第43話 帝王教育~翻弄3

 未来は、遥貴にこっそり通信機器を渡そうかとも思ったが、やはり正面から面会を求めることにした。外務省職員としてというよりは、かつて尊人のボディーガードをしていた友人として、遥貴の力になりたいと申し出たのだ。そのためには、王制復権党に入党しなければならなかった。不本意ながら、仕方なく党員となり、あの邸宅(党首の実家)に出入りできるようになった。

「遥貴様が国王になれば、お前を傍に置いてやってもいい。そうしたら外務省は辞める事になるが。」

党首に言われたが、むろん、そのつもりだと答えた。そもそも、遥貴に危険が及ばないかどうか、探りを入れるために外務省に入ったのだ。遥貴がこっちにいる限り、外務省にいる必要はない。そして、教育係の一人として、遥貴には定期的に会えるようにしてもらった。


 遥貴は学校には行かず、家庭教師による教育が施された。英語の授業はほとんど必要ないが、本国の歴史や国語は、一から学ぶ必要がある。特に国語は、会話は出来ても文字はあまり得意ではなかった。しかも、歌を詠むなど、国王には苦手といってはいられない物がある。また、帝王学には「人に平等に接し、好き嫌いを振り回さない」「物事にこだわり過ぎない、夢中になりすぎない」「感情をあまり外に表さない」などがあり、更に国王は「国民との接し方」「宮中行事」「テーブルマナー」「王族のしきたり」なども学んでおかなければならない。尊人は、そう言ったものを学んだ後にイギリスに留学したが、遥貴は順番が逆のようなものだった。だが、尊人にしつけられている。先にテーブルマナーが完璧だと記したが、実は自然と「平等に接する」とか「感情をあまり出さない」などは、常にそう育てられてきていた。

 「そうか、尊人が感情的にならないのは、そういう性格なのではなく、そう育てられていたからだったんだな。それで、いつまでも健斗の事が好きだって事に、自分でも気づけなかったわけだ。」

未来は今更ながら納得した。帝王学というものを知ることによって、今やっと尊人の事を本当に分かった気がした。あれだけ傍にいながら。

「遥貴、お前は人に対して好き嫌いを言ってはならない。あの人は好きだから話すけれど、この人は嫌いだから話さないなど、差別をしてはいけない。分かったか?」

未来は、帝王学を教えるという役を担った。それぞれ専門家が教育に当たったが、道徳のようなものに関しては、親しい人物が教えた方がいいという事で、専門家から未来が指導を受け、それから未来が遥貴を指導するという形になったのだ。

「うん。そんな事は今までだってしていないよ。」

遥貴が言う。

「よしよし。じゃあ、明日はこの授業は別の先生に教えてもらおう。」

「えっ、嫌だ。未来がいい。」

「・・・ほら。それがいけないんだ。俺がいいとか、他の人じゃ嫌だとか、そういう事を言ってはいけないんだ。」

「でも・・・・。未来にしか言わないよ。他の人の事は、好き嫌いは言わないし、そもそも好き嫌いで判断したりしない。でも、未来だけは好きなんだ!」

未来はため息をついた。自分には先生は務まらない気がする。遥貴は自分にだけはわがままを言う。けれども、他の人では嫌だと言う。困ったものだ。けれど、放ってはおけない。未来は、えらい仕事を背負ってしまったと思いながら、教育係を務めた。

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