第54話 政変~契り5
そして投票日前日を迎えた。夜8時まで街宣車で周り、宮殿に戻ってきた未来は、遥貴の部屋へ直行した。
「遥貴!」
部屋へ入ってくるなり、机で勉強していた遥貴の元へ大股で歩いてきた未来。遥貴が立ち上がると、未来はがしっと遥貴を抱きしめた。
「未来、お帰り。どうしたの?」
「ただいま。もうこれで、どっちに転んでも終わりだな。」
「うん。」
「遥貴。」
未来は遥貴の両肩に手を置いて、体を離した。顔をじっと見る。
「何?」
「もし俺が大統領になったら、俺と結婚してくれ。」
「え?何言ってんの?この国では同性同士は結婚できないし、それに、僕には戸籍がないよ。」
いきなりのプロポーズに、遥貴はあたふたとしてそう言った。
「だから、俺が大統領になったら、それは全部クリアするだろ。俺と一緒に、大統領官邸で暮らそう。な?」
背の高い未来は、遥貴の顔を覗き込むようにして言った。
「もし、大統領になれなかったら?」
遥貴が上目遣いでそう言った。
「そうしたら、次の大統領選に挑戦するから。それで、大統領になったら結婚しよう。」
「じゃあ、未来が大統領にならないと結婚できないんだね。」
遥貴はおかしくなって、ぷっと噴き出した。そして、二人でひとしきり「あははは」と笑った。
「遥貴、俺と一緒に暮らしてくれるか?これからも。」
未来が問う。
「うん。」
遥貴は力強く頷いた。
大統領選投票日。朝から晴れ間が広がり、多くの国民が投票所に足を運んだ。今までの代議士選挙とは比べ物にならないくらいの投票率で、夜には開票作業が始まった。この国は開票作業が早い。電子化された投票は、瞬く間に集計された。
「山縣未来氏、当選確実です!」
各テレビ局が一斉に伝えた。未来の得票率が50パーセントを越えたのだ。未来が現在住んでいるのは宮殿なので、宮殿の広間で未来や応援陣営が当落の報告を待ち、報道陣も多数詰め掛けていた。当選確実の報がもたらされたのは、報道陣の方が先だった。ある記者が電話を取り、
「山縣さん、当選確実出ました!」
と叫んだ。他の記者たちもほぼ同時に電話で報告を受けており、カメラマンはフラッシュをたき、リポーターはテレビカメラに向かってしゃべり始める。未来や応援してくれた人たちは、思わず万歳をした。
そこへ、遥貴がらせん階段を下りて来た。いつも宮殿で報道陣の前に出る時には、スーツか民族衣装といった王らしい服を着ているが、今日は普段着だった。本当はここへ出てくるつもりはなかったのだが、別の部屋でテレビを見ていて、当選確実と報道されたので、思わず未来の元へ来てしまったのだ。
「遥貴!」
未来は周りの人に万歳三唱されていたが、遥貴を見つけると、遥貴の元へ階段を駆け上ってきた。階段の途中で二人は出会う。未来は遥貴を抱き上げた。
「うわっ、ちょっと未来!」
遥貴は慌てたが、珍しく興奮気味の未来は、抗議の言葉など耳に入らないようだ。
「やったよ、遥貴!」
「うん、おめでとう未来。」
「ここで結婚宣言してもいいか?」
未来がいきなりそんな事を言うので、それこそ遥貴は慌てた。
「いや、やめた方がいいよ。もっとよく考えた方がいいって。」
首を振り振りそう言った。
「何を考えるんだ?結婚するかどうかって?」
「そうじゃなくて、どのように公表するかを、だよ。」
未来が遥貴を抱っこしたまま、そんな事をごちゃごちゃ話していると、いつの間にか静かになっており、周り中が二人に注目していた。
「山縣さん、おめでとうございます。この喜びをまずどなたに伝えたいですか?聞くまでもないですが。」
女性リポーターがマイクを向けて来た。未来はさすがに遥貴を下ろし、ひと呼吸おいた。
「ありがとうございます。私を応援してくださった全ての方に感謝します。真っ先に伝えたかったのは、傍でずっと応援してくれていた・・・。」
未来は遥貴を振り返り、
「遥貴です。」
初めて、人前で「はるき」と呼んだ。いつもは「陛下」とか「遥貴様」と呼んでいたのだ。周りは一瞬シーンとなった。リポーターもなんと返したら良いか分からず、固まっている。
「私は、遥貴と結婚します。公約にも掲げていましたが、我が国でも同性婚が認められるよう、議会に法案を提出します。」
やはりと言うべきか、結婚について公表してしまった。結婚します、と言った瞬間に、「あっ」とも「ひゃっ」ともつかぬ短い叫び声があちこちで上がった。もう、質問することも無くなってしまったかのように、リポーターたちは言葉を発する事が出来なかった。
各テレビ局では、この映像を生中継していた。SNS上でも、おめでとう!の文字が躍った。テレビのアナウンサーやコメンテーターも、
「良かったですね。おめでたい事が重なりましたね。」
などとコメントしている。国内には同性婚に反対の意見もあり、議員の中にも反対する会派がある。法案が通るかどうかは厳しい状況だと言わざるを得ない。だが、未来が公約で掲げた上で当選したのだから、これまでよりも少しは状況が改善されるに違いない。
「そういえば、遥貴様は国王ではなくなるわけですよね。そうしたら、どちらへお住まいになるのでしょうか。ご結婚されるなら、大統領官邸に住まわれれば良いわけですから、問題ないですね。」
とコメントするコメンテーターもいた。そのコメントに、SNS上で大いに賛同する声が集まった。未来は、興奮して勢いで公表したように見えたが、その実ここまで計算していたのだ。当選と同時に公表した方が、世論の注目を浴び、賛同されやすいと。
「未来は、相変わらず恐ろしいね。」
柱の陰から様子を伺っていた尊人と健斗は、そう言って笑った。
「遥貴を取られちゃったな。まあ、俺が尊人をもらったんだから、遥貴は未来にくれてやるか。」
相変わらず口の悪い健斗がそう言った。
「何言ってんだよ。遥貴の気持ちが大事だろ。遥貴はずっと不安そうだったからな。未来がああ言ってくれて、本当に良かったよ。」
尊人がしみじみと言った。
「俺の分身、幸せになれ。」
尊人はそっと呟いた。
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