第7話 即位~激震3
宮殿はにわかに騒がしくなった。身の危険を回避するため、尊人は姿を見せずに奥で待機していることになった。未来は尊人の傍にいるが、多くの兵がそれぞれに警備へ回った。当然フリーのジャーナリストなどが宮殿の周りで張っていて、報道規制を敷いて大手のマスコミは姿を消したとしても、国民への報道は止まる事はなかった。
犯人グループが瑠璃子を連れて宮殿へやってきた。
「突入だ。」
警察は、それを見て瑠璃子のいた御所に突入し、人質を解放した。犯人グループは既に御所を出ていて、一人もいなかった。
瑠璃子は宮殿へ入った。既に正式な場で着るとされる白いローブを着て、頭にはティアラが光っていた。
大広間には、式典で使用される三種の神器が台に乗せられ、赤い絨毯がそこへの道筋を示していた。瑠璃子に付いてきていた犯人たちは、体にダイナマイトを巻き付け、瑠璃子にぴったりとくっついていた。これでは銃器を使用することなどできない。
首相はいつの間にか姿を消し、宮内庁の職員が三種の神器が入った箱をそれぞれ持った。
「神聖な式典です。あなた方は下がりなさい。」
民族衣装を着た宮内庁職員は、ダイナマイトを巻き付けた兵士たちに向かって大きな声でそう言った。彼らは顔を見合わせ、瑠璃子を前に出した。瑠璃子はゆっくりと絨毯の上を歩いてきた。
あと一歩で、三種の神器を手に取る、というところで、
「今だ!」
という掛け声とともに、瑠璃子の身柄が宮内庁の職員、と見せかけた警察官たちによって確保された。と同時に、ダイナマイトを巻き付けた兵士たちも、取り押さえられた。手を封じれば、ダイナマイトを爆破できない。彼らはジタバタしたが、その場でダイナマイトは爆破処理班によって取り外され、身柄を移された。後は、防犯カメラなどを通じて残りの犯人たちの足取りを掴み、犯人グループを全員確保するだけだ。
尊人は、犯人が確保されたと聞いて瑠璃子の元へ駆けつけた。
「瑠璃子ちゃん!」
尊人が瑠璃子の傍へ駆け寄ると、
「・・・だったのに。」
「え?」
瑠璃子が何かをつぶやいた。
「瑠璃子ちゃん?」
尊人が問うように瑠璃子の顔を覗き込むと、
「もう少しだったのに。私が、あの三種の神器を受け取って、国王になれたのに。」
瑠璃子は尊人の顔を見ているようで、見ていなかった。
「なに、を、言って・・・?」
尊人が一歩、下がった。少し離れていた未来が、それを見て尊人の元に駆け付けた。
「尊人、どうした?」
「瑠璃子ちゃんが・・・。」
未来が瑠璃子を見ると、瑠璃子はいきなり尊人にがしっとしがみついた。未来は慌てたけれど、まさか瑠璃子を払いのけることもできず、尊人の隣に立っていた。
「尊人さん、あなたはずるいわ!私は、私が国王にならなければ、どうなるの?怖い、怖いわ。」
「何を言ってるんだ。瑠璃子ちゃんは、国王になりたくないと言ったよね?」
「ええ、そう。あなたが国王になって、私はそのうち王妃になれると思っていたわ。たとえ王妃でなくとも、何がしかの地位が与えられると思っていた。それなのに、尊人さん、あなた何て言った?国王制を終わらせる?冗談じゃないわ。王家がなくなってしまったら、私は何者?何者でもなくなるわ。私とお母様と二人で残されて、結婚だって出来そうにないし、一体どうすればよかったのよ!」
瑠璃子は今や叫ぶように訴えた。周りにいた職員や警察、大臣などは呆気にとられて立ち尽くしていた。
「では、主犯は・・・瑠璃子様なので、ありますか?」
未来は面食らった様子で、そう言った。
「瑠璃子ちゃんが、あの犯人たちを集めたのかい?」
「ええ、そうよ。」
それを聞いて、警察が動いた。瑠璃子の両腕を二人の刑事がそれぞれ掴み、外へ促した。
「瑠璃子ちゃん・・・。ごめん。」
もう瑠璃子はだいぶ離れてしまったけれど、尊人はそうつぶやいた。
「私の考えは、瑠璃子ちゃんを追い込んでしまっていたのか。なぜ、話してくれなかったんだ、瑠璃子ちゃん。私は、瑠璃子ちゃんを苦しめるために国王制を終わらせようとしたわけではないんだ。」
尊人は膝をついた。涙が床にこぼれた。
「尊人。」
未来が尊人の肩を抱いた。
「さあ、部屋へ行こう。そして、明日は健斗に会いに行こうじゃないか。」
そう言って、尊人を立たせた。
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