第8話

 『カフェ・ノスタルジア』の前で、私は地面に降ろされた。


「…はい、着いた」


 ここは私の両親が経営しているカフェ。神社から続く参道の、坂のふもとに建っている。


「さくらのご両親に挨拶しておくか」



 振り向くと大地は人間の姿に戻っており、さっさとドアを開けて店の中へと入っていく。…いつの間に変身したんだろう?!



 隠れ家的な落ち着いた店内に足を踏み入れ、あたりを見回しながら彼は、


「ここ、いっぺん入ってみたかったんだ」


 と嬉しそうに呟いた。


 赤煉瓦のバーテンションや内装が懐かしい雰囲気を生み出しているカフェ『ノスタルジア』は、常連さんが2名ほどコーヒーを飲んでいるほか、誰も客がいなかった。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの中でグラスを磨いていた父・露木英吾は、私と一緒にいる大地を見て一瞬、ぎょっとした表情を見せた。


「君は…」


「大地です」


 驚いた事に、父に対する大地の言葉遣いが敬語になった。


「大地?…という事は…」


「さくらの婚約者です」


「お父さん、大地が『婚約者』って…何かの間違いだよね?」


 私が聞くと父は首を横に振り、衝撃的な返事をした。


「ピンク色の髪の大地…。お前の婚約者だ」


 ……!


「どうして今、人間の姿に…?」


 父に聞かれ、大地は笑顔で答えた。



「さくらに、助けを求められた気がしたからです」




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