不死蝶を探して

大豆

巡回日誌1 「蝶は何処へ行ったんだろうか」

はじまり

『静かなもんだね、今どきのヘリは。』


俺の向かいに座るデブ親父が言った。


今俺達はヘリに乗り、ヘリはもう間もなくエバーグリーン上空にさしかかる。


『外を御覧になりますか?』


俺の隣に座るスイが言った。

この来賓用大型ヘリは電車の車内の様な向かい合わせの座椅子があり、背後には窓があるが普段は安全のためシャッターを下ろしている。


『お?おお!見たい見たい!見せてくれ!』

先ほどからうるさいこのおっさんは国の役人である。


俺等の活動の視察だとのことだが旅行気分丸出しだ。

環境省の職員だと言うから邪険には出来ないが。



スイが立ち上がり、おっさんの傍の窓のシャッターを開けた。


スイは身長195ある。

それでも中腰にならず済むのは、さすが来賓用の高級ヘリだ。



『んんー?なんだあれは。灰色でゴミゴミしててまるで空爆後の市街地だ。森はどこだ?』


『それが森なんです。エバーグリーンは巨大化した菌類や昆虫にやられまいと「進化」した結果ああなりました。森自体が毒物です。』


スイが説明した。



『不死蝶はあの中で何で生きていられるんだ?』


おっさんは至極当然とも言える疑問を投げかけた。


『さぁ?そこは「不死蝶」ですからね。あはははっ』


スイが笑う。

おっさんは納得いかずの表情だ。


俺立ち上がる。


『もうそろそろ着陸しますよ。防護服とマスクつけてください。』

政治家は虫より嫌いだが、これも仕事だ。

俺はおっさんにマスクを差し出した。

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