合挽き肉のハンバーグ

 制服を脱ぎ、クローゼットに吊るしながら考えても、何も答えは浮かばなかった。困ったな。なぜこんなことになったんだ? 今日、母さんはパートのはずだった。だから何の警戒もせず、家の周辺を彼女と歩いていたのに……。

 一緒に歩いていた彼女は今、母さんと一階のリビングにいる。「さっさと着替えてらっしゃい」なんて、体よく追い払われたのだろうか。思考回路がフリーズしたままだった俺は、一人で心細いだろう彼女を置いて、自分の部屋へ来てしまった。

 そして今、彼女のために一刻も早く着替えて降りていくのだという気持ちと、階下でどんな会話が繰り広げられているのかに恐怖する気持ちの間で揺れている。


 ……なーんて実況はいらねーんだよ、俺!


 激しく脳内自分ツッコミを入れ、洗ったばかりのスウェットの上下に身を包むと、いつものような何気ない調子を装って階段を降りた。外からリビングの様子を少し伺ってみたものの、何の話し声も聞こえてきやしない。気まずい雰囲気になっているに違いない。俺が空気を変えてみせる! 意を決してドアを開けると、いるはずだと思っていたソファーの上に彼女の姿はなく、まるでいつもそこにいるかのように、彼女はキッチンに立っていた。


「何してんの?」

 使い捨てのビニール手袋を身に着け、肉をこねる彼女に聞いた。

「今日のご飯ハンバーグなんだって。私もいただくことになったから」


 気まずい空気を心配してたのは俺一人だったのか。少し拍子抜けだ。


 何もしないのも手持ち無沙汰なので、俺も彼女の隣でハンバーグ作りを手伝うことにした。母さんと彼女と同じ空間を共有しているなんて、なんだが気恥ずかしくも嬉しくもあって、ふわふわした心地になった。


 中学生の妹と母さん、彼女と俺の4人で食卓を囲み、当たり障りのない会話をしながら夕食を共にした。さすがに父さんとも顔を合わせたら、彼女が気疲れしてしまうだろうと思い、早めに送っていくことにした。


「今日は急にこんなことになっちゃってごめんな」

「ううん、こちらこそ。ご馳走になっちゃって」

「俺、テンパっちゃって。最初母さんと二人にしちゃって……大丈夫だった?」

「ああ、それね。大丈夫だよ。気まずくなる前に手伝わせてもらったから」


 どうやら、俺が二階に上がってすぐ、挨拶もそこそこに母さんの方から一緒に夕飯を食べないか、ハンバーグ作りを手伝ってくれないか打診があったらしい。


「ソファーに座って待ってるだけだったら気まずかったけど、やることあったから変な空気にもならずに済んだよ」

「そっか」


 そういえば、彼女と二人で丸めたハンバーグはいつもより少し小ぶりだった。四人分の材料で急遽五人分作ることになったからかもしれない。妹は少し足りなさそうな顔をしていたが、不満を口にすることもなく、会話を盛り上げてくれていた。


 ……食後のデザートに家族の好きなアイスでも買って帰ろう。じんわりと温かくなった気持ちを抱えながら、俺は駅に向かう彼女の手をとり、自分のコートのポケットに突っ込んだ。

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