第5回 Dr.Letter

## 概要


今回はこちらの作品です。


・Dr.Letter

https://ncode.syosetu.com/n0011fv/


作者は黒駒あいぜんさんです。

https://twitter.com/culokoma


作者さん曰く「侍がタイムスリップして近未来アメリカで小説家達のバトルトーナメントに挑む話」です。あらすじが何度読んでもヤバすぎるな……と思って本編を読んだんですが、めちゃくちゃ上手でした。そのうち出版してそう。


## あらすじ

侍がタイムスリップして近未来アメリカで小説家達のバトルトーナメントに挑む話


## 感想と分析

あ〜〜、上手だなこの人! と思わされました。序章(12話)完了時点で5万2000文字らしいんですが、そんなに読んだと思わないうちに読んでしまいました。あらすじだけ聞くと完全にやばい話じゃんって思うんですけど、ちゃんと主人公の葛藤とかが掘り下げられていたり、物語の構造がちゃんとしているので面白く読めました。色々と面白かったところはあるんですが、個人的にはカルナが時々やる匂わせてくる系のセリフ、大好きです。こういう、あ〜〜こいつ完全に裏になんかあるわ〜〜みたいな引きの作り方、俺のツボなんですよね......。


脚本術の視点から語るなら、この一見ぶっ飛んでるお話が、びっくりするほど主人公にとっての物語になっていることが良い点だと思います。例えば、冒頭の居酒屋での喧嘩シーンをみてみましょう。漫画やなろう系のよくあるパターンとして、物語の冒頭に喧嘩のシーンを入れることがありますが、ああいうシーンは以下のふたつの効果を狙っていることが多いです。


1. 暴漢に襲われているヒロインと主人公の出会い

2. 主人公の戦闘能力を提示する


今回の喧嘩シーンを説明すると、明治の侍である主人公が居酒屋で酒を飲んでいると、新政府側の男が主人公に絡んできます。当初はトラブルを避けようとした主人公でしたが、「臆病者」という聞き捨てならない言葉を吐かれたことにより刀をとってしまい......という流れ。このシーンには、下記のような効果があるな、と感じました。


1. 主人公の戦闘能力を提示する

2. 明治時代という時代背景の説明

3. 明治の侍である主人公の葛藤を描写、行動原理の印象付け

4. なんならヒロイン? になる可能性のある人物の登場


ただの喧嘩シーンと異なるのは時代背景・世界観の説明になっているという点と、主人公の葛藤や行動原理が明確になっているという点です。臆病者と言われて怒ってしまう主人公の姿はこの後でも形を変えて物語の中に登場します。明治の侍がいかに生きるか、という問題は、たとえ彼がタイムスリップをしようと、そしてタイムスリップした先が近未来のニューヨークであろうと、さらにそこで小説家たちの参加するバトルトーナメントに出場することになろうとも描かれ続けます。そして、それによって、この突拍子もない物語が主人公にとっての物語足り得るんですね。


この点がとても良かったな〜〜と思わされました。主人公が実際に立ち向かう問題の背後で描かれる、主人公にとっての内面的な葛藤や問題、これを脚本術の概念で内的問題や霊的問題と呼びます。読者が表面的に追う物語は別のところにあっても、実際読み終わった後に読者の心に残るのはこの内的問題の描き方です。この物語はこの内的問題がしっかりと描かれていることがとても良いと思います。それによって主人公の行動にも納得いきますし、感情移入して読むことができます。


多分、この作家さんはこういう内面の問題を描くのが好きなんじゃないかと思います。物語はまだ序章で、これからメインストーリーも盛り上がりを見せていくと思うのですが、それと共に主人公のアオイやカルナ、ヨアンの内的問題がどのように描かれていくのか、注目しています。


バトルあり、コメディあり、SF要素に時代劇、熱いセリフもどきっとさせられるセリフもあるという盛り沢山な本作ですが、まだ序章が終わったところです。実力派、という感じがしますので、ぜひ追いかけてみてください。


個人的には今後カルナがどう動いてくるのか、期待しています!!


以上!!!

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