第7話 僕は召喚できない彼女のピンチを救えるか?
夜、僕は部屋の天井をぼーっと眺めていた。チヒロさんに叩かれた頬がまだ痛い。晩飯もあまり喉を通らなかった。すると、頭の中からチヒロさんの声がしてきた。
『汝、我が求めに応じ現れたまえ… …』
僕は、ゴム刀を持って召喚されるのを待った。
…… ……。
数秒経っても僕はまだ部屋にいる。チヒロさんの焦った声が頭の中に響く。
『えっ⁈ カードが出ない?どうして?』
「僕もわからないって… …あ、今日何回僕を召喚した?」
『えっと… …朝と昼と夕方の3回だから… …あー、ウソ、もしかして?』
「そうだよ、魔力使いすぎたんだって!だから召喚は慎重にって師匠にもいわれてるじゃん」
チヒロさんが召喚に使うカードは彼女の魔力で作られている。僕の召喚は結構魔力を使うらしく、1日に呼び出せる回数はあまり多くない。
『だって、だって… …って、今それどころじゃなくて、ホント助けて!牛の化け物に襲われそうで… …今にも追いつかれそう!』
「なんで⁈」
『なんでって、わからないって! 突然遭遇しちゃって、ハァハァ』
チヒロさんが走って息を切らしているのがわかる。
『キャッ!(ズシャ)』
転んだような音がした。
『イタタ。いや、牛が目の前に!ハルアキー!』
チヒロさんの絶叫が僕の頭の中に響く。
僕は机の中から金のカードを取り出し、額にかざした。
『我、主の元に参らん!』
僕は金色の光に包まれる。
次の瞬間、僕の目の前で牛の化け物が吹っ飛んでいた。
「ハルアキ、ハルアキ… …」
「チヒロさん、大丈夫⁉︎」
「うん、だいじょうぶぶぶ。ハルアキ、ハルアキ… …」
後ろでチヒロさんが泣きじゃくっている。牛の化け物が立ち上がろうとしている。牛の頭に筋骨隆々とした肉体を持った化け物は僕らよりはるかに大きい。
「チヒロさん、待ってて!今こいつを追い払うから」
「う、うんんんん」
青白い武者鎧を纏った僕は牛の化け物に向かって走る。化け物が立ち上がった瞬間、渾身の力でボディを殴った。
「グロォォォォ!」
化け物は悶絶しながら、また倒れた。僕は少し離れてまた殴る体勢を取った。化け物はまた立ち上がったが、足元はふらついている。僕がまた殴ろうと化け物に向かうと、化け物は背を向けて逃げていった。僕は深追いせず、化け物の姿が視界から消えるのを確認した。
僕が後ろを振り返ると、チヒロさんが抱きついてきた。
「ハルアキ、ハルアキ、ありがとう〜〜」
チヒロさんが泣き止むまで僕はチヒロさんを優しく抱きしめた。チヒロさんが泣き止んで、抱擁を解くと、
「なんで、ハルアキ来れたのかな?」
「ん、危機的状況になって一時的にチヒロさんの魔力が回復したんじゃないのかな?」
「ブー、ハズレ。答えは『愛の力』だよ。ハハハ」
「そ、そうかな?」
「そうだって。ハハハ」
僕が来れたのはもちろん『愛の力』のおかげではない。僕は自分から異世界へ行く禁断の『逆召喚の術』を使ってこっちに来たのだ。とんでもない副作用があるらしくて、チヒロさんの師匠から使用を止められていたが、仕方ない。
「助けてくれて、本当にありがとう。でも、夕方の態度は何?」
チヒロさんが少し頬を膨らませる。まだ怒っているみたいだ。
「もう一度、聞くよ。私、カワイイでしょ?」
「か、かわいいよ… …。世界で一番… …」
僕は顔が熱くなった。
「もう、何?世界で一番って、そこまで求めてないし、ハハハ。しかもハルアキ、顔真っ赤だよ。カワイイ」
「カワイイって、男に使うもんじゃないだろう?」
「だって、カワイイんだもん」
チヒロが不意に唇を重ねてきた。
「キ、キス⁈」
僕の目が星になる。
「だって、ハルアキカワイイからしたくなっちゃって。初めてじゃないんだし、恥ずかしがるもんじゃないでしょ」
「そりゃ、初めてじゃないけど… …」
僕はさらに顔を赤らめる。しばしの沈黙の後、僕たちは見つめ合った。
「僕、いつでもチヒロさんのこと守るから… …」
「何、改まっちゃって。うん、お願いします」
「はい」
さっきより長く僕たちは唇を重ねた。僕たちは手をつなぎながら、宿まで歩いた。
「ところで、なんで夜中にひとりで外にいたの?」
「あ、ちょっとムシャクシャしてたから、夜風にあたりに行ってたのよ」
チヒロさんの青い髪が風になびかれ、月明かりに照らされる。
「ごめん、僕のせい?」
「そうよ、召喚獣はマスターの機嫌を損ねちゃダメだからね」
「わかったよ、気をつけます」
僕は深々と頭を下げた。その姿を見たチヒロさんは微笑んだ。
「じゃ、僕そろそろ帰るよ」
「うん、今日もありがとう。おやすみ」
「おやすみ」
チヒロさんが今日一番の笑顔を見せた。僕は光に包まれた後、自分の部屋に戻った。興奮して眠れないと思ったが、逆召喚の影響だったからなのか、風呂に入ったあと、すぐ眠ってしまった。
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