第32話 これがホワコン

 俺たちは兵士を20人くらい引き連れ山に入山した。この山はヒャクク山と言うのだそうだ。山には道が整備されて馬車でも行商人が通れるようになっている。


 チラリと斜め後ろを見ると幸せそうな空気を出したクルセリオスに乗ったユリウスくんとその後ろで手綱を操るローゼちゃんがいる。クールな顔がでろでろになっているぞ!ユリウスくん!いいな!背中にいろいろ当たるんでしょうな!!


 俺もクラウディアと一緒に乗りたい!クラウディアは前に乗って俺がセレドニオを操るけど!その方が王子っぽいし!


 でも隣りを行く美少女は馬に乗れて酷く凛としているから今更俺の馬に乗ってなどなんか恥ずかしくて言えない!!だってめっちゃカッコいいもん!決まってるもん!


 前を行くヒロインのレーナはもはや吹っ切れたように戦国武将か何かみたいに先導している。

 魔物が満月の影響で少ないこともあり、前方に現れた魔物(肉塊)はレーナの拳で弾け飛んでいき、飛び散ったやつをクラウディアが髪でこちらに飛んでこないように弾き返している。


 後方からくる魔物は兵士に任せている。


「そろそろお昼ですわね、少し休憩して昼食にしましょう」

 とクラウディアが言う。


「ローゼもトイレに行きたいみたいですっ」

 と言うとポカポカと恥ずかしそうにローゼちゃんがユリウスくんに抗議した。


「では私がついて行きましょう」

 クラウディアが言う。山の中だしいつ魔物が襲ってくるか判らないしな。


 森の道から少し離れた所に馬達を繋ぎ、俺は昼食を作ろうとしてまたフェリクスに止められる。


「ダメです!殿下!いくら殿下の料理が天下一品でも今は!兵士もいますし示しがつきません!」

 と怖い顔で言われてやめた。絶対俺が作った方が美味しいのに!


「後で帰ったら個人的に作って欲しいです!」

 と言われて


「俺はお前の奥さんじゃないから!」

 と言っておいた。


 兵士が料理を作りそれを皆で食べているとなんだか学校の調理実習を思い出した。

 皆でガヤガヤ食べるのも悪くないよな。


 クラウディアが戻ってきて隣りに座る。


「これは兵士の料理ですね、流石に作れなかったのですね」


「フェリクスがダメだってさ」

 俺が拗ねるとクラウディアはクスクス笑う。

 うぐうっ!可愛い!

 思わず見惚れると視線に気付いたクラウディアも照れる。というか俺たちの関係は確かに婚約者だが俺は告白をしたけどクラウディアは照れまくるばかりで応えは…。

 い、いや急かしてはいけないよな。

 クラウディアの気持ちが落ち着くまで待とう。また暴走して気絶させられるとまたクラウディアが牢に入れられる!


 そしてユリウスくんはローゼちゃんと相変わらずイチャイチャしてるように見える。ユリウスくんが口を開けてローゼちゃんがそれに食べ物を運ぶ。従者だし当然だろうが。羨ましいんだよこのマセガキめ!


 ちなみにヒロインは兵士に囲まれていた。皆胸を見ながら楽しく会話しているようだ。

 全くだらし無い顔してるな。どいつもこいつも。


「昼食中も魔物が来ないか気を張って欲しいのですけど…仕方ありませんわね…やはり男性はあの胸が…ぐぐっ…」

 とクラウディアが自分のとまた見比べている。

 だからクラウディアはそのままでいいというのに。


 と俺が思っていると何かの気配がした。


「!?」

 俺は周囲を見回した!


「どうかなさいました?」

 クラウディアがキョトンとしていた。あれだけ魔物に敏感なクラウディアが反応しない!


「いや…なんか…なんかいるぞ?感じないのか?クラウディア?」


「え?な…何も?魔物の気配はしませんわ……だとすると殿下だけが感じる何か?…まさか!?神獣ホワコン!?そんな?まだ…山に上り切っていないのに?」


「確かにお昼食べる為に休憩してるだけだしな…」

 しかし異変に気付いたヒロインとユリウス君達もどうしたのかと聞いてきた。


 レーナが何かに気付いた!


