第6話 アクシデント発生

 彼女の細い白い指先が俺に触れた。

 彼女は苦虫を噛み潰した顔をしていたが、皆の前に出ると可憐に微笑み皆の心を奪う。


 曲に乗りくるりくるりとダンスを始める。

 あのおばさんに教わった通り俺は頑張った。だがしかしこの女は俺の足をわざと踏みつけやがった!


「…っ!」


「あらごめんなさい?」

 ニコニコとよそ行きの笑顔を貼り付け踏んでくる。そうか相手がフェリクスじゃないからだな?そして俺が嫌いだからだな?

 なら俺も遠慮なく!


 と彼女の足を踏みつけた。


「……」

 しかし彼女は笑顔を崩さず無言で踏み返してくる!なんて恐ろしい女だ!!

 俺たちは足を踏み合った!

 このクソ女!!いい加減にしろやこらあ!


「ああ…ちょっと臭…」

 とかも小さい声で俺に聞こえるくらいにボソっと呟いてるし!臭いのはお前のかもしれねーだろ!

 しかし流石に足を踏み合い続けて足がもつれて俺はクソ女を巻き込み転倒した!


「きゃあ!」

「ああっ!」

「まあああ!お熱い!」

 と声が漏れた。

 そのはずだ。

 俺は倒れた拍子に偶然にも彼女の唇にキスしたようになっていたから…


 彼女は目をかっ開きザワザワと髪の毛を揺らしたと思うと髪が伸びて俺にグルリと巻きついた!!

 そして俺は髪に釣られてグインと投げ飛ばされた!髪に!


「ぎゃっ!」

 ズデンと床に投げられた。


「殿下が!」

「王子!!」

 と周りがザワザワし始める。


「うううっ!」

 彼女はプルプルと髪の毛を振り乱している。


「お嬢様!!落ち着いてください!!はさみを誰か!!」

 ヘンリックが駆け寄りメイドが鋏を持ってきた。

 ジョキジョキと髪をその場で切られ彼女はようやく落ち着いた。


「王子!大丈夫ですか??」


「うん…大丈夫…」

 フェリクスが駆け寄りさすった。


「ははは!これは面白い余興だ!皆!楽しんでくれたかな?鮮血姫のダンスは過激だ!さあ、次に踊る者はいるか?」

 とローマンが手を叩き爆笑している。


「何だ余興か…」

「流石鮮血姫」

「いやあ、俺は遠慮しとこうかな」

 なんて声が聞こえてきた。

 鮮血姫…なんだその二つ名!


 俺は立ち上がりクラウディアのところに行って一応謝罪した。


「ごめん…あの…わざとじゃないんだけど」


「ジークヴァルト様少しお時間を」

 と彼女はボサボサになった髪の毛と俺の手を取り廊下へ出てそのまま別室に連れて行く。

 ヤバイ。背中から怒りのオーラが…。


「流石ジークヴァルト様…また私に恥をかかせるとはね」


「だからあれはわざとじゃないだろ?足がもつれたんだ!それにお前俺の足を踏みまくってただろ!あんなん転ぶわ!」


「貴方こそ私の足を踏みまくってたじゃありませんか!そしてあんなに大勢の前でキスなさるとは!これじゃますます婚約破棄できない!勘違いした皆から祝福の目で見られましたわ!」

 なんてことをしてくれたのだと彼女は怒り心頭だ。


「仕方ないだろ!こんなのお互いに悪い!足踏まずに普通に踊れよ!先に踏んだのはお前だけどな!」


「まああ!私は謝りましたわ!」

 その後も踏んだのにか?


「それに何だその髪!お前どうなってんだよ!?鮮血姫ってなんだ?」


「………やはり知らないとは…二人になってもこうとは…貴方が記憶を無くされたこと不本意ながら信じてあげましょう。私の一族の赤い髪のことを知らない国民はこの国にはいませんもの!」


「そうなのか?俺だけ知らなかったんだ…」

 何で誰も教えてくれないのか?俺が嫌われ者だからか。


 それから彼女は髪の毛の由来や能力を教えてくれた。


「へえ…凄いなそんなことできるんだ…騎士団とは違ってカッコいいな!」

 戦争でも戦ったらしいし…って5年前ってこいつまだ10歳で戦場に??


「お前…大丈夫なのか?5年前戦争に出てたんだよな?傷とか…」


「…………気持ち悪っ」


「はっ??」


「貴方なんかに心配されるのが気持ち悪いですわ!どうでもいいことでしょうに!」


「なっ…」

 そりゃ俺は少し痩せたとは言えまだデブだけど…心配したのに気持ち悪いとか言われてショック。

 何でこの女にショックを受けないといけないんだ!


「くっ!この性格ブス!お前なんか心配するんじゃなかった!取り消すわ!あー取り消す!」


「な?ブスですって?私が?」

 今度は髪の毛を振り乱してまた彼女が怒る。

 切った髪の毛がまた伸びて剣みたいになった!


「そうだよ!ブス!美少女の皮を被ったドブス!!」

 殺されるなこれ…と俺は目を瞑る。


 しかし彼女は…

 ポトリと滴を垂らした。


「ううっ!酷い!ブスだなんて!!酷すぎる!!」

 ボロボロと彼女は泣いていた。

 ………流石に悪かったか?

 しかし俺は彼女に思いっきりビンタされた。


 バチーン


「この豚王子がっ!あんたなんか大っ嫌いよ!」

 と彼女は部屋から走って行った…。


 ええ…。

 そこでニョキっと隠れてたユリウスが顔を出して吹き出した。


「ぶふっ!兄上!!大丈夫ですか??」


「ユリウスいたの?」


「ええ…面白いものが見れました」


「面白がるんじゃないよ…」


「兄上…泣きそうですよ?とりあえずこれから毎日謝罪の手紙を書いた方がいいですよ?」


「なんで?彼女は婚約破棄したいんだろ?ならもう放って置いてもいいだろ…彼女はフェリクスとその…」


「兄上まだフェリクスとお姉様ができてると?あの花は本当に魅了の効果があるのですよ?なんなら図書室から本を持ってきましょうか?」

 ええ…?じゃあ本当にフェリクスとクラウディアはできてなかったのか?俺の勘違い…。


 それを抜きにしても…俺が女ならこんなデブと踊りたくもキスもしたくないわな…。


「兄上?」

 なんか疲れたわ…。

 おい女神…王子っていい暮らしできるんじゃないの?何もいいことないけど?

 頰痛いし。


 俺はそれでも日課のトレーニングを続けたし、一応謝罪の手紙を何通か送っておいた。

 しかしクラウディアはプッツリ王宮に来なくなった。

 俺の目は暗く沈んだ。

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