第48話 反抗期~自嘲4

 久しぶりに両親と食事を共にし、遥貴は夜、未来と一緒に部屋に戻った。未来は早速、スポーツをやるなら何がいいかと遥貴に聞いた。

「ラグビーか、クリケットか、サッカーか、テニスか、空手。」

遥貴は即答した。答えながら考えたと言った方がいいかもしれない。

「さすが、イギリスで育っただけあるね。クリケットは学校が絞られてしまうな。ラグビーは難しいな。お前は細いし、流石に危険だと言われてしまうだろう。テニスはいいな。王族がいかにもやりそうなスポーツだ。サッカーもいいか。空手は・・・健斗に習え。」

未来がざっと批評すると、遥貴は目をパチクリさせた。

「ちょっと考えるよ。」

遥貴が言った。未来は、遥貴がお風呂に入るので、お休みと言って部屋を後にした。


 翌日、未来は尊人に呼び止められた。

「昨日言ったよね、遥貴をかまってやってと。」

「え?何?」

未来は面食らった。実は夕べ、未来がお休みと言って遥貴の部屋を出た後、尊人は遥貴の部屋に行ったのだ。そうしたら、遥貴は元気がなく、話を聞いてみると、未来がそっけない、冷たい、と悩みを打ち明けたのだった。

「未来は、どう思ってるんだい?」

尊人は少し怒ったように言った。

「え、何を?」

「だから、遥貴の事をだよ。」

「どうって。大事だよ。」

未来は思わずそう言った。

「大事?好きって事か?」

尊人は詰め寄る。未来は目を泳がせた。

「そっか。ならよかった。」

尊人が少し穏やかになった。

「良くないよ。まだ13歳だよ。手を出したら犯罪だよ。」

未来が言うと、尊人はにやりとした。

「未来、光源氏計画って知ってるか?」

尊人が言った。

「ひかるげんじ?なんだそりゃ。」

未来は知らなかった。

「とある国の古代のお話で、源氏物語ってのがあるんだけど、そのお話の主人公の光源氏が、少女と出会って、その少女を理想の女性に育てて、妻にするんだ。それにちなんで、光源氏計画。つまり、子供の頃から理想の相手に育てて、将来結婚するという計画だよ。」

尊人はさすが帝王学を受けて育っただけあって、外国の文化に詳しい。

「それで、その光源氏計画がどうしたって?」

未来が言うと、

「それを、やってみたらどうだ?」

尊人が言う。

「・・・つまり、遥貴を理想の相手に育てろ、と?」

未来が言うと、尊人は満足げに頷いた。

「手を出さずに、育てるって事だよな。」

「放っておくなって事だよ。可愛がって育ててやってよ。」

未来はそれを聞いて、渋い顔をした。

「中途半端に可愛がるのは、きついんだよなあ。」

最後は独り言を言いながら、未来は頭に手をやって、尊人の元を去った。

 その夜も、未来は遥貴を部屋まで送った。これは未来の仕事であり、尊人が国王だった時にも同じようにしていた。そういえば、尊人に対してもずいぶん中途半端にハグしたりしていたよな、と未来は思った。

「未来、スポーツだけどさ、今日先生とも話したら、やっぱりテニスがいいんじゃないかって。僕もテニスは学校でやったことがあるし、またやろうかなって思って。」

ソファに腰かけて、遥貴が言った。未来は隣に腰かけた。

「よし、じゃあどこでやるか考えるよ。国立学校の部活がいいだろうね。」

「うん。」

ふと、未来の頭に光源氏計画がよぎった。真に受けるつもりはないが、親の了承も得ているわけだし、多少は可愛がってやるか、と。それで、未来は遥貴の肩に腕を回した。すると、遥貴が未来の顔を見た。未来もその顔を見返し、ハッとした。

 遥貴は顔を赤らめ、揺れる目で未来の目を見ている。尊人にもこのようにした事があるが、反応が全然違う。顔はそっくりなはずなのに。尊人は、未来をこんな風に見た事はなかったのだ。こんな風に熱っぽく、艶やかに見た事は。あの、一度だけしたキスの瞬間でさえ。

 欲していたものが、ここにある。未来の中でぐらっと何かが動いた。ぐっと遥貴の肩を引き寄せ、すぐ近くにある唇を見た。遥貴は目を閉じる。未来は遥貴に口づけた。だが、すぐに離した。そして、ぱっと立ち上がった。

「やっべ。何やってんだ俺は。」

未来はそう言って頭を抱えた。

「いいのに。」

遥貴がぼそっと言った。

「良くないよ!犯罪だよ。」

未来はそう言って、ため息をついた。

「僕は、この国の法律には当てはまらないよ。法律は国民に対して決められている事だから。僕は国民ではない。」

遥貴がそう言ったので、未来は遥貴を見た。

「ね。だから、またして!」

遥貴は立ち上がって、未来に抱き着いた。嬉しそうに笑いながら。未来は、その遥貴をぎゅっと抱きしめた。そんな風に自分に対して笑うのも、尊人ではなく遥貴だけだ。

「はいはい、また明日な。」

未来は顔が熱くなったので、顔を見られないようにそっぽを向いて遥貴を離した。

「明日もしてくれるの?」

あどけない様子で遥貴が見上げている。やっぱり、甘やかしている、と未来は思った。それでも、うんうんと頷く。そしてちらっと遥貴の顔を見ると、幸せそうにうつむいていた。

「・・・ああ、もう!」

未来は遥貴を横抱きに抱き上げ、ベッドに乗せた。遥貴は驚いて未来の目を凝視した。だが、言葉が出ない。

「もう止められないからな。」

未来はそう言うと、もう一度口づけた。

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