第7回 Fake Earth
## 概要
今回の作品はこちら
・Fake Earth
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893314426
作者はBirdさんです。
https://twitter.com/Fake__Earth
デスゲームもの。現実世界を再現したゲームのクリアを目指すお話です。異能バトルっぽい要素もあります。どんどん課題を与える作りが良かったのと、テーマを意識した演出、地の文が良かったです。それではネタバレ含む解説行きますので、本編読んだ上で下読んでみてもらえると嬉しいです。
## あらすじ
藤堂頼助(とうどう らいすけ)は、ゲームセンターで出会った女子高生・凛子(りんこ)を助けるために、現実世界を完璧に再現したゲーム『Fake Earth』(フェイク・アース)に挑戦する。
忘れたくない思い出も、未来を自由に生きる権利も失うリスクを背負って。
もしもゲームオーバーになれば、「生まれたときからゲームオーバーになるまでの記憶」を消され、さらに別人の記憶を組み込まれ、『Fake Earth』の住人として寿命が尽きるまで生かされつづけるルール。
このゲームは「死ぬこと」すら許されない。
(公式より引用)
## 感想
面白かったです! デスゲームもので常に話に緊張感があり、課題を矢継ぎ早に出してくるので次へ次へと読めました。さらによかったのは「偽物の世界」と言うテーマと、それを意識させる演出です。何を持って偽物と言えるのかとか、本物と全く同じように振る舞うときそれは偽物なのか? などの問いかけが随所に散りばめられており、統一感のある物語になっていたと思います。あとこの作品かなり文章がうまいです。ネット小説だと割とトップ層かなと思います。課題を常時出せる点、テーマを示せること、文章のうまさと明らかに長所だと言える点が3つあり、あーこの人はハイレベルだなーと思いました。
## 分析
本作色々と語れることがあると思うのですが、今回は「課題を常時出せる点」について書いてみようと思います。
脚本術のバイブルの1つにロバート・マッキーの『ストーリー』というのがあります。そこでは、ストーリーを構成する最小単位を出来事だとしています。これはつまり、出来事の連なりで物語が成り立っているということです。
ではどのように出来事が連なるのかというと、主人公が良い反応を予想して行動し、それに対し周囲から異なる反応が帰ってくる、もしくは予想以上に強い反応が帰ってくることでさらなる行動を強いられるという形で連なります。
よく分からんと思うので今考えたラブコメの例を出しますが、
1. 高校生の主人公が「想いを伝えたいので、放課後に屋上に来て欲しい」と記した手紙を送る。
2. 放課後に屋上にいくと、送った相手と異なる相手がいる。
3. 相手は完全に告白されると考えて、逆に告白してくる。
4. 主人公は相手の様子から断れず、付き合うことになる。
5. 本来告白しようとしていた相手がこれを聞いている。
①で主人公は、告白の結果は分からないにしても、相手が屋上に来るだろうと予測しています。しかし②では異なった相手が来ており、しかも告白されてしまいます(③)。主人公はもちろん断ろうと思うのですが、相手があまりに純粋なそぶりをみせるので真実を言うことができず、付き合うことになってしまいます(④)。さらに悪いことに、本当に告白したかった相手にこれを聞かれています(⑤)。
違う相手が来てしまうというギャップ、しかも相手が告白してくるというギャップ、最後にそれらを本命の人に聞かれてしまうというギャップがあります。
普通に物語を作るとこういう構造は現れてくるものなのですが、時々この連鎖が崩れる時があります。そういう時どうなるかというと、主人公の大切な人がトラックに轢かれたりします。つまり、唐突な課題を与えることで解消されないといけない問題を生んでいるわけです。
ただ、これはあまり良くなくて(そりゃそうだと思うけど)、できれば物語の中にあって意味のある課題を与えて、出来事の連鎖を作っていくのがストーリー作りの基本です。
また、このギャップにも良し悪しがあり、ギャップがストーリーを追うごとに大きくなっていくとストーリーの進展があるように感じられて良かったり、予想もしなかった反応に対して主人公がどんな選択をするのかという点で主人公のキャラクターを描けるとさらに良いです。
(余談ですが『ダ・ヴィンチ・コード』作者のダン・ブラウンは、サスペンスの三要素として約束・タイムリミット・困難をあげており、主人公の直面する困難は常に増幅し続けることが大切だと言っています。)
それでは前置きが長くなりましたが、本作をみてみましょう。
この作品の一部はこんな感じに進みます。
①ゲーム世界に入る(※一連のシーンの始まり)
②チュートリアルをやりたいが、出会うのがプレイヤー(紫藤さん)
③戦闘するが、予想を超える強さ
④主人公が特殊能力を使い、決着つくか? というところでより強い敵からの攻撃
⑤紫藤さんと一時休戦して協力して逃げる。のちに和解したと思いきや、コイン争奪が始まる
⑥グダグダになって和解し、コインを拾うと思ったが、呪いがかかっている
⑦新たな敵。切り抜けようとするがうまくいかない
⑧新たなギアが与えられる。が、弱い
⑨弱いギアを使いこなして切り抜ける(※ここで一連のシーンの区切り)
⑩紫藤さんとお買い物。仲間になるように誘うが断られる
本編読んだ方は分かるかと思いますが、これらの一連のシーンは繋がりがよく、息つく暇なく続いていきます。本作、基本的にこういうノリで進むので、多分無理やりお話作ってるなー、みたいな感想は抱きにくいと思います。これは基本的なことではあるのですが、それが案外難しいので、上手にやられているなと思います。
また主人公の直面する困難についても、この一連のシーンの中では増幅し続けており、ヌルゲーになったなという感じはありません。
さて、このように全体的に完成度の高い本作ですが、あえて改善できるところをあげてみるとするならどこでしょうか。
強いて挙げるなら、これらの課題に立ち向かう中で主人公がどんな選択をし、何を得たのか? というのが少ないかもしれません。この作品は「ゲーム内で行方不明になっている凛子を助ける」という理由で主人公が戦いに挑みます。ただ、それ以外の主人公の内面はあまり描写されず、どんな人間なのかはあまり分かりません。バトルの中で絶対に諦めない姿勢とかが結構目を引くのですが、それ以上に背景についてのドラマがあると、そういう人間がこの選択をした意味を考えさせられ、グッと胸にくるものがあるのかもしれないなーと思ったりはしました。
まあただ、課題をどんどん出してくる感じのストーリーなので、そういうのをどこに挟み込めばいいのかという問題もあると思います。内面を見たいというのは僕個人の趣味もあるので、外面についてのストーリーでグイグイ引っ張っていくのも良いぞ! と思っています。
以上!!!
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