設定厨のメモ
寝る犬
中世ヨーロッパのトイレ事情
俗に「ナーロッパ」などと
広大な下水道にモンスターが住み着き、主人公一行が討伐へ向かうというのもまた、定番のワクワクするイベントの一つだ。
だが、実際の中世ヨーロッパのトイレ事情はそうは行かない。
古代ローマの時代には存在した下水道が、何故か退化し、なくなってしまっていたからだ。
当時「時代の最先端」であったはずのヴェルサイユ宮殿にもトイレがなかったと言うのも有名な話で、王侯貴族を筆頭に紳士淑女がみな、道端のちょっとした茂みで用を足していた。
文献にも「宮殿のとある廊下の端は、糞尿によって床が腐り、沈み込んでいた」なんて記述も残っているほどだ。
それを踏まえて、冒険者や転移転生者が生活する都市部に目を移してみよう。
前述のように下水の完備されていない庶民の家では、「おまるに糞尿を溜めておき、その後、指定の場所へ自分で捨てに行く」というのが一般的なルールだった。
しかしこのルールが守られない。
糞尿は家の中に溜め置くには臭く、捨てに行くのもまた面倒だ。
そもそも道路には、馬車や荷運びに使われる牛馬の糞尿が
放し飼い同然の豚や鶏など家畜の糞も、誰も片付けない。
そこに少しくらい人間の糞尿が混じっても、誰も気づかないだろう。
そう考えた人々は、自分の糞尿を窓からポイと捨てた。
こうしてルールを守らない人が増えていく。
その数がある割合を超えると、今までルールを守っていた人たちも「
こうして中世ヨーロッパの町並みには、人間と家畜の糞尿や様々なゴミがあふれかえったのだ。
通りを歩けば頭上から糞尿が降ってくるのが普通の街である。
絶対に住みたくない。
だが面白いことに、この非常識な常識が、中世ヨーロッパらしいルールやファッションを生み出す。
女性の使う日傘。これはもともと頭上から降り注ぐ糞尿から身を守るために使われた。
糞尿の
お店や屋台のシェードも、当然のように降ってくる糞尿から商品やお客さんを守るために存在する。
男性のシルクハットや
高貴な女性の履く、大きく膨らんだスカートは、立ったまま用を足しやすいようにデザインされている。
他人の家や公園の茂みに勝手に入ってはいけないのは、ちょっと用を足してしまう人が跡を絶たなかったからだ。
強烈な匂いをごまかすために、香水も大いに発展した。
トイレの隠語である「お花を摘みに」はもう、まさにそのへんの茂みにしゃがみ込む姿から言うようになった。
などなど。
現代日本からこんな異世界へ飛んでしまった人たちは、そりゃあ下水道も作りたくなるってものだ。
この糞尿によって
国王や領主も「窓から糞尿を捨てたら罰金」とか色々ルールを作ったようだけど、そもそもルールが守られないためのこの
結局はほとんど改善することはなかったようだ。
小説が糞尿描写だらけにならないためにも、転移転生者諸氏の活躍に期待したい。
さて、トイレと言えばもう一つ気になるのが、排泄後のお尻の処理方法だ。
トイレットペーパーなど無い。もちろんウォッシュレットなど夢のまた夢の世界である。
トイレ先進国であるローマでは、棒の先に
おしりを拭いたあとは、次の人のために塩水に浸けていたとか。
そう、これは共用なのだ。
一般的に中世ヨーロッパでは、ボロ
場所によっては石や木などでこそげ落としていた。
もちろん砂や水で洗い流すのも一般的だ。
手で拭いて、その後手を洗うというインド式もわりとポピュラーだった。
お金持ちは麻布やレースなどで拭いていたそうだ。
いずれにしろ、仕上げは水洗いというのがルールだったらしい。
当時中国の富裕層は、柔らかい紙でおしりを拭いていたそうだが、それを見たヨーロッパの人々は「
中国人からすれば、窓から汚物を投げ捨てる人には言われたくないだろうなと思う。
ちなみにその時代、日本の都市部では、専用の木べらでこそげ落とすのが一般的だった模様。
その人達が後世、ウォッシュレットを発明するのだから感慨深い。
こうして調べてみれば、ネット小説の世界で下水道が発達しているのも納得できる。
ローマに存在したものがそのまま受け継がれていると考えれば設定に無理はないし、あったほうが何かと都合もいい。
こんな糞尿描写をしたからと言って小説が面白くなるとは思えないし、挿絵やなんかを描いてもらうにしても邪魔な設定すぎる。
作中で「ペストが蔓延し、それを知識チートで解決する」ようなイベントでも無い限り、やっぱり下水道は完備してもらいたいものだ。
かわいいヒロインが糞尿にまみれないためにも。
……いや「そう言う描写がめっちゃしたい!」って言うなら、べつに止めませんけどね。
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