forget-her-not

宵埜白猫

第1話 木漏れ日に咲く青い花

人里から離れた森の中、木漏れ日の差す開けた土地に、その家はあった。

焼け落ちた家の残骸、長い時の中で誰にも触れられず草花が生い茂り始めたその場所に、どこか寂しさを感じさせる小さな青い花が、太陽に手を伸ばすように咲いていた。

この街に住む人なら誰でも知っている。

街を恐怖に陥れた魔女が残した花畑。

とても綺麗な、小さな青い花畑。


でも、そこに住んでいた人たちの事を、どれだけの人が知っているのだろうか?

なぜ、魔女がこの街に厄災を振り撒いたのか。

なぜ、魔女の家は焼かれてしまったのか。

そして、なぜここには毎年、この小さくて綺麗な青い花が咲き続けているのか。


誰も知りはしないだろう。

誰も覚えてはいないだろう。

なぜならあの時、知ろうともしなかったのだから。

誰も彼もが、目を反らしてしまったのだから。

別に責めているわけじゃない。

私だってその一人だ。

彼女を知っていて、彼女の事情を知っていて、それでも我が身可愛さにを見捨てたのだから。


だからこれは 贖罪しょくざいだ。

彼女が ゆるしても、私自身が赦せない、大きな罪への贖罪だ。


誰も忘れないように語り継ごう。

世界中ではなくとも、せめてこの街の中でだけは、彼女が忘れられる事の無いように。


今は焼け落ちた、森の中の小さな家で暮らしていた、優しい優しい"魔女様"の話を。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る