◆第40話 遥かなる時を越え、明かされた香南と陸の秘密
誕生日を陸達に祝ってもらった日の夜、
香南はすべてを思い出したのだ。
どれくらい昔なのか想像もできないくらい昔のことだ。
この時代に生まれるよりももっと前、かつて香南は今とは違う少女、
ターシャという名の人間の姿でこの国とは明らかに
異質の世界にある山奥に家族であろう人達、
両親と弟と暮らしていた。
高い山々を森が覆い、少し足を伸ばせば海に出ることが出来る、
とても風景の美しい所だった。
少女は不思議な力を持っていた。
ファンタジーでいうところの魔法という力だ。
魔法が使えることを村の人々に知られてはいけなかったのだが、
家族を救うために止む終えず魔法を使った結果、
少女の家族は皆殺されてしまった。
その恨みを晴らすために魔術を極め成長した少女、
ターシャは村人達に復讐を果たした後、
世界を征服する野望を打ち立てた。
だがその野望は達成されることなく
幼き頃親しくしていたかつての少年、リュウに倒され阻止されてしまった。
ターシャはリュウに殺される直前ある魔法を使った。
魔法と言うよりは特殊なモノで呪いに近い。
家族を壊した醜い世界と、目的を阻止し
ターシャを殺した少年に復讐するために。
その呪い―気の遠くなるような長い時を超えてどこまでも、
輪廻の輪を幾度超え生まれ変わったとしても、
リュウのことを追いかけたのだ。
ずっと、果たせなかった無念を晴らすまで。
そしてこのはるかに長い時を跨ぐほどの大きな呪いを
機能させうるためにターシャが支払った代償は―
生まれ変わり続けても、人の愛やぬくもりに恵まれることはなく、
ずっと孤独であり続けることだった。
だから、香南は孤独であり続けなくてはならないという
強迫観念にも似た感情を常に持っていたのだ。
自分たちの運命を呪う。
自分が今ここにいる存在理由。
何をなすために生まれてきたのか。
香南は彼を、
遠野陸を殺すためにもう何百年と昔から・・・・
あらゆる時代を生きてきたのだ。
占い師にお金を払った後、
占ってもらった時言われた言葉を振り返った。
「その三人とは現世だけじゃあなくて、
前世にも深いつながりを見ることができるねぇ」
話を再会した占い師の第一声がそれだった。
「前世ですって・・・?」
また香南の信じる許容の範囲外の分野が出てきたと思った。
「魂のレベルでね。あなた自身もどこかで
そのことに気がついているのではないかい?」
最近よく夢に見ること・・・・。
香南は愕然としていた。あの夢が前世の出来事だというのか。
第三者の言葉によって夢と現実がリンクしそうになる。
陸やアンパン、桃子がもしも夢の中に出てくる
人物達の生まれ変わりだったとしたら・・・。
確かに三人とも他の他人に対してとは
明らかに違う感情を香南は持っていた。
だからこそこれまで関係性が続いてきたと言えるけれど・・・。
「前世と言ってもこの世界のことじゃあない。異次元世界の前世だ」
「異次元?」
「信じられないことかもしれないけど、世界は一つじゃあないのよ。
今あるこの世界と平行して、私達が知らないだけで
たくさんの次元の違う世界が存在するの」
話の内容が突然飛躍し、
理解がついていけなくなる。
「他の世界なんてあるわけないわ。
第一どうやってその存在が証明できるのよ」
「平行世界は自覚した人間にしかわからないものよ」
「まったく見当違いの外れもいいところね。全然当たってないわよ」
髪をかきあげて突っぱねるように言った。
認めたくなくて香南は嘘をついた。
不愉快になったのだ。
見ず知らずの他人に、
自分でもよくわからずに持て余している事柄を解き明かされたことで。
「あら、そう?それは残念」
言いながらもまったく残念そうに見えず、
満足そうに笑みを浮かべている。
