第86話 ユリウスくんとローゼちゃん1

 僕…ユリウス・ゼッフェルンはブッシュバウム王国の第二王子だ。兄のジークヴァルトは昔は性格も悪くお菓子ばかり与えられブクブクと豚のように太っていて…何でこんなのが兄上なのだろうかとか、この国は大丈夫なのか?僕がしっかりとしなければ…と幼い頃から思っていた。


 あの頃のジーク兄上はとにかく最悪で公務すらまともにしないので僕は代わりに街の復興の様子を見て回った。

 王都は戦争の爪痕も酷かったがそれでも人々は懸命に生きている。しかし治安はまだまだ悪いし孤児やホームレス・物乞い・ゴロツキと多かった。


 その日も王都の病院の子供達を見舞ったり遊んだりしたその帰りにそう言えばあの豚兄上が菓子を買って参れと言ってたなと思い出したので従者の手を煩わすのも悪いなと思い、黙って僕は道の反対側にある菓子屋にささっと行こうとしたら止まっていた荷馬車が動き出したのに気付かず轢かれそうになった!


 ダメだ…死ぬ!


 そう思ったらバサバサと鳥の羽音と共に僕は宙に浮いた…。白い羽が目の前に舞い、誰かが僕の身体を支えている。ゆっくりと振り向くと白い翼の天使かと思えるような女の子がいた。紫の長い髪に金の瞳を持っていた。

 彼女はゆっくりと僕を地上へ降す。


 天使だ!間違いない!

 そう思ったけど、周りはザワザワとした。

 空を飛ぶ女の子…。それは戦争でヘルマの空からやってきた魔法兵士団を思わせて人々を恐怖させた。


 それによく見ると女の子は奴隷の服を着ている。よく見たら傷だらけでもあった。鞭の跡もある。


「ローゼ!!何してる!!来い!!」

 と酒に酔った男が天使を連れて行こうとしたのを僕は止めた。


「その子を連れて行くな!」


「何だ小僧!?」

 と男は僕に手を上げようとした所、従者が気付き止めた。


「おい!ユリウス王子に何をするか!」

 と従者が言うと男はハッとして頭を下げる。


「この子を買う!僕の命の恩人だ!」

 と言うと男は笑った。


「ああ、王子に買っていただけるとは!それはそれは!この子はよくご奉仕いたしますよ?ドレスを着せてやればそれなりに可愛くなりますしね」

 と下品な笑いをし、この子にこの男が何をしてきたか僕は怒りに震えた。


 彼女を買い、子供のできない優しいハニッシュ伯爵夫妻の養子にしたのだが、彼女はドレスを見ただけで怯えていた。大人の男にも相当な怯えを見せて震えていた。それから3年後に彼女を妹のエリーゼの従者にしようとした。


 ローゼは王宮でメイド服ではなく執事服を着て髪の毛もバッサリと切って男装従者になった。エリーゼなら女の子だし大丈夫だろうと思ったがエリーゼのドレスを見て気絶した。


 そしてローゼは僕の従者になった。ドレスを見たくないのだとそう思ったから。


 *

 それからいろいろとあって兄上がまともになり月日は流れた。


 僕はローゼが本当に本当の天使と知っても彼女に対する愛は変わらなかった。ローゼも僕を好いてくれてるようだしそのまま、僕が10歳になったら婚約しようねとローゼと約束した。


 その数ヶ月後に僕の誕生日が来て10歳になる。初めて夜会に出ると数日後の大量の見合い話を全て断りローゼとの婚約をする。ハニッシュ夫妻も喜んでくれたが、どことなくローゼの顔は浮かない。


 まさか…婚約が嫌なのだろうか?


「ローゼ?どうしたの?何か悩みでもあるの?僕との婚約は嫌?」

 ローゼは元々男性恐怖症だ。大人になってく僕に不安があるのかもしれない…。


「違う…。ユリウス…私…一度女神界に行って…羽をもいで堕天しなくてはならない…。人間と結ばれるには堕天しなくてはならない。元々監視の為に私はこの世界に来ていたから…」


「はっ!羽をもぐ?じゃあローゼもう…飛べなくなるってこと??」

 するとローゼは綺麗な顔からポロポロと涙を流して行った。


「羽のない私嫌い?ユリウス…。ユリウスは私の羽が好きだし。飛べなくなるから…」


「なっ!何を言ってるの?ローゼ!バカなことを!僕はローゼに羽が無くても好きだよ?君は大丈夫なの?羽をもがれるって痛いの?」

 するとローゼはコクリとうなづいた!

 そんなっ!


「そんな!痛い思いしなきゃいけないなんて!!」


「堕天は…罪。人間と恋をした罰に当たる。しきたり。だから我慢する。ユリウスとこの先一緒にいる為に」


「ローゼ!!」

 僕も泣いてローゼを抱きしめる。


「ローゼ…最後に僕を抱えて飛べる?一緒に飛ぼう…いや、僕は飛べないけどね」


「うん、ユリウス…一緒に飛ぼう」

 と抱き合ったままローゼは美しい白い羽を出して僕と大空に飛び立った!


「わあっ!!」

 空から見る地上は美しい。兄上の奇跡の力でこの国は浄化されたし空気も澄んでる。


 それからしばらく空の散歩をする。


「重くない?ローゼ?」


「ちょっとだけ前よりユリウスの身長伸びた…でも大丈夫…」


「あはは…ごめんね?こればかりはどうにもならないよ…いつかローゼを追い越しちゃうし、僕も男の人になっちゃうから…ローゼが怖がらなきゃいいけど…」

 と言うとローゼはブンブンと首を振り美しい笑みを浮かべドキリとした。


「ユリウスは大きくなっても平気…。綺麗で素敵で優しい王子様…。私…ドレスが怖かった。あの男に何度も着せられて見る度にダメだった。…でも…クラウディア様が着ていてジーク様とダンスを踊ったり幸せそうに笑っているのを見たらちょっと着たくなって頑張ったの。ユリウスも喜んでくれるかなって」


「ローゼ!僕の為に頑張ったのか!偉いね!もちろんとても似合っているよ!どんなローゼでも大好きだよ!」


「ユリウス…」

 空の上で2人見つめ合いキスをした。

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