「ああっ!!どういうことっ!?」


「どうした!?」

 レーナは青くなり


「ジークヴァルト様…クラウディア様…持ってきた貢物が…空に!!」

 と恐らく大量に入れいた大きな空の袋を見せられた。


「……レーナ嬢…まさか…お前腹が減ったからって道中盗み喰いを…」


「するわけねぇだろっがっ!このバ……おほほ…王子ったら…ご冗談を…流石に死んだネズミだのは食べませんわよ」


「うーん…ならやはりさっきの気配か?姿は見えなかったが…なんかいた気がする!」


「兄上…やはり神獣でしょうか?まだ感じます?」


「いや…消えたみたいだ…どうなってるんだろう?」


「しかしこれでは交渉の貢物が無くなってしまいましたわ?今から森で虫取りするわけにもいきませんし…一旦出直します?」


「しかし…ここまできて帰るのは…一応行ってみよう行けるとこまで」

 と昼食を終わらせて俺たちは山道を進んだ。次第に霧も立ち込め視界が真っ白になり馬も進めなくなるので馬を道から逸れた森に繋ぎそこからは徒歩で行くことになる。


「ユリウスくんはここで待っているか?」


「いえ!僕も行きます!ていうかこんな所に子供を残して行かれるなんて兄上は鬼畜ですかあ?」

 うっ!そう言われるとなんとも…


「解ったよ…」

 弟に上手く言いくるめられつつ俺たちは霧の中をしばらく進むと山道から逸れて石の階段が見えてきた。


「ここよ…ここを登るのよ…ホワコンはこの先にいるはず」

 転生前に読んで知っている彼女は堂々とそう言った。


「なんか…神社の石段を登っている気分だ」


「ジンジャー?」

 クラウディアが聞く。


「こっちでいう神殿みたいなもんかな…」


「まぁ…」

 とクラウディアは驚く。

 するとまたあの気配が強くなった!いる!

 上まで登ると大きな岩が雪だるまみたいに上に重なっていた。


「何かしらあの岩…」


「不思議な岩だね!」

 クラウディアとユリウスくんが興奮した。


 そこで綿毛みたいなものが岩の上から覗いた!


「何だあの綿毛!」


「えっ?綿毛って?」

 ええっ?クラウディアには見えないと?皆も見えないようだ!


「王子にしか見えないと思うよ。神獣は」

 レーナがこっそりと言うが


「ああ、でも…ヒロインと手を握ればヒロインも見えたっけ…」

 と手を差し出すが


「いや、お前は俺のヒロインじゃないしこの場合はクラウディアだな!」


「え?何のお話?」

 しかし俺はそれに応えずクラウディアの手を握る。いきなりで驚いたクラウディアだが岩の上を見て


「あ!綿毛!」

 と言った!ちなみにユリウスくんとも繋いでみたが見えなくてがっかりしていた。


「ど、どうするクラウディア…声かけてみる?」


「え…そうですね…」

 渋っていると綿毛が動いてこちらにやって来た!凄い機敏だ!しかもクラウディアに突進してくる!神獣を斬るわけにもいかずクラウディアは動けない…そしてポフリとクラウディアの胸に綿毛が収まった!


 なっ何いいいいい!?


「ひゃあっ!」

 モゾモゾと動きクラウディアが恥ずかしい声を上げたので兵士もゴクリと唾を飲んで見ている。そりゃクラウディアの胸だけが動いているように見えるだろう。


「おいこら!離れろ!この綿毛!」

 綿毛を掴み引き離そうとするが離れない!


「あっ…あっ…」


 クラウディアやめてええ!そんなヤバイ可愛い声出しちゃダメだから!

 思わずクラウディアの口を塞ぎ込んで綿毛を掴んで引き剥がそうとしているが、他の物には婚約者の口塞いでこんなとこで何やってんだこの変態王子!みたいな目で見られてめっちゃ気まずい!


 すると綿毛が大きくなりボンっと煙が現れると同時になんと人型になった!!


 これには全員が反応した!


「うわっ!誰だ!」

「耳と尻尾が生えてる!」

「神々しいが素っ裸だぞ!!」

「おい誰か布持ってこい!」

 と兵士が騒いだ。


 とても神々しい美青年が舌舐めずりしながらクラウディアを見下ろしている。素っ裸で!


「おいレーナ嬢…まさかあれがホワコンか?」

 レーナはうなづいた。


「あれはホワコン人型美青年モードだよ…ヒロインの胸にダイブする予定だったのにやっぱりクラウディアにダイブしたわー…」

 もはや諦め顔でレーナが言う。さすが女性向けのライトノベルだ!とりあえずヒロインの周りに美形が寄ってくる仕様はもう仕方ないんだろうなこれ!ヤンデレも美形だったし!


「いやっ!」

 クラウディアは顔を隠してしゃがみ込んだ。

 そういやこいついくら神獣でも素っ裸野郎だったな。俺はとりあえずこいつに布をかけて隠させた。

 モゾモゾと神獣ホワコン人型が動き頭を出してやっと口が開いた。


「我は神獣ホワイツコンコン…別名ビャッコだ!呼びにくかったらコンちゃんでいい!」

 コンちゃんでいいんかーーーーい!!!

 と俺は心の中で盛大に突っ込んだ!

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