【第9生】始まりの世界へと
奥の方へ歩いていくと、前回と同じぐらいの場所に十字架の刺さった骸骨があった。
まるで血のように赤い十字架は骸骨の頭頂部から真っすぐに突き刺さっている。これに触ろうとして、前回は謎の男に止められたのだったか。
引寄はその男が何者なのかについて考え始める。
恋華の説明や認識が正しければ、この空間は前世を見るための空間らしい。本来は前世なんて決して見ることはできないのだから、そこに番人のようなものが居てもおかしくはない。
あの男は骸骨に触ろうとしたから現れたのだろうか。それとも、この十字架の刺さった骸骨だけに反応したのだろうか。
姿が見えないだけで、今も自分を観察しているのか。それともこの空間の何処かに居るのか。
引寄はまた奥へと歩いていく。前回はここで元の世界に戻ったが、奥にはまだ何か新しい情報があるかもしれない。
体感時間にはなってしまうが、およそ五分ほど歩いた場所にまた十字架の刺さった骸骨があった。先程と置かれていた位置がズレているので、ループしているという事もないだろう。
そこから距離はバラバラではあるが、他にも二つだけ同じものが見つかった。
その先を探して暫く歩き続けているが、後は普通の骸骨が並んでいるばかりで収穫はない。強いて言うならば、その四つ目の骸骨の向こう側は青い炎が灯っていないという事だけだ。
十字架の刺さったものを特別なものとするならば、その特別な前世は四つしかないらしい。
引寄は立ち止まって、その辺の骸骨に手をかざしてみたが、やはりあの男は現れない。
恋華に話を聞いてからにしようと思っていたのだが、もう触れてしまっても大丈夫だろうか。少し悩んで、引寄は再び歩き始めた。
もしかしたら、あの男が奥に居るかもしれない。それに、この空間に行き止まりがあるのかどうかが気になった。
軽く聞いたぐらいの知識しかないが、宇宙にも始まりというものがあるらしい。もしも宇宙がビッグバンで生まれたとすると、少なくともそれ以前には生命というものは存在しなかったはずだ。もちろん、ビッグバンから暫くの間の宇宙にも生命は居ないだろうが。
という事は、この無限に続いているような気のする場所にも行き止まりは必ずある筈だ。
もしも、この前世というものが順番に並んでいるとすると、1番古いものは地球に生まれた最初の頃の生命の記憶なのかもしれない。
引寄は学校で勉強した単細胞生物を想像して、怖いような楽しみなような不思議な気持ちになった。
次第に骸骨の形も少しずつ変わり始めて、人間の進化の歴史を実感する。単細胞生物になったら骨なんてない筈だから代わりに何が並ぶのだろう。
普通の少年らしくワクワクしながら進む引寄は、しかし、すぐにガッカリする事になる。
引寄は想像していたよりも早く行き止まりに辿り着いてしまった。
その近辺にあるのは白色の普通の骸骨だけで目立ったものは一つもない。
「人間にしか前世が無いってことなのか?」
そういえば、猫や犬といった動物の頭蓋骨は見つからなかった。人間は人間にしか生まれ変わらないという事なのかもしれない。
これ以上の収穫はないだろうと考えた引寄は目を覚まそうとしてハッとする。
前回はあの男に追い出されるようにして目を覚ましたので、自分でこの部屋から出る方法が分からないのだ。
何度か目を覚ませと心の中で念じてみても、面白いくらいに何も起こらない。こうなったら前回と同じようにするしかないのか。
引寄は、仕方なくその辺にあった骸骨に触れた。
あの男は現れなかった。
後天性超能力を身に付けてしまった俺は平凡に生きたい Raima @raima-001
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