◇第34話 暗黒の魔法少女による世界滅亡の危機♪
ターシャは深い森の奥に、居城を構えた。
邪悪な魔女らしくゴシック調の趣。
暗色で彩られた禍々しい城だった。
城を守衛する数百にのぼる兵士は人ならざるものだった。
ターシャの闇魔法によって暗黒世界から召喚された、
忌まわしき魂がただの鎧に宿り、ターシャを守る騎士となったのだ。
故郷の村でターシャが復讐を果たし
壊滅させたた情報はまたたく間に周囲の町や国に拡散されていった。
数年の時をえて凶悪な魔女が再びこの地上に
出現したと国から国へあっという間に伝わった。
ターシャの耳にも世界各国で、
新たに現れた魔女を討伐しようとする動きが
生まれているという噂が入ってきた。
それならばこちらから出向いてやろうではないかと
居城を拠点にし、ターシャは兵士を引き連れて
世界各国の巨大な城や街に赴き壊滅させた。
ターシャの大切なものを奪い、ターシャを拒絶する世界への、
復讐、支配への道を歩み始めたのだ。
暗黒の魔女、「ターシャ」の名が
世界に轟くのにそう長い時間はかからなかった。
世界滅亡の危機を阻止する機運が高まると
世界中から魔女を討伐すべく、
たくさんの戦士たちがターシャの城にやってきた。
世界の支配を企む魔女を倒せば、
多大な名声を得ることが出来るからだ。
挑んでくるものの実力は様々、
身の程知らずの弱小兵士の集団であったり、
中にはなかなか骨のある戦士もやってきたが、
ターシャは悉く返り討ちにした。
そしてとうとう、
世界から名の知れた一流の剣士や武道家がやってくるようになった。
しかしどの勇者も魔術を極めたターシャを討ち取ることは出来ず、
その命を落すこととなった。
一人の例外もなくこの城から
生きてかえった者はまだ誰もいなかった。
数年がたち、ターシャはもう完成された
大人の女性といっていいほどの容姿に成長した。
すらりと伸びた手足。透けるような白い肌。
精緻な顔立ち。
その姿は目を奪われるほどに美しかったが、
生気を失った人形のような冷たい表情をしていたため、
世界からは世にも美しく残酷な魔女と噂されるようになった。
ターシャの存在自体に惹かれて、己のモノにしようと命知らずの愚か者が、
ちらほらあらわれるようになったのがその証明だった。
ターシャの勢いはとどまることなく、
もう世界を手中におさめたも同然だった。
世界に散らばる国々を制圧し挑んでくる者も途絶えた。
望みどおり世界への復讐はもう完遂しつつあった。
だというのに。
ターシャの心を満たしたものは何もなかった。
世界制覇など案外あっけないものだったと思うだけで、
喜びも達成感も何の感慨もなかった。
あるのは言いようのない虚しさと孤独だけ。
視界に映る日々は灰色に満ちて、
まだ家族がいた頃の幸せな日々とは比べるべくもなかった。
あの頃はなんでもないことが
光り輝きたくさんの笑顔があった。
暗い城の王座に座りターシャは瞳を閉じると、
今はもう取り戻すことの出来ない懐かしい日々に、想いを馳せるのだった。
挑戦者も訪れなくなって久しい頃、
一人の騎士が居城にやってきた。
鉄仮面を被っており、素顔を見ることが出来なかった。
背に剣を抱えている。
もう世界は魔女討伐は不可能だとあきらめたとばかり思っていたが。
王座まで辿り着くのに、兵士達を倒してやってきたのだから、
それなりの実力はあるようだった。
だが今や全世界を覆いつくそうとしている
魔女にたった一人で挑んでくるとは、無謀であり正気の沙汰ではなかった。
「?」
騎士はターシャの側まで近づいて来ると息を飲んだ様子だった。
それは仮面を被っていてもはっきりとわかった。
こちらが怪訝に思っていると騎士は戦いを始める前に話をもちかけてきた。
これまで挑んできた者達は、その大半、
ただ魔女を殺すことだけを最大の目的としていたため
まともな会話することなどほぼ皆無だった。
中にはターシャに魅了された者が
誘惑してくるという例外もあったが、騎士の話は異なっていた。
「君のしてきたことは世界中の人達を苦しめている。
もうこんなことはやめるんだ」
「お前、頭がおかしいのか。そんな説得、
今更聞き入れるくらいないなら
初めから世界征服なんてするわけがないでしょう」
青年の言葉に鼻で笑う。
まさか戦う前に説教をしてくるとは思いもよらなかった。
「君は数え切れない罪を犯した。
だからこそその罪を償わなければいけない」
ターシャを拒絶し
不幸にした世界に対して罪を・・?
