第30話

「ユヅ。明日さくらの誕生会と、俺たちの結婚式をやるんだ」


 大地がこう言うと、結月は目を丸くして私たちを見た。


「……は?」


 …話についていけないかも。

 いきなり結婚とか聞かされても。


「えっとね、色々これには事情があって…」


「……行きたい」


 ……!


「来たいよな?ユヅ。明後日引っ越しなんだろ?」


「式が明日なら絶対行く。…でも、集会は出来ないんじゃ…」


「大丈夫だ。明日の朝、この時間にここに集合な」


 結月は小さく頷いた。


「さくら、コンノやリョータ達に声かけてくれ」


「うん。わかった」


 結月は私を見て、晴れやかな表情で笑ってくれた。


「明日、さくらにお祝いを持ってくるね。…ついに完成したから」


「…何が?」


 結月は、唇に人差し指を当てた。


「明日のお楽しみ」







 翌朝。

 岩時神社の満開の桜の木の下、大地は両手を高く掲げた。


 凌太、りっちゃん、紺野君、結月、私は、それを黙って見守った。


「…駄目だ、開かない!」


 強い風が吹き、桜の花は小さな花びらを舞い上がらせた。


「ねえ…大地何やってんの?…さっきから」


 あたり一面、桜吹雪が舞っている。


「シー…黙って!凌太」


 結月の荷物にかかっていた布が風に吹かれて空に舞い上がり、凌太がそれをキャッチした。




 結月は一枚の、大きな絵を持っていた。




 

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