◆第37話 異変!蘇る記憶!翻弄される香南!
場は盛り上がりドンちゃん騒ぎになった。
テレビにカラオケ機を取り付けてアンパンが歌を歌う
本人は真剣だがすごく音痴で皆の笑いをとっていた。
香南も、笑いをこらえ体を震わせた。
おばさんと桃子がディユエット。仲の良い姉妹みたい。
気がつけば香南もリラックスし自然と笑いがこぼれていた。
おや、アンパンがどもりながら桃子をデュエットに誘っている。
桃子にノリノリで承諾され興奮していた。
肩を並べて今流行りの歌を歌っている二人を目を細めて眺めた。
アンパンは本当に彼女のことが好きなんだな、と思っていると、ふと。
「あれ・・?」
目をこする。
彼らの姿が・・一瞬別の姿に見えた?気のせいだろうか。
しかもそれは初見でなくてどこかで見たことがある。
どこだったろうか。
香南を驚愕させた占い師の言葉を思い出す・・・。
まさか。
今考えた思考を振り払おうと頭を振る。
この楽しいひと時に、皆が祝ってくれているんだから
余計なことを思案するのはやめよう。
陸のほうをちらりと見ると、視線がぶつかった。
どきりとする。
優しい笑顔。
香南の存在全てを受けて入れてくれているとでもいうような。
ああ、本当に陸は。
香南のことを好きでいてくれているんだなと、
うぬぼれとかでは決してなくて肌で、
あらゆる感覚で実感した。
それに・・・考えまいとしても
占い師の言葉が浮かびあがりちらつく。
陸のそんな穏やかな顔を、香南は知っていた。
もうずっと前から。
理屈では説明のつかない本能に近い感覚の中で。
やはり占い師の言っていたことは真実なのか―。
その夜、楽しい宴の余韻を引きずった後、
香南は帰路についた。
満たされた気持ち、
戸惑う想いが入り混じったままついたベットの上で。
まどろむ眠りに落ちていく中で―。
十六歳になった最初の夜。
香南は夢を見た。
これまでとは比べ物にならない鮮明な夢。
はっと覚醒し目を覚ます。
思い出した。
香南は全てを。
何もかもを・・。
これまで生きてきたものとは全く異質の感情、
想いと共に迎える初めての早朝。
香南は学校に向って通学路を歩いていた。
何もかもを思い出し、取り戻した今、
香南は一体彼らとどう接したらいいのだろうか。
全てを知った今これまで通りに振舞う自信ははっきり言ってない。
どう対処するべきか決まるわけもなく、
気がつけば学校に着いてしまっていた。
胸を高鳴らせ緊張しながら教室に入る。
まだ陸は来ていなくてほっとした。
桃子もアンパンもまだらしい。
だが数十分もしないうちに彼らは
欠席でもしない限り登校してくるのだ。
嫌でも顔を合わせることになる。
その時果たして香南は正気を保っていられるのだろうか。
正直そんな自信なんてこれっぽちもなかった。
予鈴がなる少し前に陸がやってきた。
顔を上げられない。
「おはよう、香南」
いつも聞く彼の声。
香南はゆっくりと顔をあげていく。
彼の姿を視界に入れた瞬間。
どくん、
と尋常でない大きさで心臓がはねた。
漆黒の目が血走り充血する。
頭、頭蓋の奥深くから―
地響きめいた低い声が聞こえてくる。
視界が白黒になり、
反転を繰り返す。
・・・セ
・・ロセ
コ・・・セ
コロセ
コロセコロセ
コロセコロセコロセコロセ
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
コロセコロセコロセコロセ・・・・・!
