第14話 心強い味方(カイユー)


「まずは、私がスフェール殿下にお会いしなければ、話が進まないのですが・・・陛下からは、実力行使に出ても良いと許可を貰っております。この場合、どういった方面での実力行使に出るかは、お会いしてからしか決めれませんが、カイユー様には私に協力をして欲しいのです」


 そう、目の前の少女は言って来た。

 成人間近に見える彼女は、陛下のご命令で、この王太子宮へとやって来たらしい。

 陛下が直々に・・・と言うのも謎だが、この宮の現状を考えると、彼女がここに居ることは、あまりよろしくない状況だ。

 陛下が何をもって、信頼をしているのかは分からないが、この危機的状況を打破できる!と思って、ここへ来てもらったのだろう。


 それにしても・・・エメロード・クリスタリザシオンと言った彼女は、社交界でも有名な人物だ。

 正確に言えば、『クリスタリザシオン』の方だが・・・。


 この国で、彼の家の事を知らない者は居ないだろう。

 彼女の家族は、彼女のことが表に出ないほど優秀な、一家なのだ。

 実際に俺が会った事があるのは、当主ノレッジ・クリスタリザシオンの妻、ラーマ・クリスタリザシオンだ。

 俺がその話を聞いた時、どれだけ努力をすれば・・・と、思ったのは記憶に新しい。


 俺が当時、正騎士になったばかりの頃だ。

 配属された先輩に言われた。

『氷の騎士よりは遅いが、お前も凄いよな』と。

 当時の俺は、成人したばかりの十八だった。

 どの見習い騎士よりも、正騎士にいち早くなった。

 それに比べ、氷の騎士は俺よりも四つも年下の時には、二つ名を持っていた。


 二つ名は国王陛下より承る。

 つまり、二つ名を頂くと言うことは、王族からの覚えもあると言う事だ。

 そこに至るまでに、どれだけの苦労があるのか・・・。


 当時の俺が知っている限りでは、二つ名持ちは二人。


『氷』と『千來せんらい』だ。


 そして、驚くべきところは、氷も千來せんらいも『クリスタリザシオン』なのだ。


 ただし、氷の二つ名を頂くラーマ・クリスタリザシオンは、女性なので『クリスタリザシオン家へ嫁いだ』と言うのが正しいが。

 それでもラーマの旧姓は、『シュヴェールト家』。

 この国一番の武家の家だ。

 だからこそ、氷を頂いたのは当たり前・・・と、一般的にはそう思う人が多いだろう。


 何度も言うが、二つ名を頂くにはそれだけの技量が、必要になるのだ。

『家の力だ』とか『王家が優遇している』なんて言う者が多いが、俺はそうは思わない。

 なぜなら彼女に、稽古を付けて貰った事があるからだ。


 その時は、はっきり言おう「死んだ」と思った。

 三十人も居る騎士を相手に、ラーマはその場を一歩も動かず、全ての騎士を一撃で仕留めていた。

 欠く言う俺もだが・・・しかも木剣で、でだ。


 通常なら実戦用に使う剣の刃を潰れて使うのだが、その日は団長の一存で木剣になったのだ。

 それは正解だと思う。

 俺は大丈夫だったが、一部では骨が折れてたヤツも居たらしい。


 俺達が地べたに転がっている横で、団長は「お前な、手加減が出来るって言っても、コレだとダメだろ?どう考えても、骨が折れてる奴が居るし・・・」との言葉にラーマは「いつ、いかなる時も、一撃で仕留めれば次が来ても対処出来る。それにちゃんと手加減もした。それから、骨は綺麗に折ったから治れば今よりも頑丈になる」と返事をしたと、目撃者は言っていた。


 ・・・明らかに、俺達よりも次元が違う。

 一見して普通の女性だ。

 自分よりも、当たり前だが華奢だ。

 それなのに、どこからあんな力が・・・と今でも思う。


 そのラーマに比べて、『千來せんらい』の二つ名を頂く、クリスタリザシオン家当主ノレッジ。


 じつは彼の功績は、全く以て話に聞かない。

 どう言う経緯で二つ名を得たのか?

 『千來せんらい』の意味とは?

 何故、誰も何も『千來』については口を噤むのか?

 など、『千來』の由縁には何も分からない。


 ただ、自分が知っているノレッジ・クリスタリザシオンと言う男の話は、『いつも微笑んでいる穏やかな気性の美丈夫』と言うことだけだ。

 それ以外の何も分からない。

 まぁ、会った事も無いのだが・・・。


 そんな二人の子供が、目の前に居る。

 普通の年頃の女の子だ。


 だが、そんな彼女に陛下は、スフェール殿下も事を依頼した。

 きっと、見た目には分からない、何かがあると思って良いんだろうか?

 いや、思っていた方が、今後の自分の心構えが違ってくる。

 俺は、期待とスフェール殿下への哀れみで、彼女に言葉を返した。


「陛下からですか?エメロード嬢は一体・・・いえ、今はスフェール殿下についてですね。そうですね、私も現状を打破したいので、協力は惜しみません」と。

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