第57話 俺の好きな子は……

 私とハクチャーン様とローマン様はメイド2人を気絶させ服を着替えた。

 認識阻害の袋を持っているが城中にも兵士は沢山いる。


 だから地下通路からの侵入をしているのだ。ここは前に来たことがあった…ジークヴァルト様が私の手にキスしてくれた…。


「ここが王家の暖炉に通じておるのか…」

 とハクチャーン様が言う。


「はい…ですが、暖炉から出たら兵士が待ち伏せしている可能性がありますわ!今のジークヴァルト様は警戒心が強いと思いますの!」


「ならば我が先頭でいいだろう!兵士がいたら眠らす!」


「ハク…そんなことできるの?」

 ローマン様が聞くとハクチャーン様は嬉しげに


「うむ、出来るぞ?惚れ直したか?」

 オホンっと咳をして


「はいはい、いいから行こう!」

 と促して階段を登り始めた。そしてハクチャーン様は止まった。


「やはりおるな…クラウディアの読みは当たっておる!…眠らすか…」

 とハクチャーン様は手をかざし暖炉の隠し扉に向け力を放った!

 すると外からバタンガシャリと人の倒れる音がした。

 ソッと扉を開けて暖炉から出るとジークヴァルト様が1人椅子に座りこちらを見た。


「…ハクちゃんの気配がするからユリウスの部屋で待っていた!やはりここに来たか!クラウディア!婚約破棄の書類はもう揃ってる!お前に署名してもらうぞ!」

 と紙を差し出す。その胸にピンクのハートが食い込んでいるのがハッキリと見えた!


「ジークヴァルト様…私は貴方と婚約破棄はしませんわ!」


「あくまで王妃の座に着こうとするのか!?浅ましい!」


「クラウディア!さっさと終わらせよ!」

 ハクチャーン様の掛け声で私は王子に迫りつつ髪の毛を短剣に変える。


「こいつ!俺を暗殺する気か!?」


「いいえ!その胸に刺さっているものを斬るだけですわ!」

 とハート目掛けて髪を伸ばすがそれを食い止める者がいた!

 見るとそこにはヘンリックがいた!

 ヘンリックは対象者が1人の時動きを一時的に止めることができる!


「ヘンリック!?」

 見るとヘンリックの影からアスカが現れた!!


「明日香たん!!?」

 ジークヴァルト様が喜んで叫んだ!


「この男を操ってみた。…こんにちは…かしら」

 と明日香は挨拶をした!


「そんなっ!!」

 やっとここまで来たのに!やっとあのハートを壊せるのに!身体が動かない!


「ヘンリック!能力を解きなさい!!ヘンリック!!」


「…………」

 ヘンリックは何も言えない。言わせられないの?…アスカの力で…。

 しかしそこでハクチャーン様が高速で動きアスカの目を潰した!!


「ぎいいっ!!」

 アスカが悲鳴を上げて倒れたと同時にヘンリックも倒れて私も自由になる!


「なんてことを!今治すぞ!明日香たん!」

 とジークヴァルト様が駆け寄ろうとするのを足をかけて素っ転ばした。


「ぐぎゃ!!てめっ!クラウディア!!王子にまたしても不敬を!貴様なんか処刑してやるからな!!」

 と怒り声を上げるが私は王子に馬乗りになり、とうとう王子のハートに髪の短剣を突き刺した!!


 ビシビキビシビキビキとヒビが入る!


「うっ!!うぐ!!」

 ジークヴァルト様が胸を抑えて呻く…。

 片目だけ回復してきたアスカがそれを見て呟く。


「なんですって…レシリア様の力を…」

 ハートがついに粉々になりジークヴァルト様は私を見つめた…。その瞳に私しか映らない!


「クラウディア……」


「ジーク…」

 するとジークヴァルト様がビクンとして赤くなった。


「くくく…クラウディア!!今っ…俺をっ…愛称で!!」

 はっ!つっつい!!

 私も赤くなる。


「ていうかよくこれを壊せたな!俺でもどうにもならなかった!意識はあるのに心が囚われている!強力すぎるぞ!!」


「その髪…何?」

 アスカが信じられないと言う目で私の髪を見た。


「貴方の不死の身体を殺せる髪よ!ザスキア様にいただいたわ!」

 ジークヴァルト様が驚いた!


「ええっ!何それ!凄い!」

 アスカもようやく目が回復して聞いた。


「私を…殺せるですって!?本当なの!?」

 無表情がようやく崩れた!


