第58話 侯爵家への謝罪

 夕方になり明日香は白い聖女服を暖炉に投げ入れて燃やし、黒いローブを着て魔女になった。それからリュックに食べ物や薬草を詰め込み旅立つことになった。


「お前…1人で大丈夫なのか?」

 と俺が言うと明日香は


「?大丈夫だ…私は万能チートだろっ?それに死んでも生き返る。後は運命的な出会いを期待するのみだ。それに私は人の男に手を出す趣味はないよ…ジークヴァルトがどうしても私が欲しいなら考えなくもない」

 と少し膨れたクラウディアを見て笑った。


「お前…死んだ目をしなくなったな!」


「それは…クラウディアとお前のおかげだ…。私は生きてもいいのだと思えた。元の世界に戻れなくともまだ見ぬこの世界の地を巡るよ…」

 何こいつっ!旅立ち前に素敵な台詞を吐いて去っていく人じゃん!!


「アスカさん…これ…御守りですわ…」

 とクラウディアは自分のクラウディア人形を渡した。


「何だこれは?女神ザスキアの加護付きか…レシリア様の加護付きの私によく渡せるな…」


「でも…何があるか判りませんし…念のためですわ」


「必要ないと思うが…懐かしいな…子供の頃はよく人形で遊んだ…友達と…」


「アスカさん…」


「しんみりしている場合ではないな…帝国魔法兵団も私を追って来るだろうしさっさとブッシュバウムを出るよ…」

 と明日香は魔法陣を地面に出現させた。


「あのさ…お前も眠ったらレシリアのところに行くんだろ?何かされたりしない?」

 すると明日香はニヤと笑うと


「どうも私は反抗期になったからな…親とは距離を持ちたいんだ!私は私の意思で女神界には行かんよ…チートだしな…」


「そうか…気を付けろよ…」


「何かあったら知らせよう…ジークヴァルト…クラウディア…ブッシュバウムの皆…それでは失礼する!」


 と明日香は魔法陣と共に消えた。


 *


 その後…ヘルマ帝国は聖女がいなくなり、レシリアの加護が消えた為魔法を使えなくなった兵士が続出し、ヘルマは魔物も現れ衰退していっていると聞いた。


 コンちゃんは明日香に手酷くやられたようでレーナ嬢がさっさとあのケダモノを治しに来いと手紙が送られてきた。全身骨折で動けないようだ。神獣のくせに骨折は治せないらしい。


 ハクちゃんとローマンは結婚に向けて公爵家に挨拶したり色々と準備中だ。ハクちゃんがまともに花嫁修行をしている。


 ようやく少し落ち着いてきたところで俺はクラウディアと謝罪をしにバルシュミーデ侯爵家に行った。俺がチャームでおかしくなっていた時にバルシュミーデ侯爵家の者を拘束し牢に入れたりしていた為にかなり侯爵が怒っているらしい。当たり前だ!!


 俺がクラウディアの父親なら敵国の聖女に浮気した上にクラウディアと婚約破棄までしようとしたんだから…ブン殴るどころかぶっ殺されるわこれ!!


 しかも侯爵に今まで会ったことは夜会でチラッと挨拶したくらいだった。赤い髪の紳士と夫人にイケメンのクラウディアの弟のテオドールくんによろしくお願いしますと頭を下げられたりした。俺が王子と言う立場でなかったら即刻婚約破棄だろう。


 その証拠にさっきから、侯爵家の応接間で俺はバルシュミーデ家の人達から睨まれていて膝がガクブルだった。


 クラウディア以外皆その長い髪をザワザワさせて時折剣に変えたり包丁に変えたりしている!!ひいいいっ!!


 特にイケメンのクラウディアの弟のテオドールくんはクラウディアの一つ下だが…姉にめちゃくちゃ惚れてるようないけない恋をしてるような目で見ていた!まさかの!家族にもイケメンの敵いたの!?いけないよ!いけない恋はいけない!!テオドールくん!


 と俺が見ていると低いイケメンボイスでテオドールくんが言う。


「殿下の話を聞く限り女神の魅了の力で正気を失っていたということですよね?」

 ギロリとテオドールくんが睨んだ。

 父親のホルスト侯爵もめっちゃ怖い顔をしていて…


「正気ではなかったとは言え我が一族を能力封じの枷をはめ牢獄にぶち込んだとはね…我が一族は由緒正しい赤髪の一族だと言うのに…」

 と父親も後ろで纏めた髪をざわざわさせている!!怒ってる!!めっちゃ怒ってるよ!!


