第5話 チャーハンを妨げる者達

 と、その時、背後で自動ドアの開閉の音が鳴った。誰か客が来たのだろう、と俺は気にも留めず、チャーハンを凝視し続けた。しかし、いらっしゃいませ、と言いかけたりんさんの動きが不自然に止まり、つまり、俺のチャーハンも道半ばで立ち止まってしまった。何たることだ。信じられん。どこのどいつだ、俺のチャーハンを邪魔するのは!


 俺は後ろを振り勝った。おそらく、怒りと飢えで血走った眼をしていたに違いない。その眼がとらえたのは、俺のような善良なる一般市民の日常生活ではお目にかからないような、黒ずくめで強面の男たちだった。奴らの放つあからさまに不穏な空気に、俺の眼の血走りは、たぶん急速に収束した。


 強面の男たちは残念ながら、食事に来たわけではないらしい。空席に目もくれず、まっすぐに林さんの方へ近づいていく。


 林さんは黄金色に輝く魅惑のチャーハンを盆の上に捧げ持ったまま、強面の男達に囲まれてしまった。湯気と香りはもうもうと勢いよく立ち上るが、林さんはどうしようもなく立ちすくんでいる。


 やがて、強面の男の一人が何か早口で林さんに話しかけた。どうやら、中国語のようだ。俺には理解できない。しかし、非友好的と言うか、脅迫的というか、日本語で表現するならば「オイおっさん、ちょっとツラ貸せや」とか「大人しく金を出しねぇ」「いい加減に土地の利権書をよこしな」という雰囲気だ。俺のこの読みはあながち外れでもないのか、林さんはやはり中国語で何か短く答えつつ、首を横に振った。おそらく、「この土地は渡すわけには行かない」とか、そんな感じだろう。しかし、この土地は道路や線路を作るために買収が進められている土地ではないし、周りの様子からしてもやくざな方々が狙うほどの物でもなさそうだ。


 危ない方々は俺など目に入らぬ様子なので、俺はやや余裕をかまして辺りの観察を続ける。危ない方々は総勢4名、サングラスは制服の一端か。中肉中背の男が3人、それらよりやや背の高い細長い体型の男が一人。あまり見たくは無かったのだが、指が不自然に短い方もいらっしゃるようだ。彼奴らはじりじりと林さんとの距離を詰め、小柄な林さんを覆い隠すようにして見下ろしている。中国語で何か喋るときも、必要最小限しか喋っていない様子である。しかし、それが却って不気味な迫力を生み出している。


 下手に身動きしてコワモテーズに因縁を付けられてはたまらないので、俺は首を林さんの方向に固定したままスズキを横目で見てみた。スズキはいつもの冴えない顔のままで、事の成り行きを凝視している。だが、すっかり冷め切ったお絞りは、円卓の上でスズキの拳に握りつぶされている。平静なように見えるが、スズキも流石に緊張しているらしい。

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