「罰を受けろと?私に指図するな!
贖罪などするつもりは微塵もないわっ」
怒りが瞬時にこみ上げる。
射るような視線で炎を差し向けると
騎士は剣を素早く抜き、巧みにいなしてしまった。
半端な騎士ならそれで今頃体を焼かれ命を落している。
「少しはやるみたいね、お前、名前はなんと言う」
「リューク・・リュークフリードだ」
「いいわ。リューク、久しぶりの挑戦者。楽しませてもらおうかしら」
ターシャは王座から立ち上がり、
リュークと名乗る男と対峙した。
戦いはターシャが少し力を出せば、
騎士を圧倒しすぐに終わると踏んでいたが、
その予想は大きく外れた。
繰り出すあらゆる魔法を騎士は精錬された剣裁きで退け、
跳ね返し切り崩してしまった。
こちらが攻めるのみならず、
ターシャの隙をついて反撃までしてきた。
これまで挑んできた戦士達はたいてい絶大な魔法の前に、
攻める余裕なく防戦一方になるか、
一瞬で勝負がつくかのどちらかだった。
だが今目の前にしている騎士は
ターシャに始めて剣を浴びせてきたのだ。
更に驚くことに。
ターシャは頭の中で騎士を倒すイメージを描くことが出来なかった。
これまで倒してきた者たちは皆、
容易にイメージできたというのに。
魔法と剣の攻防が続いた。
ターシャはたまらず、背後に飛びのき騎士と距離をとった。
「どうした。もう終わりか?
魔女というのはこの程度の実力しかないのかな」
「うぬぼれるんじゃあないわよ。すぐに楽にしてあげるわ」
特に疲労した様子もない騎士を睨みすえ、
ターシャは呪文を唱えた。
すると騎士を取り囲むように、四隅に四つの竜巻が出現した。
激しく渦を巻きみるみる巨大化し上昇していく。
騎士は剣を構え、四方に視線をめぐらせている。
「これでお終いよ。あの世に行きなさい」
ターシャの手の動きに連動して、
巻き起こった四つの竜巻がこうべを垂れるようにして、
騎士めがけて襲いかかっていく。
周囲を囲まれ逃げ場はない。さあどうする。
騎士は何と。
竜巻が全て合わさる前に、一つの竜巻に突進していき剣を振りかぶって、
竜巻を斜めに真っ二つにした。
間に出来た空間に飛び込んで、
閉じていく竜巻の猛威を多少受けながらも、
外側に脱出してきた。
騎士の瞬時の判断力。
あのまま四つの竜巻を同時に撃退するのは不可能と推し量り、
一つの竜巻から脱出することで、
ダメージを最小限にとどまらせた。
この騎士は戦いなれている、そう思った。
鎧のあちこちに亀裂を走らせて、膝をついている。
鉄仮面も頬の辺りがかけていた。
騎士が動こうとしたその時だった。
仮面が砕け崩れ落ちその素顔があらわになったのは。
立ち上がり改めてこちらと向かい合う。
「・・・・!?」
すぐにはわからなかった。
ターシャは息を飲む。
少年の頃よりも引き締まった大人の顔立ち。
だがはっきりと面影を残している。
騎士の顔を食い入るように見つめた。
「あなた・・・リュウ?」
騎士は笑みを浮かべた。
「リュウなのね?」
「久しぶりだね、ターシャ」
「大きくなったから・・一瞬わからなかったわ」
「君も綺麗になった」
臆面もないその言葉に
ターシャは頬を染めていた。
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