ひさ死ぶり

火田案山子

1時間目 1

目が覚めると自室の布団の中では無く机の上だった。

それも学校の机に、まるで授業中に居眠りでもしてたかの様に寝ていたらしい。

変だ。自分は確かに布団で寝たはずなのに。ふと見るとそこにいたのは自分だけでは無かった。自分と同じ位の歳の男女が約30人。皆起きていたりまだ寝ていたりしている。ふと彼らの顔に見覚えがある事に気付いた。高校3年生の時のクラスメイト達だ。皆口々に「何だよここ?」「どうなってんだよ?」と騒いでいる。自分も部屋の中を見渡してみるとやがて気付いた。ここはかつて自分達がいた高校の3年A組の教室だ。ちょっと懐かしさを感じたがどう考えてもこれは異常事態だ。やがて教室にいる全員が目覚めた様だ。女の中には悲鳴を上げたり泣き出す者までいた。

ふと一人が何かに気付いた。

「おい、あれ見ろよ」

指差した方を見ると教室の前方、黒板に白いチョークで何やら書いてあった。


『やあみんな。ひさ死ぶり。元気だった?またみんなに会えて嬉しいよ。これでやっと復讐が果たせるんだからね。これからみんなにはこの学校からの脱出ゲームに挑戦してもらうよ。頑張って出口を見つけて脱出を目指せ!でもでも〜、このゲームはそんなに簡単じゃ無いよ。だってこの学校の中にはぼくが協力を仰いだ殺人犯のみなさんがいるからね。みんな指名手配中の凶悪犯ばっかりだよ。それともう一つ。タイムリミットは日の出までの6時間だよ。時計が深夜0時になったらゲームスタートだよ。もし6時になったら校舎中に仕掛けたたくさんの爆弾がドカン!だよ。脱出出来なかった人はみんな死んじゃうよ。アハハ!それじゃあみんなせいぜいがんばってね!バイバーイ!』


「…んだよこれ?誰のいたずらだ?ざけやがって」

そう言ったのは髪を金に染めた目つきの悪い男だった。高坂。在校時には所謂不良だった。喧嘩、喫煙、飲酒、恐喝、無免許運転等数々の悪事をやっていた問題児だった。

そして何より酷いいじめっ子だった。

「殺人犯?爆弾?いやいや嘘だろ」

「嘘に決まってんだろ」

「馬鹿馬鹿しい。さっさと帰ろうぜ」

男たちは口々にそう言った。しかし、いざ外に出ようと扉に手をかけるが開かない。教室の前後両方だ。

ならば、と窓に手をかけたが、こっちも全て固く閉まっている。錠を開けてもまるで窓がくっついているかの様にビクともしない。

「おいどうすんだよ?」

「外に連絡を…あれ?携帯が無い!」

「え?あ!俺のも無い!」「あたしのも!」「嘘!やだ!あたしのも!」

自分もかと思ったが、探すまでも無かった。なぜなら今の自分はパジャマ姿だからだ。布団に入って寝ていたのだから。

どうやらここにいる者達全員が携帯電話を持っていないらしい。恐らく自分たちを何らかの方法で攫ってここに閉じ込めた何者かが取ったのだろう。

「くそっ!財布もタバコも何もねえじゃねえか!」と高坂。どうやら他の者たちも皆同じ様だった。

状況はこうだ。

教室は真っ暗でスイッチを押しても電気はつかない。

外から射す満月の光が室内を照らしているだけだ。

そして現在時刻は午前0時12分(携帯も腕時計も無いので教室の黒板上の時計で確認)。すでに脱出ゲームとやらは始まってる様だ。

数えてみると室内にいるのは25人。男15人 女10人。

ちなみに自分は男だ。歳は23歳。この教室に入るのは卒業以来実に5年ぶりだ。名前は…

「大塚?お前大塚か?」

そう声をかけてきたのはスーツ姿の男だった。

「俺だよ。杉田」

「ああ…」

思い出した。杉田だ。確か生徒会役員をやってた奴だ。あまり親しかった仲でもなかったが。

「一体どうなってんだろうな?会社から帰って家でソファに寝転んだとこまでは覚えてんだが…」

「さあ…僕も家で寝てたはずなんだけど…」

ガシャーン

と、そこで大きな音が。見ると男の1人が机を持ち上げて窓ガラスに叩きつけたらしい。

「へっ、開かねえんならこうすりゃいんだよ」

男の名は藤田。所謂お調子者でよくお笑い芸人の真似をしてはしゃいでいた。

藤田は窓ガラスを人が入れるまで崩して外に身を乗り出した。

「ここから逃げようぜ」

「おいおい正気か?ここ3階だぜ」

「大丈夫だ。俺が1人で降りて助けを呼んでくる」

そう言って藤田は窓の外に出た。皆はそれを心配げに眺めた。

一応窓の下に足場になる部分はあるが、しかし…

「よせ藤田!戻れ!」と叫ぶ者もいた。

「へへ…こんなもん、慎重にやりゃあ…」

と、次の瞬間だった。

「ああっ!」「きゃー!」誰かの悲鳴が響いた。

落ちた。

藤田は足を滑らせたのか気づいた時には地面に横たわっていた。

「藤田!」「藤田君!」

皆が叫ぶが藤田は動かない。

死んだ。

かつてのクラスメイトが1人、目の前で死んだ。


25-1=24

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