き出すものとは思えなかった。

 俺と一緒にいたら、彼女がスれていくのではないかという謎の危機感と罪悪感に、俺は良い笑顔で無視を決め込むことにした。

 

 すぐそこに、花畑が見えてくる。

 

 

 

 

 

音指ノート、無しなんですね……」

「ちょっと期待してました?」

「……少しだけ」

 

 彼女にしては素直な返事に、俺は苦笑する。

 少しどころか、これはかなり期待していたと見える。

 

 傾きかけたお日様の下、先客は誰もいなかった。俺たちと同じように初心の戦士達がいくらかいるものかと思っていたけれど、予想が外れた。これだけ綺麗な景色であれば布でも敷いてお茶をする人たちがいてもおかしくはないけれど、広がる花畑を背景に妖精さんが次々と葬られていく様子を楽しめるとすればかなり特殊な方々だろう。

 

 まあ、こんなエリアで長い時間をかけるようでは旅は立ち行かない。初めての戦いに準備万端、意気揚々と朝に出発してみれば、昼までには終えてしまうのが普通だろう。

 

「でも、ニトさんもこの五日間で練習してたんですよね?」

 

 そう言って、彼女が小首をかしげる。

 背中の剣がちゃきりと鳴った。

 

「練習、ですか」

「アライクンさんが言ってませんでした? 特殊な練習が必要になるって」

「あ、ああ。そうでしたね。バレては仕方が無いです。こっそり練習してました」

 

 と、いうことにしておく。

 

「せっかくお互いに練習したのですから、成果を見せ合えると思ったのですが……」

「音指はどうしても必要なとき以外は使わないですよ。どんな戦いでも、戦士のその場の判断が基本です。戦士が『ここは避けなければ!』と思ったときに、司令の『攻撃しろ』なんて指示に従ってる場合ではないですからね。怪我しますよすぐに。それに、レフィさんには戦うのが大変な魔物が出てきても、しばらくは音指は使わないつもりです」

「ええ!? な、なんでです!?」

「人によって声紋の繋がり方とか、響きが違うらしいので、あんまり僕の声に慣れてしまったらあのパーティに戻ったときにレフィさんが困ることになります」

「う……、そうなんですか」

「そうなんです」

 

 と、いうことにしておく。

 

「で、でも、どこかでいきなり強い魔物が出てくるかもわからないじゃないですか。先に音指がどういうものなのか慣れておかないと、いざというとき困ると思うのですが!?」

 

 ……うーむ、一理ある。

 いちいち勘がいいなレフィは。

 

 なかなかに食い下がってくる様子は、やはり期待の現われだろう。そして、強くなることに貪欲なのだろう。理想的な戦士だ。特に、俺にとっては。

 

「……そのあたりは考えてあるので、大丈夫です。とりあえずレフィさん。この線からジャンプしてみてください」

 

 話題を変えるついでに、俺は地面に靴を立て、ざーっと一本の直線を引いた。

 線の手前に両足を合わせて、前方を指差して、軽くぽんと飛んでみせる。

 

「こんな感じで」

「それ、なんの意味があるんです?」

「帰るまでにはわかると思います。どうぞ」

 

 怪訝な顔をしながら、レフィは線に足を合わせて、俺と同じようにぴょんと跳んだ。

 着地した位置はだいたい俺と同じ。おそらく見よう見まねだったのだろう。

 

 俺はわざと口の端を吊り上げてみせる。

 

「はん、ケットシー種の戦士ともあろうものがそんなものですか」

「はい!? なんですかいきなり!? ケンカ売ってますか!?」

「いやはや、少しレフィさんを買いかぶりすぎていたようです。まさか司令の僕と同じ程度の跳躍力しかないとは。恐れ入りました」

「ぜんっぜん! 全力じゃないですうっ!! 見せてあげますよそれなら……!!」

 

 肩を怒らせながら、彼女はつかつかと歩き、もう一度線に足をそろえた。

 ふんすと鼻息を荒げた彼女の瞳は真剣そのもので、魔物と戦う前から、彼女が戦闘時にどんな表情をするのかがわかってしまった。

 

 いい顔だ。

 

「ふっ!」

 

 軽い掛け声とともに、彼女の体は消える。

 大きな放物線を描くその小さな体は、おそらく俺の頭もゆうに飛び越えられるだろう。俺の予想をはるかに上回る跳躍に、一瞬、目が付いていかなかった。

 あれだけ重い剣を背負って、これだけ跳べるのか。

 

「わ、あ、あ」

 

 空中でわたわたと手を動かす彼女は、そのまま花畑に突き刺さるように植わり、めでたくお花の仲間入りを果たした。バランスを取ろうとしたのだろう両手が綺麗にバンザイしているところがなんとも芸術的だ。

 

「ど、どうですか!? 見ましたか!?」

 

 少し顔を赤らめたレフィは、赤色黄色白の花を掻き分けながら戻ってくる。

 俺の目の前にそのまま立つと、むんと自信げに見上げてくる。これが撫でろというサインではないというのだから、詐欺もいいところだ。

 

「見ました」

「どうですか!?」

「正直、すごかったです」

「……え?」

「すごかったです、正直に。戦士の身のこなしを初めて間近でじっくり見たかもしれないです。予想以上でした。変な話、顔つきも格好良かったので絵になりましたね。真っ直ぐに前を見据えて、胸のすくような跳びっぷりを見せたその姿はまるで」

「も、もういいです! もういいですから!」

「まるで、何か、何かのようでした」

「ヘタクソですか!? 褒めるならちゃんと褒めてくださいよっ!」

 

 ふんと顔を逸らした彼女の、その口元がうねっているのがなんとも可愛らしい。

 嬉しいなら、ちゃんと嬉しがればいいのに。

 

 

 

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