「そう、唯一です!貴方がまだ女神レシリアの言う通りにするなら、この場で殺すわ!」

 アスカは何かを考えた。そして笑った。


「ふふふふふ!!待ちわびた!この時を!!ようやくなの!?さあ!殺して!もう私嫌なのよ!生きるのなんか嫌!あの女神の言うこともどうでもいい!さあ!殺して!!」

 と両手を広げる。


「…………」


「クラウディア!?」

 ジークヴァルト様が見つめる。

 私は髪を元に戻した。


「ごめんなさい…殺さない…」

 するとアスカは信じられないという目で見た!


「何なの?殺してよ…ここまで来て…」


「貴方が可哀想だからよ!殺さないわ!」

 それにアスカは


「何を…私はこの国を一度壊してレシリア様に忠誠を誓い従ったもの!ジークヴァルトと結ばれてレシリア様の加護国にする為ここまで来たのよ!?憎いでしょう?」

 するとジークヴァルト様も静かに言った。


「俺もクラウディアと同じ意見だ…。確かにお前は酷いことをした。いや、させられていた。でもな…クラウディアはもう人なんか殺したくないんだ!戦争もな!俺は平和にする為に頑張ってるんだ!」


「ならば!私に永遠に生きろと!?酷だ!その方が!何度私が痛い思いをして死んできたと思ってるのだ!!ふざけるな!!」

 と明日香は魔法陣を浮かび上がらせて攻撃しようとしたがクラウディアはその魔法陣を髪の毛の剣で斬った!


「くっ!!」


「貴方が死ぬのはまだ先!本当は死ぬのが怖いのでしょう?死に慣れる人などいない!」


「クラウディアの言う通りだ…我には判る!心が読めるからな!ようやく閉ざした心の隙間を開きおったな!今のお前は死を望むと口にしながら心では死ぬことを恐れている!クラウディアという自分を唯一殺せる存在が現れたことでな!もう生き返らないことに恐怖している!」

 ハクチャーン様がキッパリ言った!


 ジークヴァルト様は言った。


「もういいじゃん…終わりだよ。お前今までレシリアの言うことばっかり聞いておかしくなってんだよ!そう言うの何て言うか知ってるか?お前は転移者だから知らないかもな、当時は10歳だろ?そう言うのを今じゃ「毒親」つうんだ!!」


「ど…毒親!?」


「そうだ!子供を自分の思い通りに支配しようとする親のことだ!お前はいい加減に反抗しろ!!このままレシリアの思い通りのお人形でいいと思ってんのか!?」


「………嫌…私だって…死ぬのも戦うのも嫌だ!聖女と言いながら血にまみれるのは嫌だ!私だって幸せになりたい!帰れないならここで生きたい!好きな人を作り結婚して老いて死にたい!不死の身体は嫌だ!!うわああああああっあっああ」

 タガが外れたように思い切り子供のように泣き出したアスカにジークヴァルト様が優しく言った。


「それでいい…残念ながら俺は今お前を助けることはできないけど…俺は奇跡の王子だ…俺の力でいつかお前の不死の身体を治すと約束しよう!」


「女神の力を打ち破ると言うのか!?」

 アスカは泣きながらジークヴァルト様を見た。


「ああっ…俺とクラウディアが頑張ってザスキア信仰を広めて俺の奇跡の力を上げるとお前の力だって弱まるはず!いつか絶対に不死ではなくなる!」


「何だその確信は?保証なんてない!」

 アスカは言うがジークヴァルト様はハッキリと言った!


「いや!あるね!俺の好きな子は生涯クラウディアだけだ!俺にまたレシリアが何かしようとしてもクラウディアがそれを打ち破る!俺がどんなに変わろうともクラウディアは俺を信じ助ける!クラウディアが困っていたら俺も助ける!そんなお互いに大切な者をお前も早く作れ!!もしお前がどうしても治らないならお前に好きな奴ができたらそいつをレシリアに頼んで不死者にしてもらい2人で永遠に生きろ!」


「お前…めちゃくちゃなことを言っているぞ!?」


「どうせめちゃくちゃな恋愛ジャンルの世界じゃないか!どうせこの世界探せばイケメンいっぱいいるぜ?良かったな!」

 と言うとアスカは少し頰を染めて…


「そうだな…お前のようなイケメンには初めて会った…」

 ともじもじしながら言った。


「ちょっ!ちょっと!ジークはダメですわ!!」

 と私は前に出るとジークヴァルト様が嬉しそうに言う。


「クラウディア…可愛いしっ!ああっ、俺もディアとか愛称で呼んでもいいのかなぁ?」

 アスカは少しだけ笑い言った。


「ふふっ敵わん…。負けた!では私はイケメン探しの旅に出るとしよう!聖女などもう辞める!これからは私のことは魔女アスカと呼べ!私の旅が終わる前にお前の力を強めろ!約束だ!」

 とアスカは手を出した。

 ジークヴァルト様はうなづき握手した。

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