目先のボールを追いかけるなと学校で習わなかったか

 あれは多分、私が小学3年生の時だったと思う。

 体育の授業で、サッカーをやった。その時に、先生が言ったことを今でもなぜか覚えている。

「ボールがあっちへ行ったりこっちへ行ったりする間、目先のボールばかり追いかけちゃいかんぞ。落ち着いて、このボールはこのあとこっちへいくんじゃないか? と先読みして、自分がそこへ行くことも大事だ」

 確かに。チーム全員が皆ボールが今ある場所へ殺到などしたら負ける。ボールが今ある場所に近いメンバーに任せて、他のメンバーは二手三手先を読んだ先回りした動きをしてこそ、得点できる可能性が高まるというものだ。



 皆さんは、次に挙げる最近の二つのニュースの共通点が分かるだろうか。



①マイナカード、政府の見切り発車の不備が露呈し、国民は不安に

②BS番組のインターネット配信の予算化問題で、規則に反してNHKが配信を急いだ理由として、BS放送も見られる「衛星契約」の解約防止があった



 割と目立つのがこの二つというだけで、もっと小さなニュースや私が知らないものも含めれば、世の中にはもっと同じものがあるかもしれない。

 言うまでもないが、共通しているのは「目先のボールばかり追ってしまっている」こと。長期的・俯瞰的視点が欠けており、ただ目先の利益を追うばかりで、結果やることなすことが裏目に出て悪手となる。

 国の中枢に関わる仕事をするなど、生きるのにも精一杯な庶民からしたら「よほど頭がよくて有能なんでしょうねぇ」という人が就いているものだと思うじゃないか。無職の私でも小学3年の時点で「サッカーはボールの行く先々ばかり追いかけると負ける」ということを知っている。なぜ、そんな子どもでも知っている教訓を大人が生かせない? しかも「エリート」と呼ばれる国を動かす階級の人間が?



 まぁ、少しは事情も分かる。

 人と言うのは、個人個人だけにスポットを当てるとそれなりにいいところを見つけられる。平たく言うと「みんないい人」なのである。

 それが「組織」「集団」となると、個々人の人の良さなどまったく反映しない場合が多い。特殊な力学が働くので、組織全体ですることの結果は、残酷なものであったりする。「みんなで幸せになろう」という共生共栄の考え方からは程遠い、自分たちさえよければいいという方向性に舵が切られやすい。



●組織というものは、構成する個々人の人格とは切り離された「組織という名のまったく別の生き物である」と考えるほうがいい。



 ただでさえ「いい人ばかりの集団でも、集団となった瞬間問題が生じる」というのに、ましてやそのリーダーの考え方や人間の質が最悪だと、上乗せしてひどいことになるのは自明の理。

 確かに個々人は学力の高い、有能な人材なのだろうが、それがうまく噛み合っていない。利害関係が複雑で、全体として一枚岩で機能しないからだ。タイタニック号級の船になると、舵をきってからその動きにちゃんと反映するまでに数分以上かかる。なぜなら図体が大きすぎ、命令が機械を通じて実際の動きになるまでたくさんの過程をはさむからだ。もしそこで「不具合」など生じたら、いったいどこが悪いのか割り出すのは簡単ではない。



 河野大臣とかも、実は頭のどこかでは「こんなことになる」可能性に気付いていたかもしれない。でもあの人も大臣ではあるが裏を返せば政権の歯車のひとつである。歯車は、ただ動力を伝えられた通りにしか動けない。

 それ以外の動きをしたら、自分(とその家族)が危ないのかもしれない。

 頭のいいあの人がなんで? という場合は、たいがい「何かの圧力に勝てず仕方なく、脅されて」である。あなただって、自分の子どもが誘拐されて身代金を要求され「警察には言うな。言ったら殺す」と言われたら、その通りにしようとするでしょ? 最初から「これは犯罪だ。間違っていることは間違っているし、まず警察だ。それで子どもが死んでも、筋を通すためなら仕方がない」となる親がいるなら、逆に顔を見てみたい。



 みんな一生懸命生きているんだ。

 だから憎むべきは人ではなく、社会のシステムであり慣習であり、当たり前とされて動かすことすらしてこなかった常識だ。

 従うべき指針やシステム、慣れ親しんだ物事の処理の仕方を変えられないから、今ある面倒な世の中がある。

 この世界で成功や保身を焦れば、頭のいい人でも「目先のサッカーボールばかり追いかける」という単細胞プレイをやってしまうのだ。それが政府やNHKという組織の限界である。

 この世界を動かせる立場にある誰が、シシテムのまずさゆえ「もう限界にきている」ことを痛感し、変えていこうとしていけるだろうか。目先の利益にしがみついても、そう長くは持たないことを見通して。

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