無害な有害

京介

第1話 「無害虫」の主張

 僕の足音を人間は「カサカサ」と一般的には言うらしい。そんな音をさせた覚えはないけど。


 この家の屋根裏で生まれた僕は、ここに住み着いて、3か月ほどだ。暖かい季節になってきて、体も動きやすくなってきた。でも、喜ぶのも束の間だ。一緒に住んでいた周りの仲間たちのほとんどはこの家の住人に見つかり、叩かれたり、「スプレー」というものをかけられたりして、殺されていった。


 僕はそれを何度も目の当たりにしている。その人間たちの悲鳴や殺し方と言ったら。まったくひどいものだ。


 僕たちだけでなく、この家には、8本の足を持つクモという生物も住んでいる。彼らはかなりタチが悪い。住人の見えるところにわざわざ自分たちの巣をつくったりして、家の見栄えを悪くしている。かなり悪いやつらだ。僕たちはそんなクモという悪者をやっつけ、食べている。つまり僕たちはこの家の「害虫」とやらを退治しているのだ。それ以外には何もしていない。


 それなのにどうだ。人間は平気で僕らを殺しにかかる。何もしていないのに、僕たちの存在を認識した瞬間に、挨拶をすることもなくスプレーをかけてくる。


 何もしていないのに、僕たちを害虫扱いするとは、どういうことだ。僕らにとってタチが悪いものは、人間そのものだ。


 今日も僕らはそんな人間の住む場所の裏側でひっそりと暮らしている。


 

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