◆第33話 香南ちゃんと占い師★

学校からの帰り道、


香南は買い物するために駅前のショッピング街に来ていた。




親がどうしようもないから、


生活に必要なものは自分で買い揃えている。




「ちょっとそこのお嬢さん」




行きかう人々が少しまばらになった細い道を歩いていた時だ。


どこからか声がした。




見ると道の脇、シャッターーの下ろされたお店の前に人がいた。


小さな椅子と台座。




その上に「占い」と太い文字で書かれた縦長の箱が目に入った。


占い師は濃い化粧をした初老の女性だった。




周りには人通りがなく、


香南に声をかけたのも明白だった。




変な輩には関わるまいと


無視して歩き出そうとする。




「孤独の相が出ているわね」


占い師の言葉にピタリと足が止まった。




ゆっくりと振り返る。


女性は口の端を横いっぱいに広げて笑っている。




華奢で痩せ細った体に対して目が大きく


そこだけ浮き上がるみたいに異様な光を放っていた。




香南は警戒心を保ったまま


観察するように細めた漆黒の目を向ける。




「ただにしておくからちょっとよって行きなさい」


じっと占い師を見つめながら、どうしようか迷う。




孤独・・・。






香南の本質と言ってもいいものを占い師が


一目見ただけで言い当てたことが、足を止めさせていた。




「珍しい顔の相をした人を見るとね、


タダでもいいから占いたくなる時があるのよ。まあ一種の職業病かしらね」




肩を揺すらせて笑っている。


思案した末、香南は占い師の所まで歩いていった。




「孤独の相とか言っていたけれど、どういうこと?」


「まあ、腰掛けなさいな。立ち話もなんだしね」




香南は浅く椅子に腰掛けた。


外見を見ただけで香南の特性を言い当てた、


占い師の言葉にちょっとだけ好奇心が湧いたのだ。




話を遊び半分で聞いてみてもいいだろうと思った。


無料らしいし。ろくでもなければ、帰ればいいだけの話。




「あなたが生まれつき、


 孤独な人生を送る星の元に生まれてきているっている意味だよ」




香南は答えない。肯定も否定もしない。


胸の内だけで頷いている。




確かに香南は孤独でいることが自然だと幼い頃から自覚していたが、


今は付き合っている仲間達がいる。




だから厳密に言うと占い師の鑑定ははずれだ。


だが占い師の次の言葉が香南の心臓を飛び上がりそうにさせた。




「だけども・・・今は三人の人間と深いつながりを持っているようだね・・


 男が二人と女が一人か」




香南のことを遠くを見るようにして目を細めている。


「どうしてそんな具体的なことがわかるのよ」




「その様子だとドンぴしゃりみたいね」


可笑しそうに笑っている。




今日会ったばかりの見ず知らずの他人に、


事実を言い当てられて、気がつけば香南は動揺を隠しきれずにいた。




「あたしは占い師だよ。人を見ることでお金を稼いでるんだ。


 これぐらいのこと出来て当然さ」




確かに占い師の言うことはもっともらしく


矛盾はないように聞こえる。




しかしそれ以前に香南自身、世間一般の女の子が好む


占いや血液型などの類を全く信用しない性質なのだ。




そんな胡散臭いこと信じない。


どれもインチキだと思っている。




「さ、ただで話をしてあげるのはここまで。


 続きを聞きたかったらお金を払って頂戴ね」




「さっき無料って言ったじゃない。最後まで話しなさいよ」


「私はこれでも商売人だからね、ボランティアじゃないのよ」




「・・・・」


香南は閉口した。




この占い師は普段、香南にしたようにまず言葉をかけて客を引き止めて、


興味を抱かせた後、お金を取っているだろうことを悟った。




舌打ちしそうになるのを堪えて聞く。


「わかったわ、いくら払えばいいの」




このまま話を中途半端に聞かずに帰ったら、


後々気になって仕方なくなるだろう。




だから占い師の言う少し値の張った金額を、


不本意ながらしぶしぶ払った。




上機嫌でお金を受け取った占い師は話を再開した。














残りの話は数十分と、すぐに終わった。




だがしかし―。












香南の表情、そして意識は凍り付いていた。


「どうかしら、満足してもらえた?」




「馬鹿馬鹿しい、お金を払ってまで聞くんじゃなかったわ」


精一杯虚勢を張って答える。




「まったく見当外れもいいところね。全然当たってなかったわよ」


「あら、そうそれは残念」




占い師は香南の辛らつな言葉に気を悪くした様子はなかった。


それどころか香南がムキになって否定していることも


全て見透かしているような、勝ち誇った態度だった。




ふらつきそうになるのを堪えて何とか立ち上がる。




「あと言い忘れたけれど」


占い師は付け足すように話した。




だがそれは更に香南に追い討ちをかけるような内容だった。


「またいつでもおいで」




占い師の声を背中で聞き、その場を後にした。


香南は買い物することも忘れてさまようようにして自宅に向った。




どこを通りどうやって帰ったのかもまったく覚えていないほどの


ショックを占い師は香南に与えたのだった。




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