「お父様…テオ…もういいのです!もう終わりましたのよ」

 とクラウディアが宥めるが…今度はお母さんが


「クラウディア?貴方が謝るのはおかしくなくて?可愛い娘が辛い目にあったのです…。正気がなかったからの一言で片付けられていいものかしら?いくら王家でも…」

 ギロリとアリーセ侯爵夫人も睨んだ。ひいいいい!!

 そんなこと言ったってしょうがないじゃないかあああ!渡る世間はなんとやら!!


「もっ!申し訳ありません!この度はクラウディア嬢やバルシュミーデ侯爵家の皆様にとんでもないことを致しました!!俺にできることなら何でも!!」

 と俺は土下座をして謝った!!


「まぁ…殿下!床に頭などお辞めください!良いのですよ?正気では無かったんですから!」

 とアリーセ夫人がほほほと笑う。その目は笑っていない。怖い!


「そうですよ…クラウディアお姉様にはもっと誠実な方がいいのでしょうが…お優しいお姉様は正気じゃなかった殿下をお許しになるそうですしね」

 テオドールくんも目が笑ってない!怖い!!


「いやあ…殿下が婚約者で良かったですなぁー!?王家の者でなかったら私共も容赦は出来ずにいたかもしれませんしなぁーー??」

 目が笑ってない!!が3人ははっはっはっ!ほほほほほ!ふふふふふ!と笑い出した!

 こええええええ!重圧が!!


 俺はもはや変な汗しか出てこない。


「ほんとあの…すみません…」


「お父様もお母様もテオも!いい加減にジークヴァルト様を虐めるのはお辞めになって下さい!私はこの国の王妃になるのですからね!その為に家族が応援してくれないのは悲しいですわ!」

 ぐっ!!と3人はクラウディアに折れた。


「…そうだな…一度の浮気くらいなら…私は妻に一度だって浮気などしたこともないが!」


「ええ…うちの一族は一途ですものね!本来ならこの髪の力を絶やさない為に親戚縁者と結婚させ血を絶やすことはなかったのですよね」

 ええええええ!?だから皆赤い髪なのおおおお!大丈夫かそれええええ!!?


「ですよねぇ…王子がいなければ別にお姉様の結婚相手は僕でも良かったかもしれないのに…」

 うえええええ!うそおおおお!それヤバイってえええ!!


「いえ、流石に弟と結婚は嫌ですわ…テオ辞めてくれる?」


「…お姉様…ぐすん」

 とテオドールくんがマジ泣きする。ヤベェ!なんてヤベェ一族だ!!


「お父様とお母様はまぁなんというか遠い親戚なのです…気持ち悪いですわよね?」

 とクラウディアが言う。


「いやあ…ちょっと驚いたけど凄い一族ですよね!!ははっ!じゃあテオドールくんもどっか親戚から嫁を取ることになるのかな?」


「…まぁ…そうなりますね…本当はお姉様が一番好きなんですが仕方ありませんしね…姉弟でなかったら…本当に悔しい…」

 さ、流石恋愛ジャンル世界!もはや血縁者でもなんでもありなんだな!!怖いわ!!


 クラウディアもそれに少し気付いて青くなった。もしかして今まで当然と思ってたのか?


「テオ…あ、貴方も早く結婚相手を見つけたほうがいいわ!お父様…別にもう血に拘らずに普通の方をテオのお嫁さんに迎えてもいいと思いますわ……ほほほ…古いしきたりなんて…これから平和な世になるのですから…殿下が戦わなくてもいい世界にしたいと願っているのですから!」


「………戦わなくともいい世界…ね…」

 テオドールくんがボソリと言う。


「殿下の奇跡の力は私共も知っています…国から一夜にして魔物がしばらく消えましたし…私もそんなに血にこだわることはないとは思いますが…王家にも赤髪の血族ができるのは嬉しいことですが…浮気だけはねぇ」

 と夫人はまた赤い目をギラつかせた!

 クラウディアと結婚して子供が俺似だったらグチグチ言われそう!!一応最初の子とか赤髪の子キボンヌ!!じゃないと怖い!!


「まぁ我がバルシュミーデ家はこの国を守る為の剣として存在しています…今度浮気したらお姉様は僕がいただくということでよろしくお願いします!」

 とテオドールくんが睨んだ。

 だからそれヤバイからね!!!


 赤い目のセットに責められ

 俺は苦笑いするしかなかった。

 浮気ダメ!絶対!!

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