第7話 ワスレナグサ

リリーとレイナを家へ連れ帰って、すぐに詳しい事情を聞いた。

どうやらリリーが14歳の頃、偶然この街を訪れていた国王が彼女を見かけて言ったらしい。

「あの女が16歳になった時、あれを余の第七王妃とする。」

汚れきった国王の醜い情欲は、ただの幼い街娘の運命を意図も簡単に縛り付けた。

最初は街のためにと納得していたリリーが、再び自由を求めるようになったのは、2年前、この街に魔女が来たからだそうだ。

誰の目を気にする事もなく『恋がしたい』などと叫んだその姿を見て、リリーは自分の気持ちが代弁されたように感じたらしい。


つまりこの子が街の人から石打にあったのは私にも原因があるのだ。

私のせいでリリーを苦しめてしまったのなら、私がこの子を守ろう。

改めて、そう決意した。




「魔女様、ずっとここに居てもいいですか?」

不安そうな顔でリリーが問う。

「ええ、もちろんいいわよ」

「貴女達も、しばらくはあの街に帰れないでしょ」

「私も、居てもいいのですか?」

「あたりまえでしょ、レイナ」

「あっ!魔女様ずるいです!私も名前で呼んで下さい!」

「まあ、気が向いたらね」

その後もワアワアと騒ぐ子ども達の傷を癒し、食事を作って、ベッドで寝させた。


私の命に終わりが無いのなら、少しくらいこんな賑やかな生活があっても良いだろう。

私が魔女だと知っていて、それでもなお私を慕ってくれる子ども達。

私の故郷ではあり得なかった、幸せな夢。

こんな夢は、目が覚めたら終わってしまうのかもしれない。

初めて死を感じた、あの時のように。



夜が明けて、子ども達が目を覚ます。

「ねぇ、魔女様」

「これからどうしよう」

「先の事なんて私にも分からない、というか知りたく無いわ」

「とりあえず今日は、少し散歩でもしましょうか」

「やったー!」

「レイナも行きましょ」

「はい!」

「またレイナばっかり…」


家を出て、少しだけ森を歩く。

湖畔の近くに着くと、綺麗な青い花が咲いていた。

湖の青と花の青が、太陽に きらめいてとても美しかった。

「ねぇ魔女様!」

「あの花は何て言うんですか?」

リリーが青い花を指差して言う。

「あれはワスレナグサよ」

「ワスレナグサ?」

「ええ、ある騎士が死に際に愛する人に送った花」

「その騎士の最後のことばが『俺を忘れないでくれ』だったからこの名前になったそうよ」

「なんだかロマンチックな花ですね!」

そう言いながら、リリーは数輪の花を摘むと、髪を結んでいたリボンで束ねて私に差し出した。


「私はいつか死んじゃいますけど、魔女様は私の事、絶対に忘れないでくださいね!」

いつもの穏やかな笑顔で差し出されたその花束を受けとる。

「……そうね、覚えておいてあげるわ」

なんだろう、この不思議な感情は。

体の中から、ポカポカと暖かくなってくるような、心地の良い感情は。

分からない……


そのままゆっくりと三人で散歩をした後、家に帰る。

「少し食料を取ってくるから、絶対に家を出ちゃダメよ」

「わかった?」

「はい!」

二人は元気よく返事をする。


さて、今夜はちょっとだけ、多めに取ってこようかしら。

そんな事を考える私の上では、リリーに初めて話した時と同じ、妖しい満月が浮かんでいた。






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