第4話 女にはもう心を許さない
俺とクラウディアの婚約は破棄されなかった。
母と父が未だに王宮内に帰ってこないからだ。
帰って来たと思ったらまたすぐ出かける。公務で忙しいのは判るが…。
しかもフェリクスがあの時のは魅了の花のせいで王子の勘違いとかなんとか言っていたが俺は信じないぞ!んな都合良いことがあるか!
女なんて外見でしか男を見てない生き物なんだ!クソが!クラウディアめ!
俺が痩せて目も眩むような美形になったら婚約破棄されたことを後悔するがいい!
痩せてやる!何がなんでも!
俺は今まで以上にトレーニングを強化した。
振ったこともない剣の鍛錬を始める。木の人形に紙に描いたあまり似てないクラウディアを貼り付け
「こんの悪役令嬢があああ!ちょっと顔が可愛いからって調子に乗りやがってえええ!うらああ!この性格ブスがあああ!!」
と叫びながら重い剣をブンブン振り回すだけだが大分体力を消耗した。ストレス解消にもいいしトレーニングメニューにも加えることにした。
俺は着実に肉を減らしていってる。鏡を毎日チェックしてるしな。この世界に体重計があれば楽なんだが。
クラウディアは王宮にあまり来なくなったし、どうせ影でフェリクスとイチャイチャしてるんだろうし…クソっ!まだムカつくわ、あの女!
何が悪役令嬢ヒロインだ!
こんなんじゃ本ヒロインに心奪われても文句ねぇよな?俺悪くないし!
でもまぁ女はいいや…。俺の樽体型はメイド達も嫌そうな顔をしていたしきっとキッチンとかで俺の樽体型を噂してるんだ。もう女がそういう嫌な生き物に見えて来たわ!
そんなことよりトレーニングだ!ダイエットだ!俺は部屋でも毎日頑張って腕立て伏せをした。最初は筋肉痛に悩まされたが続けていると慣れた。
食事制限も頑張ってるし順調だ。
しかしそこで妹のエリーゼが
「お兄様…お腹空いてないの?エリーゼね、クッキー焼いたの!食べてえ」
とクッキーの包み紙を渡すが、俺は断った。
「ごめんよエリーゼ…俺はクッキー食べれなくなっちゃったんだ…ごめんな」
「うわああ!お兄様がエリーゼのクッキー食べてくんないよぉぉ!」
と大泣きを始めた。
俺は代わりにヘタクソなウサギ(のつもり)を絵に描いて口の部分を少し折り曲げてパクパク喋っているように見せて声を当てる。
「エリーゼちゃんごめんねっ!君のお兄様はお菓子が食べれない呪いにかかってしまったのでーす!だからそのお菓子はユリウスくんにあげて来なさい!」
それにビクリとしたエリーゼは怖がった!
「ひっ!紙が喋った!!ままま…魔物っ!!」
んあっ!
魔物だと?魔法はないけど魔物はいるのかっ!!?
「エリーゼちゃん、僕は魔物じゃないよ!安心して!あー僕はなんていうか精霊…だよっ!その魔物ってなんなのかなぁ?」
エリーゼは
「せーれー?なーに?魔物は魔物だよお…塀の外の森にたくさんいるのぉ…近寄ったら食べられちゃうのぉ!怖いのぉ!」
と言った!
間違いない!魔物はいる!!
これはもうこの世界が恋愛ジャンルだとしても男子としての憧れのフィールドに出て魔物を狩って経験値を稼ぎさらに魔物が落とした金が貯まり国が潤うのでは?
「これだああっ燃えて来たあっ」
俺の頭の中にはRPGな展開が繰り広げられていたのだが…
「魔物はいますが倒しても別にお金なんて持ってないですよ?ただ死体処理とかするの面倒くさいから誰も近寄ったりしませんよ」
無常にもフェリクスが言い放った。
こっ…この野郎!!
「なら!狩った魔物の素材を剥ぎ取って売ったり食ったりとか出来ないの?」
するとフェリクスもエリーゼも青ざめた。
ユリウスだけは
「へえ…中々面白いことを言うね兄上」
と興味深々な顔をした。
「なんて恐ろしいことを!殿下やはり記憶を無くされて変なこと言うようになりましたね!死んだ魔物なんて物凄い異臭を放ちますし誰もそんなの売ろうとか食おうなんて思いませんよ!!」
ふーん、やっぱり恋愛ジャンルだと冒険不可ならしいなぁ。ちっ。
だが、魔物を倒せばいい運動になって痩せるんじゃないのか?
「それに王子の腕では魔物に逆に喰われます!」
言いやがったわ!くくくくそーーー!!
仕方なく俺は今日もトレーニングに勤しんだ。
*
ああ、ムカムカしますわ!
先日勝手に勘違いして一方的に私が嫌いだから婚約破棄すると喚き散らしたあの豚王子の無礼さに!前々からムカつく豚だとは思っていましたけどさらに嫌気がしますわ!
私は剣を持ちヘンリックに声をかける。
「森へ行きます」
「お嬢様…またですか?」
ヘンリックは慌ててコートを持ってくる。
「憂さ晴らしよっ!あのムカつく豚が悪いのよっ!ああ!早く婚約破棄したいわ!」
そして私は颯爽と馬に跨り駆け出した!
ヘンリックも後から付いてくる。
馬を森の木に繋ぎ私とヘンリックは歩き出した。
「うっ…臭っ!!お嬢様!やはり前倒した魔物が腐って凄い臭いです!辞めましょう!」
「うるさいわね!それなら貴方が魔物を埋めておきなさい、少しはマシよ!」
とそこで魔物の気配を感じた。
「くくく…来たわね?そらそらおいで?」
と私は魔物をおびき寄せる。
「鮮血姫降臨だ!」
とヘンリックが怯えた。
バルシュミーデ侯爵家は大体皆赤い髪を持ち産まれて来る。この国では珍しい貴重な色だが先祖がこの髪を使い敵を斬り殺し、その血が髪に染み込んだと言われているのだ。
「あら?5匹かしら?」
一斉に四方八方から魔物がその醜い姿で牙を剥き出し私とヘンリックに向かって来た。
「ひっひえええ!」
情けないわねヘンリック!
私は剣を構えあの豚を思い出し前の1匹をぶった斬り、バシャリと血を浴びた。
後ろから両横から斜めから迫る魔物に私の髪が剣のように鋭くなり一斉に魔物たちの急所を貫いた。
それで終わりだ。
魔物は鎮まり地面に倒れた。
「ふん!まるで豚と同じね…あいつもこうできたらどんなにいいかしら!」
「抑えてください!クラウディア様!!」
私の力は先の戦争でよく使ったけどそれでも特殊な能力を使う空飛ぶ兵士に上から光の球を撃ち込まれブッシュバウムはなす術もなく破壊され負けた。
私を畏怖する者は多いけど称える者もまた多い。バルシュミーデ侯爵家の人間はそうして続いてきたのだ。それをあの豚王子!簡単にパイ投げなんかで決めやがって!あまつさえ変な歌を披露して愚弄したあげく勘違いの婚約破棄発言!何とも勝手な!何が記憶喪失!
例え本当に記憶喪失でもあの酷い歌には私の髪も震えだすくらいだ!何とか抑えるのに必死だった。
「くっ!暗殺でもしてやろうかあの豚王子め!」
まだ怒りが収まらないクラウディアを見て従者のヘンリックは溜息をついた。
美少女だけどこの人の貰い手が見つかっただけでもめでたいと言うのに早くも婚約破棄されそうになってる。勘違いした馬鹿な王子も王子だけど。
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