第23話 尾行してみた 1
ブビリオの心配もよそに、エメロードは今日も城下へと赴いていた。
ちゃんと、スフェールをいじってから。
今日は、ブビリオとの報告会では無く、エメロードのお散歩だ。
そもそも、エメロードは王都へはあまり来ない。
確かに王都には、流行りのドレスやジュエリー等があるが、エメロードはどちらかと言えば、食べ物重視だ。
だが東の方が珍しい物は多いだろう。
なにせ、クリスタリザシオン家は東の辺境伯。
東側には、海があり他国からの玄関口になっているからだ。
だが玄関口になっているからこそ、他国に目を付けられている・・・とも言えるのだが。
そうグラナート国は、小国ではあるが豊かな国なのだ。
水源もある為、南の国に水を通すことで利益も得ている。
北は山岳地帯ではあるものの、他国の侵入を阻むことが出来ているし、林業が盛んだ。
西は大国と隣接しているが、条約も結んでいるため平和だ。
そんなグラナート国の、東は大国とグラナート国の輸出入を一手に担っている事もある為、王都よりも目新しい物が多い。
だが西の大国は農業が盛んで、茶葉等は西側から。
本などはグラナート国の西南にある、芸術と学問の国から西を経由して入って来る。
そう、エメロードが好きな物は全て王都の方が先に手に入れれるのだ。
だからこうして、スフェールをいじる合間にイリアと共に、城下へと来ている。
ただ、今日は違った。
二人の後を追う者が居たのだ。
* * * *
時はちょっと遡った王太子宮。
そこには今日もエメロードに、いじられたスフェールが居た。
「なんなんだ、あの女は。毎日毎日、飽きずに俺の前へと来ては、何かしら難癖を付けて行くくせに、ちょっとだけ褒めていく・・・あんな女見た事ないぞ」
そう言って話掛けられたのは、スフェールの護衛であるカイユーだ。
実のところ、カイユーもスフェールに同意する。
良くもまぁ、あれだけスフェール殿下の粗を探せるものだ・・・と。
だが、それと同時にスフェールの周りへの態度が、軟化していることも分かっている。
そして彼女・・・エメロードに対して、最初の頃よりも印象が変わっていることも。
(今までは一応公的な態度で居たから『私』だったが、エメロード嬢についての話は『俺』になってるんだよなぁ~・・・スフェール殿下はエメロード嬢のことをどう思ってるんだ?)
その証拠に、ぶつぶつと文句を言いながらもその顔はどことなく嬉しそうだ。
コンコンコン
ノックと共に入室許可を貰った女官長グルナが現れた。
「スフェール王太子殿下、ご報告があり参上しました」
重大な事が起きたのだろうか?と、カイユーとスフェールは顔を見合わす。
「女官長、なんだ?」
「はい、実は・・・・」
そこで語られたのは、エメロードのことだ。
“ここ最近は城下町に繰り出しており、何やら密談をしているのではないか?”と。
そして“それは現状の王太子宮の話かもしれない・・・”と。
それを聞いたスフェールは、慌てた。
が、そこではたと冷静になった。
現状エメロードは、国王アルコバレーノの『王太子の教育係に、任命する』と勅命を受け、この王太子宮に滞在している。
これはエメロードにお茶をかけられ、菓子を口に突っ込まれたその日に、国王に確認したことだ。
そこにエメロードは少なからずとも、スフェールのことが公になっていないことを知っているし、国王がこの状況を知られても良い・・・と思っていると言うことだ。
つまり、この状況は秘匿されている・・・と、思う。
ただ女官長が言う通りならば、エメロードは度々外出をしていることになる。
そしてその外出が阻まれていないことも。
「女官長。クリスタリザシオン嬢はいつから外に?」
「そうですね・・・ここ二週間程度からです。しかも週に一、二度程です。そして今日も外出をされるそうです」
この言葉が本当ならば、スフェールの状況がすでに噂になっていても仕方がない。
なのに何もそう言った話がない。
これが可笑しい・・・その反面、もしかして・・・とも思う。
それは常日頃のエメロードの態度だ。
スフェールをいじっては、ちょっとだけ持ち上げて去っていく。
本当は持ち上げる場所などなく、国王の命令がある手前仕方がなくスフェールを持ち上げるだけではないのか?それともスフェールを失脚させる為に現在企てているのか?と色々な疑問が浮かんでくる。
とめどなく溢れてくる疑惑を一旦置いておいて、スフェールは女官長グルナを退出させた。
「カイユーどう思う?」
「どう?とはエメロード嬢のことですか?」
「決まっているだろう」
何言ってんだコイツ・・・と言った目でカイユーを見る。
「そんな目で見ないで下さい。そうですね・・・エメロード嬢は殿下が心配している様な事にはなっていないと思いますよ」
「根拠は?」
「・・・・・勘ですかね?」
今度こそ呆れた目でカイユーを見た。
「冗談です。本当はエメロード嬢に、殿下のことで協力をして欲しいと持ち掛けられたんです。でも言っておきますが、殿下のスケジュール等を決してエメロード嬢には言ってません。で、そんなエメロード嬢がわざわざ街に何回も出て、殿下のことを公にする為に行動するとは思えません。殿下はエメロード嬢が裏でなんと呼ばれるか知っていますか?」
「お前・・・裏切っていたのか。いや俺のスケジュールを漏らしていないのに、その日の朝に思い付いた剣の稽古へ来れるはずがない。それよりも、クリスタリザシオン嬢のがなんと言われているか?だと?そんなもの『何かにつけて嫌味を言う女』だろ」
「・・・多分それは殿下に対してだけですよ。答えは『めんどくさがりな深窓の令嬢』ですよ」
「・・・アレがか?」
「・・・・その言い方はないですよ」
「カイユー、あのな、アレのどこが『めんどくさがり』になるんだ?めんどくさがりなら、わざわざ、毎日、俺の所に来て、嫌味は言わない」
スフェールはカイユーに言い聞かせる様に、一言一句丁寧に言う。
その言葉に、カイユーは苦笑いをするしかなかった。
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