第6話 リリーと魔女様

その事件が起こったのは、リリーが16歳になった4月だった。

私はいつものように、街で恋人を探していた。

と言っても、ほとんどの人にはフラれて、今はただ街を歩き回っているだけになったけど。

そんな時、普段は穏やかな街の広場から、なんだか物々しい騒ぎ声が聞こえてきた。


「お前にはこのありがたさが分からないのか!」

「お前みたいな出来の悪い娘を、何のために育ててやったと思ってる!」

「あんたに選択肢なんて有るわけ無いでしょ!」

そんな罵声は全て、広場の中央に立つ少女、リリーに向けられていた。

リリーの隣に立つ友人のレイナは、必死に大人達をなだめようとしていた。

そんなレイナとリリーを、大人達は取囲み罵声を浴びせ続ける。

その大人の群れの中には、リリーの両親と思われる人たちも混ざっていた。


「ねぇ、どうしたの?」

「魔女様…」

「そうだ!魔女様からも説得してください!」

「この街から"国王"の妻が選ばれるなんて、とても栄誉な事なんです!」

「リリーが王妃になれば、この街は一生飢えずに暮らしていける!」

「リリー自信もその方が幸せだ!」

私の問いかけに、大人達が口々に答える。

そしてそれは、今の事態を理解するのに十分だった。


「私は嫌!」

「好きでもない人と、会ったこともない人と結婚擦るなんて、絶対嫌!」

「黙れ!」

反抗するリリーに、そう言って大人達は石を投げた。

投げられた石はリリーの額に当たり、鮮やかな赤が彼女の目に、鼻に、口に塗られていく。


ああ、なんて醜いのだろう。

私のような魔女があんな目に遇うならまだ分かる。

でも、ただの少女があんな風にいたぶられる必要がどこにあるのか。


大人達は石を投げ続ける。

それはリリーだけでなく、隣に立つレイナすら巻き込んで、自分達に従わない子どもが悪であると決めつけるように。

彼女達をなぶる石の嵐を見てなぜか、無傷の私の胸が痛む。

まるで杭を心臓に打ち込まれるかのような痛み。

ズキズキと、その痛みは広がって、

「やめなさい…」


私がそう言うと、投げられる石の全てが、少女達に届く前に砂に変わった。


「魔女様!」

大人達が驚いた顔で私を見る。

「なぜ邪魔をするのです!」

ああ、なぜだろう。


「貴女には関係無いでしょう!」

関係無いはずだ。


「その子一人で村が豊かになるのです!」

確かに、その方が幸せなのかもしれない。


「そんな子がいなくなったて、貴女に損は無いでしょ!」

そうだ、そうなのだ。

リリーがいなくなったからといって、私には関係ない。

このまま見捨てても良いはずだ。


そのはずなのに、

どうして彼女を見捨てようとすると、こんなにも胸が痛むのだろう。


私には、それ以上大人達の声は聞こえなかった。

ただ、傷ついた少女と、その友人の方を見て、

「帰るわよ…」

その場に居た全ての人が、驚いた顔をしていたのを覚えている。

最初に口を開いたのはリリーだった。

「はい!魔女様!」

「貴女も来なさい」

まだ戸惑っているレイナに声をかける。

「ありがとうございます、魔女様」


大人達には、私が子どもを拐う悪い魔女に見えただろう。

私を罵る声も、私を止めようと投げられた様々な物も全て無視して、私は家へと転移した。


小さな家に、二人の少女を連れて。


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