癪に障って香南は立ち上がりその場を去ったのだった。
今なら占い師の言っていたことが理解できる。
前世での深いつながり―
桃子はターシャの母親の生まれ変わり。
アンパンはターシャの可愛がっていた弟、アルクの―
そして陸は・・リュウの生まれ変わりなのだ。
理屈云々でなくただ感覚で、魂がそうなのだと告げている。
陸とは幼い頃からずっとつながりが切れなかった。
桃子も何かと世話を焼いてきた。
アンパンもうっとうしいと思いながらも
最後の最後は邪険には出来なかった。
それら全てに頷ける理由は―
―前世で親しい間柄だったから――。
これまでにターシャは何世代にも渡って姿を変えながら、
十六歳の誕生日を境に呪い、野望を思い出し覚醒すると、
同じく生まれ変わったリュウを追い復讐しようとしてきた。
現世でもこうして過去の記憶を取り戻し、
リュウの生まれ変わりの陸を見つけ出して復讐を果たそうとしている。
今でもこの呪いが続いているということは同じく
前世に目覚めた彼によって倒され野望は失敗に終わってきたという事だ。
前世の記憶を取り戻してから香南は、
呪いを果たすべく陸を殺そうとする衝動にかられた。
陸を殺したくなんかない。
だからこれまで衝動に抗い避けてきたけれど・・
幾多の時を越えて積み重ねられた負の思念の力には勝てずに・・
香南一人の意思は押しやられてしまった。
はるか遠い昔、この世界に生まれるよりもずっと前、
陸は世界の平和を守る騎士だった。
紅い髪、見るもの全てを紅く染め上げてしまいそうな
真紅の瞳を持った少女、香南が。
ターシャの生まれ変わりである少女が。
今目の前に立っている。
彼女を陥れた世界に復讐を果たさんがために。
魔法を使うときのあの紅い瞳がきっかけになって
陸は忘れられていた記憶を取り戻した。
かつて、陸は香南と出会っていた。
リュウとターシャという、少年と少女として。
リュウはターシャの世界への復讐を
阻止せんがためにこの手にかけたのだ。
愛する世界を守るために止む終えず。
彼女に呪いをかけられたことによって続いた後も、
それは何世代にも渡ってその信念を持ちながら変わることなく、
生まれ変わる度に幾度も彼女を倒してきた。
説得は虚しく、どの時代もターシャを救ってやることはできなかった。
リュウも最初は殺すつもりなんてなかった。
理想はターシャを説得して共に二人で歩んでいきたかったのだ。
犯した罪を償いながらも、二人で。
陸は絶望感に打ちひしがれた。
この時代でもまた・・
記憶を取り戻した香南を葬らなくてはならないのかと・・・。
彼女のことが、こんなにも。
好きだというのに・・・・・・・。
「その様子だと・・三人とも思い出してくれたようね」
香南は満足そうに不敵な笑いを浮かべた。
「ターシャ・・」
「お姉ちゃん・・」
桃子とアンパンが困惑と動揺の入り混じったような表情で、
前世での呼び名でそれぞれ呟いている。
「陸・・いえリュウ。私はあなたを殺す。
永い時を得て果たせなかった
この目的を成就させるために。今度こそはね」
紅い瞳が揺らぐ。
「香南、いやターシャ・・君は今度も・・俺を殺したら、
世界を支配するつもりなんだな。これまでの時代のように」
「それが私が今ここに存在している理由だからね」
生まれ変わりこうして対峙するたび
説得してきたが今回も失敗に終わりそうだ。
ターシャの魔法は強大なものだった。
だが果たして科学の発達した現代で世界支配が可能なのかわからないが、
放っておけば世界に莫大な被害をもたらすのは確実だった。
前世から受け継いでいるリュウの意思からも、
現在の陸の意思としても香南に
そんな甚大な罪を犯させるわけにはいかない。
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