どす黒い衝動に胸が突き動かされそうになった。
頭を抱えるように抑えた。
「おい、どうした香南。気分でも悪いのか」
近づいて来る陸。
心の奥底に潜むおぞましいものに
意識が乗っ取られそうな感覚になったが、懸命に我を引き戻す。
「来ないで!」
教室中、更には廊下にまで地響いていくような
悲鳴に近い叫びをあげていた。
教室内がしんとなって、皆がこちらを注目している。
その中に桃子もアンパンもいつの間にかやってきていた。
周囲がざわつきだす。
「香南・・・・?」
陸は目を見開いて驚いたような
表情で呆然としている。
香南は胸を衝動を押さえ込もうと
必死に押さえつける。
駄目だ。
ここにいては危険だ。
これ以上、彼の前にいたら何をしでかしてしまうかわからない。
席を乱雑にひき。
教室を飛び出した。
陸の呼ぶ声が追いかけてきても構わず。
再び戻ることなく、
香南はそのまま学校を後にした。
翌日、香南は学校に行かないことに決めた。
陸に会うことはできない。
顔を見たらきっと
・・・・・・・取り返しのつかないことをしていしまう。
そう確信していた。この衝動を押さえ込む自信はない。
休みだしてから二日目に桃子から自宅に留守電が入っていた。
「香南、体の具合悪いの?」
「皆心配してるよ、連絡ください」
メッセージを停止させる。
両親は娘が数日学校を休んでも気にも留めないような人達だ。
風邪をひいて寝込んだ時も、
看病などなく一人で自力で治したくらいだから。
こんな時にはそういう両親で助かったと皮肉ながら思った。
早朝普通じゃない様子で、
香南が教室を出て行った日から二日目がたっていた。
あれから彼女は学校に来ていない。
ホームルームが始まる前の時間、
陸の机を桃子とアンパンが囲んで立っている。
皆の表情は硬く冴えない。
「香南一体どうしちゃったの」
「わからない。俺が聞きたいくらいだよ」
「病気ではなさそうよね」
「やっぱり原因はあれか・・・・」
「俺もあの場にいたけど、すごい剣幕だったぞ、香南」
アンパンが鼻息荒く言う。
彼の言う通り、尋常でない拒絶の仕方だった。
それ以上近づくことは絶対に許さないとでもいうような・・・。
「まさか傷つけるようなひどいこと言ったんじゃないでしょうね」
「何もしてないよ。挨拶して声をかけただけだ」
陸は心外だとでもいうように桃子に言う。
あの時の香南は声をかける前から明らかにおかしかったのだと。
「告白してから避けられてはいたけど、
まさかこんなに極端になるなんて普通思わないだろう」
よそよそしく避けられていた時から落差が大きすぎる。
こうなる前触れなんて何もなかった。
先日の誕生日パーティーではとても喜んでくれていたのに
一体どうしてこんなことになってしまったのか。
陸は頭をもたげて考える。
「それもそうね・・・・てことは誕生日の時ことが
関係してるのかしら。私達が気がつかないうちに、
あの子の気に障るようなことしてしまったのかも」
「ちょっと待て、告白?何の話だ」
アンパンが目を白黒させている。
「ああアンパンは知らなかったわね」
「えええ、どうして教えてくれなかったんだよっ」
陸が香南に告白したことを知ると、嘆き声をあげた。
「私も直接教えてもらったわけじゃないの、
あなたが鈍感なのを悔やみなさい」
自分ひとり知らなかったことにアンパンは
頭を抱え苦悩するように身悶えしている。
チャイムが鳴ったので桃子が話をまとめた。
「とにかく今日帰ったら香南の家に電話してみるわ」
次の日、桃子は香南と連絡をとれなかったことを報告すると、
放課後直接家に行ってみましょうと提案したのだった。
桃子を先頭に陸、アンパンは香南の家の玄関ドアの前に立っていた。
三人が頷きあうとインターホンを押す。
しばらくしても反応がなく、
再度押したが誰かが出てくる様子はなかった。
「留守か・・・・」
「あの子どこ行っちゃったのかしら・・・」
「居留守かもしれねぇぞ」
アンパンがドアを二、三回叩き声をかける。
「おーい、香南。俺だ、アンパンだ。
いないのか?陸と桃子も来てくれたぞ」
しかし反応は何もなかった。
しばらくしたら外から帰ってくるかと待ってみたが、
香南があらわれることなく、
皆それぞれ物思いに沈む面持ちでその場を後にした。
本当に香南はどうしたというんだろう。
一体何があったのか。大事でなければよいのだが。
彼女の身を案じているのは桃子もアンパンも同じだと思う。
結局三人頭をつき合わせてみても真相がわかるはずもなく、
直接本人に会って聞き出すしかなさそうだったが、
こうして会えないのではどうしようもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます