第64話 ローマンとハクちゃんの恋愛3

 我は神獣ドラグーのハクリュウ。

 森で偶然街に向かっていたら人間のローマンがマーキングしているところを目撃して一瞬で電撃が走った。

 何という綺麗な顔!しかも出すもの出して心からスッキリした爽やかな笑顔!

 こいつの子供が欲しい!!


 と言う劇的な出会い方を果たし結ばれたと言うのにローマンは不満のようだ。

 しかも…ローマンは完全に忘れているようだが…我は…人の考えていることが判る!!

 もちろんローマンの考えもいけないとは思いつつも筒抜けであった!!


 ローマンは我のことが好きである!相思相愛なのに恋愛肯定とやらをすっ飛ばしたせいでグズグズ悩んでいた。

 ローマンが公爵家の嫁になるなら人間の文化に乗っ取り花嫁修行とやらを我は頑張ることにした。淑女らしい喋り方には慣れぬが頑張る。


 ローマンが手を繋ぎたいと考えていたので繋ごうと丁寧に言うと(繋いでいいのか?)とか訳わからんことを考えてるし本当は恋人繋ぎをしたいのに気取って紳士的に手を取ろうとしとるから直した。


(そうそうこれだよこれ!)とか筒抜けである。

 ローマンはちょっと阿呆かもしれないし、乙女チックで純粋である!可愛いのである!


 とりあえず続きは部屋でとローマンが考えていたお姫様だっこというやつをしたら軽くはたかれた。逆であったかー。

 ローマンは何やら次の手を考えるようであった。まぁ忘れているなら心が読めることは伏せておくか。


 *


「ハク!歌劇を観に行こうか!人間文化…と言うか人間の恋愛模様を生で見れるチャンスだぞ!?」

 とローマンは考えていることをそのまま口にした。


「ですが…ジークヴァルトたちが言っていましたが…まだ街の復興中で劇場とやらも建て直しの最中なのでは?」

 まぁ心の中は読めるが一応聞いておく。

 するとローマンがひらりと一通の招待状を見せびらかす。


「これなーんだ?」

 うん、招待状じゃろ?歌劇団からの。


「さあ?…何で…しょう?」

 我の演技も大分上手くなったわ!


「アルビーナ歌劇団からの招待状だよ!実はアルビーナ歌劇団はうちの公爵家が支援していてね!復興中だけど、戦争の時劇場は燃えたけど何とか衣装などはいくつか運び出せたし団員も怪我人は出たけどなんとか無事だった!その怪我もようやく癒えて野外で簡単なステージを作り街の人にも無料公開が決まったらしい!復興祝いに野外でも良ければと団長から招待状が届いたんだ!どうだ!行くかい?」


「行く!…あ、行きますわ!」


「…くっくっ!ハク!もういいよ!俺と二人の時はいつもの喋り方でいいよ!」

 とローマンは楽しげに言った。


「ふむ!ではそうする!歌劇…我はそんなもの見たことがない!楽しみだ!」


(ようやくハクにまともな恋愛について学んでもらう機会が!ううっ…長かった!!)

 ダダ漏れである。

 そんなわけで我とローマンは街の広場で開かれるアルビーナ歌劇団のステージを観に出掛けた。


 *


 王都の広場には簡易なステージが組み立てられ、人々が開演はまだかと待ちわびていた。エールや庶民の食べ物を売り歩く者もいた。


「ローマン様!!大きくなられましたな!復興のお力添え感謝申し上げます!」

 シルクハットに格子のジャケットを着た紳士が挨拶した。


「クンツ団長!お久しぶりです!この度はご招待いただきありがとうございます!俺も久々にこの歌劇を観れるのは楽しみです!」

 とローマンもにこやかに挨拶した。

 そこに…衣装を着た娘が現れた。


「ローマン・エーレンフェスト様…私を覚えておりますか?ヘルガです!!」

 とローマンを見て顔を赤らめた。

(ローマン様!!ローマン様!!何て素敵な方に成長なさって!!グフフ!ローマン様と私が結婚したら公爵夫人!!)

 ほほーう。ローマンもモテることだ。やらんけどな。


「ローマン様…娘のヘルガですよ…大きくなったでしょう?ローマン様はよく公爵様と歌劇にいらしてましたからね」

 と団長が言う。


「ああー…ヘルガ…ちゃんか…うん綺麗になられたね…」

(やっべー!誰だっけ?正直女の子の顔なんかいちいち覚えてないっ!!適当に合わせとこ)

 ローマン…覚えてないみたいだな…ほっ。


「しかし…そちらの美人はどなたでしょうか?」

 と団長が聞いた。

(娼婦だよな?ただの!?ローマン様は軽薄そうだしいてもおかしくない!上等な奴隷かもしれんしな!いずれはうちの娘を嫁にとってもらわんと困る!)


 なんと!この団長め!そんなことを!


「ああ…えっと彼女はその…俺の婚約者です…」

 とローマンはちょっと照れながら言うと


「「婚約者ああああ!?」」

 父娘揃って驚きの声を上げた!


「そっ…そんな…確かに美人ですがっ…どこの家の方なのでしょうか??」


「うっ!…ええと…彼女は神獣だ。今は人型。神獣ドラグーのハクリュウ!ハク!ご挨拶して」

 とローマンが言うので我は丁寧に人間の挨拶をした。


「お初にお目に掛かります!アルデン国よりローマン様と出会い婚約致しました。ハクリュウです。どうぞハクちゃんとお呼びください!私がブッシュバウムに嫁ぐことでこの国は豊かな繁栄を遂げると約束しましょう!」

 と言うと二人とも目をまん丸にしてひざまづいた!!


「しししし…神獣ドラグーのハクチャーン様とはっ!!恐れ入りました!!」


「ごごごご無礼を!!」

((何で神獣がいるんだあああ!!!結婚とか無理いいいい!!))

 早々に諦めるが良い!団長とその娘よ!


「ででですが!神獣様と人間が結婚するなど聞いたことがありませんので…ほほほ…少々驚いてしまいましたわ!!」

(くっ!第一夫人がダメでも第二夫人とか!!)

 まだ諦めぬか…しつこい。


「そうだな…聞いたこともないけどね」


「ですわよね?あのっ第二夫人とかお考えではありませんの?」

 とヘルガとやらが聞くと


「いや全く考えてないよ」

 と清々しいくらいローマンが言う。

(俺はハク以外愛せないだろう)

 との心の声にドキリとした。


「ローマン!!嬉しい!!」

 とローマンに飛びついてキスした。


「んっ!んんんんー!!」

 ローマンが引き剥がそうとするのを無視してたっぷり親子の目の前で見せつけてやった!


(ひいいいい!ローマン様があああ!!)

 ヘルガが絶望し団長とやらも


(くっそう!!うちの娘も色仕掛けなら負けんのに!!)

 そこで開園のベルが鳴り響き、


「ローマン様、ハクチャーン様お熱いのも良いですが幕が開けますのでお席について観覧を!」

 とようやくキスを止めるとローマンに


「こらっ!!」

 と赤くなりながら軽くはたかれた。

(あああ…もうやだあ!人前では勘弁して!!お願いだから!!)

 ふむ、人前では嫌ならしいな…。


 ローマンと席につき歌劇を観る。攫われた王女を騎士が救いに行く恋物語で身分違いの恋で反対されるが最後は家同士が認めるという内容だった。

 先程の娘が出演していて上演中もローマンにチラリと熱い視線を送っていたが、ローマンは全く気付かずに


「ふぐっっ!!可哀想に!許したれよぉ!」

 と涙目になっていた。乙女かっ!!

 しかし…なるほど、ああいうしおらしい娘が好みなのか?やはり?

 ローマンは芝居が好きなようで熱中していた。そして美しい歌とともに幕が降り割れんばかりの拍手が起きた!


 *


「どうだった?ハク?勉強になったか?」

 と帰りの馬車でローマンが興奮冷め止まぬまま聞いた。


「うむ…女性の仕草など参考になった!人間はあのように恥じらったりするのだな歌も美しかったぞ」

 と感想を言うとローマンはにこりとした。


「そうだよな!良かったハクに歌劇を見せれて!歌も良かったよな!」

 と言うので我も真似して先程の歌を口ずさんで見た。するとローマンがびっくりして見つめた。


(なんて…心地良い歌だ…ハク歌上手いじゃん!あの歌い手より声も綺麗だ…)

 と褒めるので我は照れた。


「ど、どうだ?」


「う、うん上手い…驚いた!」

 ローマンと見つめ合った。ドキリと胸が暖かくなる。ローマンは何も考えず近づいてキスをした…。

 唇を離すとさらりと我の頰を撫でて


「ハク…あまり俺の心を読むなよ…ちょっとは漏れてるだろうけどな…」

 と言った!!それに我はボフンっと真っ赤になった!!


「おおおお主!!謀りおったな!!?深層を見せよ!!」


「やだよ…恥ずかしい…」

 どうやら阿呆ではないらしい。

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